22歳no顎髭
なぜ日本女子の多くは男の髭を嫌がるのだろうか。「清潔感」という理由だけで片付けていいのかさえもわからない。
僕はこれに対するささやかな反抗として顎髭を生やしてみた、という論はただの当てつけで、実際はただ生やしてみたかったから生やしただけだ。
髭のある自分も悪くない。そう思えてきていたところだった。なんだか周りの同世代とは違うような、少し大人になれた気がしていたし、髭が好かれない世界に対する反発みたいで気持ち良かった。
だけれどやっぱり反発はあった。みんなこれまで口にはしなかったけれど、周りの女の子たちは僕の髭に肯定的ではなかったらしい。遂には「汚い」とか「似合っていない」、「イケメンなら似合う」だなんて言われてしまった。
僕はこれにムッとした。しょぼんとしたのもあったけど、それ以上に「もっと生やしてやろう」と思った。だってなんだか、負けたみたいじゃないか。
そんでもって散髪に行ってきた。「髭の似合う感じにしてください」って。
その美容師さんは、きっと誰よりも僕の髪についてわかっている人。だから彼に言えば、この髭のある自分をより多くの人に受け入れてもらえるように整えてくれるだろうと思った。
そしたら美容師さんは丁寧に言葉を選んで言った。「まだ生やす段階じゃないのかもね」と。
どうやら僕の顎髭は口下にはあまり生えず、顎下で影を潜めてにょろにょろと生えてくるタイプを今は保っているのだと。
言われてみれば、僕は自身の顎髭に鏡で見惚れるとき、いつも少し上を向いていた。だから立派な顎髭に見えていたんだろうけど、僕を正面から見てくれる人たちからすれば、それは顎の奥に得体の知れない髭を隠し持っているようにしか見えなかったのだろう。
だから生やしたいなら、もう少し口下の髭が濃くなってからにしたほうが良いと。
顎髭のことを真剣に考えてくれる人に言われたのであれば納得だ。たしかにこれを嫌がるのも、分かるような気がしてきた。僕はほんの少しばかり自分よがりだったな。
お互いの妥協点を探しに行こう。ひとまず今の僕にできる顎髭の形と、それに合ったスタイルにしてもらった。
「言われた通り」は変なプライドが邪魔するけれど、「言ってくれる」は大切にしたい。
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