見出し画像

人生100年時代という言葉が嫌いなんです

これは、私がまだ司法書士の仕事をしていたときに、決済立会で会った不動産会社の社長さんが言っていた言葉だ。

人生100年時代とはそもそも何か?

2016年に発売された『LIFE SHIFT』(リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著 池村千秋 訳)という本がある。

2007年に日本で生まれた子どもの半分は、107年以上生きることが予想される。
いまこの文章を読んでいる50歳未満の日本人は、100年以上生きる時代、すなわち100年ライフを過ごすつもりでいたほうがいい。

『LIFE SHIFT』リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著 池村千秋 訳

ここから「人生100年時代」という言葉が生まれたようだ。

この本によれば、100年生きることを前提すると、今までにはなかった新しい人生のステージが生まれ、働く期間も長くなることになる。これまで考えられていたより長い人生をより良く生きるためには、人生の設計と時間の使い方を見直す必要があるということだ。

さて、表題の「人生100年時代という言葉が嫌いなんです」の内容に戻ろう。

この発言をした不動産会社の社長さんは、元々優秀な不動産営業マンで、独立して不動産会社を経営していた。お客様からの信頼も大変厚く、都心にオフィスを構え、ビジネスは非常に順調のようだった。

ところが、ご本人としては、「あと10年早く独立すべきだった」という。企業といえるレベルまで自社を大きくしたかったようだ。単に「もっと儲けたいから」という理由かと思いきや、「そのくらいの規模の会社になることが世の中の役に立つことだから」だそうだ。人もたくさん雇用できるからとか…。(これを聞いたそのときの私、心の中で拍手喝采。どうやら私には不動産会社を経営している人への偏見があったようだ…。こういう考えの人もいるのですねぇ。)

「これからやればいいのではありませんか?」と言うと、

「残りの年数を考えると間に合わない。私は人生100年時代という言葉が嫌いなんです。いくら長く生きていても頭や体が動かないようじゃ仕方ない。頭も体もしっかり動くのはおそらくあと10年くらい(※当時この社長さんは50歳すぎくらい)。あと10年では、とても間に合わないから。」と返って来た。

ここまで話したところで決済の時間になったため、通常通りの流れで決済を終え、帰途についたのだが、帰りの電車ですっかり考え込んでしまった。

「頭も体もしっかり動く期間か…」

平均寿命と健康寿命

平均寿命とは「0歳における平均余命」のことで、健康寿命とは、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」のことをいう。
(参照:e-ヘルスネット

「頭も体もしっかり動く期間」とは、この「健康寿命」を指すのだろう。
平均寿命と健康寿命は11,12年くらいの開きがあるので、最新の平均寿命(男性81.05歳、女性87.09歳)から考えると、大体70代の前半が健康寿命といったところだ。

『LIFE SHIFT』の中の記載によれば、現在40代前半の私も100年ライフを過ごすことになる年齢の範囲内に入っているのだが、この場合の健康寿命はどのくらいになっているのか…。

問題は長生き すればアルツハイマー病、 癌、 呼吸器疾患 、糖尿病などの非感染性疾患を患いやすくなることだ。 複数の病気を同時に患う可能性も高まる。 いくつかの 「併存症」をもつ人が増えていくのだ。しかし 、誤解してはならない点がある。 確かに、 現在の50歳と80歳を比べれば、80歳のほうが 非感染性疾患や併存症を患っている人の割合が大きい。 それでも、時代とともに高齢者の健康が改善してきた結果 、今日の80歳は20年前の80歳に比べて病気を患っている人の割合が小さい。

『LIFE SHIFT2』リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著 池村千秋 訳

健康寿命も少しは長くなっているようである。
また最近では、アルツハイマー型認知症の新薬の承認がされ、投与が開始されている。

長く健康でいられる期間が長くなるならば、人生100年時代もそこまで悪くはないのかもしれない。

とはいってもやはり…。

人生100年時代と言われるようになり、さらに、医療の研究が進み健康である期間も少しは長くなるという。

とはいえ、全ての人がそれを享受できるわけでもない。もしかしたら自分自身には、頭も体もしっかり動く期間の残りがあまりないかもしれない。

いつその残りが尽きてもよいように、よりよく生きるために、自分がやりたいこと、やらなければならないと考えていることに集中する必要がある。やり残したことなどないように、今は先送りにしているけれど、いつか必ずやっておきたいと思っていることならばすぐにはじめたほうがいいだろう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?