張り込みの朝 2021/03/22
日記
・少し前、家から自転車で15分くらいの場所に謎の立て看板を見つけた。大きさはちょうど1メートル四方くらいで、赤や黄色などの目を引く色が木の板に厚塗りされている。そんな激烈な立て看板なので、もちろんなんらかのメッセージがあって設置されているのだと思うが、そこに書かれている言葉をどれだけ読み解こうとしても意味があっちこっちに逃げていき、真意を掴むことができない。人通りが多い場所ではないので、誰も気にかけないままずっと放置されているのだろうと、最近はもう存在を忘れかけていたが、この前、夜になってその場所を通りがかると立て看板は置かれていなかった。おや、撤去されてしまったのかと、その次の日のの昼頃に通りがかると、立て看板が陽の光を受けて激烈な色使いを輝かせている。
・もしや、誰かが毎朝設置しに来ているのか。人の身体がすっぽりと隠れてしまう大きさの板を毎朝運ぶ誰かがいるのか。気になる。どんな人が、どんな風にして運んでいるんだろう。別に写真を撮ってどうのこうのするとか、警察に通報するとか、話を聞きたいとか、そういうわけではない。単純に設置の瞬間を見てみたい。
・そういうわけで、今日は早起きをして、立て看板の設置者が現れるまで近くで張り込んでみることにした。天気は曇りで、北風の強い日ではあったが、こんなどうでもいいこと、すぐに行動しないと熱が冷めてしまう。7時に起きて、大した身支度もしないまま家を出た。立て看板を毎日設置するような人はたぶん朝が早い(偏見)。7時台ではすでに設置済みの可能性も十分にある。急がなければ。
・現場近くの駐輪場に自転車を止め、立て看板が置かれている道がよく見える橋の上まで早足で歩き、様子を伺うとまだなにも置かれておらず、人が通る気配すら感じられなかった。ほっとした……が、ここから張り込みがスタートする。イヤホンもなにも持ってこなかったので、ただ橋の下をじっと眺めて待つしかない。刑事でもあんぱんと牛乳を持っているというのに、私は朝ごはんすら食べずに出てきてしまった。お腹は鳴りまくるのを抑える。いまは我慢。コンビニへ行っている間に立て看板が置かれていたのでは早起きの意味がない。
・空腹を堪えて30分待った。誰も来ない。走ってコンビニに行き、パンを携えてまた30分待った。来ない。でも、パンはうまい。さすがに1時間では来ないか……ともうしばらく張ってみる。が、一向に来る気配すらない。
・結局、2時間半ほど待ってみたが看板を持つ人は現れず、諦めて退散した。もう9時半近くで、人通りもそれなりに増えてきたというのに、そんな衆人環視の中で設置するのか。うーん。もしかしたら今日はたまたま休みだったのかもしれない……。また別日に時間帯をズラして行ってみようかとも一瞬考えたが、もう面倒くさいのでやらん。立て看板なんかどうでもいいわ。二度寝させろ。
・今日得られた成果、橋の欄干にシワッシワのさつまいもが置いてあったのを見つけたことだけ。
・そういえば、前も変な立て看板のことを書いた気がする。
・書いてた。1月か。割と最近だ。これに比べると、私の近所の立て看板のほうが色使いがもっとエキセントリックで、書いてある内容もより意味がわからないんだよなぁ。数字とかじゃなくて、よくわからない記号がズラッと書いてあったりする。
・こんなどうでもいいことでやたら長く書いちゃった。
・『レナードの朝』という映画を観た。看板なんてどうでもいいわ。
神経症患者専門の病院で新しく働き始めた医者セイヤーは患者と関わりあい、地道に研究を進めていくことで治らないと思われていた病気の治療にかすかな光を見出す。その後、治療法を探すなかで、セイヤーは本来ならパーキンソン病患者に使う新薬に目をつけ、30年間半昏睡状態のまま過ごしてきたレナードに投与する。すると、レナードは30年振りに目覚め、1人で動くことさえままならなかったのが嘘だったかのように劇的に回復し、自由に歩き、話し、活発に行動するようになった。レナードとセイヤーは患者と主治医という関係を越えた、友達同士として、レナードの失った時間を埋めるように、新たな世界を発見していく……みたいなあらすじで、実話を基にした作品らしい。
・Netflixのレコメンドに従って観始めたので、中盤辺りまでは、ちょっとナメてかかっていたのだけど、レナードが目覚め、外の世界に触れだした辺りから完全に引き込まれて、最後にはティッシュが山積みになるほど号泣してしまった。映画の感想で号泣とか書くとすごい安っぽいんだけど、これはマジだから仕方ない。久しぶりに純な涙が出た。
・ただ、最後まで薬の効き方に関しては嘘だろう……と思っていた。症状の改善があまりにも劇的すぎて信じがたかったから。しかし、調べたところ、作中で描かれている薬の描写はかなり正確らしく、特に脚色されていないそう。なんというか、なんというかだな。
・感想、涙と一緒に全て流れ落ちてしまったのでなにも書くことがない。
・なんか、映画とかで泣くことがあると、「泣いた」ということ自体が自分の中で大きくなりすぎて、涙が感想と取って代わってしまう。そんでもって映画の予告編とかでぼろぼろ泣くくらい涙もろいから、感想がどんどん死んでいく。
・まぁいっか。とにかく『レナードの朝』はいまのところ今年イチ良かったな……。あんまりあらすじとかを知らない方が楽しめると思う。