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子どもを育てる中で公的支出の恩恵をどれだけ受けられるか

昨今の少子化対策にかこつけて子ども(子持ち世帯)への支援を求める声が叫ばれている。しかしそもそも現状どの程度の恩恵を受けているのか具体的な数値が見つけられなかった。そこで政府が出している資料などを基に自分で計算してみた。結論としては、一般的には
2,671.7万円相当
国、地方自治体、保険組合から恩恵を受けていた。内訳としては次の通り。

  • 出産育児一時金: 50 万円

  • 出産手当金: 53 万円

  • 育児休業給付金: 193.7 万円

  • 育児時短就業給付: 18.1 万円

  • 幼児教育・保育費 + 教育費:  2,044 万円

  • 育児手当: 246 万円

  • 医療費助成制度: 66.9 万円

以下はこれら内訳に関する細かい調査結果である。

前提

子ども一人の3人世帯を想定し、子どもの出産前 ~ 保育園 ~ 義務教育 ~ 全日制高等学校までの期間に発生する公的支出について検討する。

出産育児一時金(or 家族出産育児一時金)

一部例外を除くと一般的には50 万円の出産育児一時金が支給される。母親が扶養者である場合にも家族出産育児一時金として同額支給される。また保険組合によっては数万円の付加金が足されることがあるが額が小さいためここでは考慮しない。

出産手当金

母親が被保険者の場合のみ対象。産前42日前〜産後56日の範囲内で会社を休み給与の支払いがなかった期間が支給対象となる。収入(標準報酬月額)により手当金が変動する。金額としては標準報酬日額(標準報酬月額÷30)の3分の2 * 支給対象日数となる。ここでは100日間すべてが支給対象で出産年齢分布のほぼピークである30歳女性のおよそ平均年収350万円†1(内ボーナスが60万円ほど)としたときの額を計算する。その場合、合計53.3万円となる(標準報酬月額24万円 ÷ 30 × 2/3 × 100日)。また、こちらも出産育児一時金同様に保険組合によっては付加金があるが同上の理由で考慮しない。

育児休業給付金 + 出生時育児休業給付金 + 出生後休業支援給付金

育児休業給付金は父母それぞれが被保険者の場合のみ対象(細かい支給要件は割愛)。出生時育児休業給付は父のみが対象で出産後8週間以内に4週間(28日)まで取得可能。出生時育児休業給付金は2025年4月1日以降に施行され、父母それぞれが対象になり、先述の給付金に足して最大28日間支給される。

合計の支給額収入と取得期間により幅がある。今回は父母ともにすべての給付金の支給要件を満たす前提とする。出産年齢分布のほぼピークである30歳の男性平均年収がおよそ400万円†2(内ボーナスが80万円ほど)、女性平均年収がおよそ350万円†1(内ボーナスが60万円ほど)とのことなのでこれをベースに考える。育休の取得期間については男性はおよそ平均である30日†3, 女性はおよそ平均である365日†4とする。育児休業給付金の支給額の計算式は最初の半年は休業開始時賃金日額 × 支給日額 × 67%。それ以降は休業開始時賃金日額 × 支給日額 × 50%となる。出生後休業支援給付金は育児休業給付金とほぼ同じ休業開始時賃金日額 × 支給日額 × 67%となる。出生後休業支援給付金は休業開始時賃金日額 × 支給日額 × 13%となる。これを基に計算すると父母それぞれで
父: 21.1万円 (320万円 ÷ 12 × 67% + 320万円 ÷ 12 × 28/30 × 13%)
母: 172.6万円 (290万円 × 6/12 × 67% + 290万円 × 6/12 × 50% + 290万円 ÷ 12 × 28/30 × 13%) 
となり合計: 193.7万円となる。
余談だが、育児休業給付は出産手当金と異なり収入に依らない上限額があり、令和6年から出生時育児休業給付が294,344円、育児休業給付が315,369円となっている†5。また受給上限を考えると父が出産後育児休業給付金を365日取得し、母が産後休業(8週間)後に育児休業給付の取得を開始し、パパ・ママ育休プラス制度を活用して子どもが1歳2ヶ月になるまで育児休業給付を取得することができる(また保育の都合で最大2歳まで延長できるが条件があるので割愛)。その場合に育児休業給付金を上限までもらえると仮定すると、およそ最大756.8万円(315,369円 × 12ヶ月 × 2人)ほど受給できる。

育児時短就業給付

2025年4月1日以降に施行される制度。2歳未満の子どもを養育している時短勤務者を対象に賃金額の10%を支給。子どもが1歳2ヶ月〜2歳までの間に母親のみ時短勤務を実施したものと仮定する。また女性平均年収からボーナス相当額を引いた290万円に75%を掛けたものを時短時の給料と考える。その場合に合計18.1万円 (290万円 × 75% × 10% × 10/12)が支給される。

https://www.mhlw.go.jp/content/11601000/001293213.pdf

幼児教育・保育の無償化 + 教育費

義務教育は親に課せられていることから通常であれば幼保や小中高の教育費も親に責務があると考えられる。幼稚園(保育園3歳児クラス)〜高校まで公立は完全無償化(高校は私立の場合も無償化)となっているため、税金などで建て替えている教育費も恩恵に与っていると言える。また3歳児クラス以前の保育園に関しても無論公費が投入されている。板橋区の平成 24 年度のデータ†6によると、園児1人にかかる費用と保護者の負担額の差額は次のようになる。この差額がほぼ公費で負担されている額だと考えられる。

  • 0歳児: 390,606 円 / 月 = 4,687,272 円 / 年

  • 1歳児: 185,372 円 / 月 = 2,224,464 円 / 年

  • 2歳児: 161,377 円 / 月 = 1,936,524 円 / 年

  • 3歳児: 93,320 円 / 月 = 1,119,840 円 / 年

  • 4・5歳児: 84,575 円 / 月 = 1,014,900 円 / 年

また、幼稚園時以降の費用に関しては令和元年のデータ†7によると在学者一人あたりの年間費用は次のようになる。

  • 幼稚園: 1,076,601 円 / 年

  • 小学校: 989,122 円 / 年

  • 中学校: 1,168,297 円 / 年

  • 高校(全日制): 1,231,128 円 / 年

今回の計算では1歳児から保育園に入園したものと考える。これを在園・在学年数で掛けあわせると

  • 保育園: 7,310,628 円

    • 1歳児: 2,224,464 円

    • 2歳児: 1,936,524 円

    • 3歳児: 1,119,840 円

    • 4・5歳児: 1,014,900 円 / 年 × 2年 = 2,029,800 円

  • 小学校: 989,122 円 / 年 × 6年 = 5,934,732 円

  • 中学校: 1,168,297 円 / 年 × 3年 = 3,504,891 円

  • 高校(全日制): 1,231,128 円 / 年 × 3年 = 3,693,384 円

となり合計およそ 2,044万円となる。

児童手当

0~18歳までの19年間に受け取れる。3歳未満までは15,000円/月で3歳以上からは10,000円/月もらえる。生まれ月は考慮せずに単純に計算すると、合計246万円(15,000円 * 12ヶ月 * 3年 + 10,000円 * 12ヶ月 * 16年)となる。

医療費助成制度

自治体により異なる†8が、簡単のため0歳から中学3年生まで小児医療費助成があることを想定。厚労省の平成27年度のデータ†9によると年齢階級別1人当たり医療費は次の通り。

  • 0~4歳: 22.3万円

  • 5〜9歳: 12.2万円

  • 10~14歳: 8.7万円

  • 15~19歳: 7.0万円

通常社会人であれば3割負担のため、これらの金額の3割分、公費から特別に援助を受けていると考えられる。これを計算するとおよそ66.9万円 (22.3万円 × 30% × 5 + 12.2万円 × 30% × 5 + 8.7万円 × 30% × 5 + 7.0万円 × 30%)の医療費助成があると考えられる。

まとめ

いままで挙げてきた金額を合計にすると2,671.7万円相当の支援が国・地方自治体・保険組合から受け取っていることが分かった。データが古かったり、そもそも門外漢で計算式が誤ってたりするかもしれないが大凡の額は外れていないのではないだろうか。人によっては保育園はともかく義務教育費まで含めるのはどうなんだと考えるかもしれない。ここは考え方の違いで参考程度にみてほしい。

参考文献

†1: https://doda.jp/woman/guide/heikin/age/2021/†2: https://talentsquare.co.jp/career/average-income-30-year-old/#:~:text=30%E6%AD%B3%E3%81%AE%E7%94%B7%E6%80%A7%E3%81%AE,%E3%81%AF314%E4%B8%87%E5%86%86%E3%81%A7%E3%81%99%E3%80%82
†3: https://www.sekisuihouse.co.jp/ikukyu/research.html
†4: https://jinzainews.net/26791444/†5: https://www.mhlw.go.jp/content/001281481.pdf
†6: https://www.city.fuchu.tokyo.jp/gyosei/kekaku/singikyogi/kosodate/kosodatesingi/kodomokosodatesingikai4.files/iinteisyutushiryo.pdf
†7: https://www.mext.go.jp/content/20211201-mxt_chousa01-000015855_3.pdf
†8: https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/3976243d-59c2-44cf-b488-6f350302be4e/c1be5199/20230927_policies_boshihoken_kodomoiryouhityousa-r4r5_06.pdf
†9: https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000096264.pdf

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