私は、死のまぎわに本を読んでほしいと思うのかな
朝日新聞土曜版(3月13日版)に、斎藤泰子さん(80歳)という方の話が載っていました。
内容は、ガンに冒された夫さんとの最後の数ヶ月についてでした。
斎藤さんの夫さんは、病状が日に日に悪化し、ついには大好きな本も読めなくなり、目も弱り、起き上がるなもやっとになったある日、泰子さんに対して、五木寛之の「大河の一滴」を読んでほしいとおっしゃったとのこと。
それからのようすを、泰子さんは、
それから毎日少しずつ読みました。「泰子の声は本当に心に染みる」「ありがとう」と言って、心待に聞いてくれました。そして20日かけて読み終えました。
と述べていました。
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私は、この文章を読みながら、私だったら、そんな息も絶え絶えの時に本を読んでもらいたいと思うだろうか。
もし、思ったとしたら、なにを読んでもらいたいだろうか。
そして、誰に?ムスメ?オット?
死の間際には、苦しいといっても心にしみいる本の一節を聞きたいと思うような余裕があるのだろうか。
このオットさんには80間近でも、大好きな本を読んでくれる妻がいて幸せだったなあ・・・。その年齢の頃には、だれもがそれをできるとは限らないなあ・・・・。
それに苦しい中でもちゃんと感謝の言葉を伝えるなんて、すごい。
泰子さんは幸せな気持ちになったことだろうなあ。
などなどいろいろな思いが頭をよぎりました。
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私の父は、昨年亡くなりました。
前日までは、どうにかこうにか独り暮らしができていた父でしたが、急に動けなくなり入院し、その日を境に全くしゃべれなくなりました。
意識はあって、こちらの言っていることはしっかりわかっているのに、とにかく声は出ず、しゃべれないのです。
じゃあ、静かに横になっているかというと、そうではありません。
しきりになにかを伝えようともがくのです。
死の直前に(今日明日の命ですと言われていました)、どうしても私たちに伝えようと思うことがある。私たち兄妹は、必死に聞き取ろうとしましたが、本当にわかりません。その時の父のじれったそうな表情・・・。
今日明日の命ですと言われた父ですが、それから一月あまり、一口の食べ物も水も飲むことができなない状態で生き続け、ずっとなにか言おうとしていました。
私自身は周りに誰もいないときに手を取って「お父さんありがとう。お母さんが早く亡くなって大変な中、精一杯いろんなことをしてくれたね。」というようなことを口に出して伝えました。
それが父にちゃんと伝わったのかは不明ですが、父は興奮したようすでやっぱり私に何か言おうとしましたが、聞き取ることはできませんでした。
言いたいことがちゃんと言えたらよかったのになあ。何を言いたかったのかなあ。今でも、父の写真を見てはそう思います。