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【YouTube】「のんき裁判」コメディアンの宝石箱 森繁はタモリの2倍凄い

【概要】


【配信期間】 2024/8/16(金)13:00~2024/8/30(金)12:59 

【解説】 1914年8月25日生まれ、新東宝作品にも数々の作品に出演された 笠置シヅ子さん生誕110年を記念した特別配信。 様々な大罪に関する珍裁判と珍判決を新東宝オールスターキャストで描くコメディ大作。 新東宝創立八周年記念作品。 笠置は弁護士役で出演。

【あらすじ】 人気スター小林桂樹と高島忠夫は、裁判所の前で車を下りた途端にファンのサイン攻めにあって中に入れず、 藤田裁判長は欠席裁判を始めたが、 証人台に立ったウェイトレスの安西郷子も舞妓の長谷川裕見子も二人の被告に首ったけである。 田崎検事はその影響を憂慮し、ハート窃盗罪で死刑を求刑する。

【スタッフ・キャスト】 脚本/川内康範、渡辺邦男 監督/渡辺邦男  主な出演/大河内伝次郎、藤田進、田崎潤、笠置シヅ子 
1955年公開 モノクロ・スタンダード 92分

(新東宝【公式】チャンネルの解説より)

本編↓


【評価】

新東宝チャンネルがまた面白いの出してきた。8月30日まで2週間の限定無料配信。

どこからツッコめばいいか、と戸惑うほど、見どころが盛りだくさん。オールスターキャストで、こんだけたくさん出てると、誰がどこに出てたと見つけるだけで忙しい。天知茂はどこに出てた?



とりあえず、笠置シヅ子、大河内伝次郎、榎本健一のような、戦前から活躍してきたスターのキャリアの最後の姿を見ることができ、高島忠夫、若山富三郎、森繁久彌のような当時の新人スターの勢いある姿を見ることができる。

今から見ると、戦前と戦後、日本のコメディ精神の継承と、新旧スターの交代を象徴するような映画で、さまざまな感慨を覚える。


とくに心に残るのは、安西郷子の可愛らしさ。

安西郷子。三橋達也と結婚して1960年に26歳で引退した。2002年68歳で没


安西郷子は、9月27日が生誕90年らしい。



それから、花柳小菊の色っぽさと、大河内伝次郎のコメディ演技と、最後の20分に登場する森繁久彌。


お色気担当。「悩殺罪」で告発される花柳小菊。時代劇ブームの終わりと共に1960年代に引退した。2011年89歳で没
若山富三郎に「儲かると税金が高うなるぞ」とアドバイスする役の大河内伝次郎。1962年、64歳で没
最後に真打ち的に登場する森繁久彌。当時42歳


この映画が公開された1955年は、森繁が「夫婦善哉」や「警察日記」で映画賞を席巻した年(ブルーリボン主演男優賞、毎日映画コンクール主演男優賞など)。

その旭日昇天の勢いの森繁が、最後はすべて持っていってしまう。

新東宝チャンネルとしては、「笠置シヅ子生誕110年記念」の公開のつもりらしいが、キャリアの終わりかけの笠置と、天才が爆発噴火中の森繁をくらべられるのは、笠置にちょっと気の毒ではある。

今では森繁は「大御所演技」でしか記憶されていないかも知れないが、この映画で、タモリみたいな芸風のコメディアンとしての森繁を楽しめます。


監督の渡辺邦男は、早稲田で浅沼稲次郎と左翼活動したあと転向し、戦後の東宝争議では「反組合」の反共右翼として活動した。面白い人だ。Wikipedia「渡辺邦男」には以下のエピソードがある。


日本が太平洋戦争に敗北すると、戦意高揚映画に関わった製作者たちがGHQからの厳しい追及と尋問を受けたが、ほとんどの監督が軍部に脅されて仕方なく撮ったなどの姑息な言い訳に終始する中、渡辺だけは「国を護るために撮った。自分なりのやり方で戦ったまでだ」などと主張、尋問に当たっていた米軍将校はすっくと立ち上がると渡辺に両手を差し出し「この国に来て初めてサムライに会った」と言いながら握手を求めたという。


その渡辺邦男と「月光仮面」の川内康範がつくった映画だから、ナンセンスななかにも、ピンと背筋が伸びていて、気骨がある。

最後は、森繁が「大演説」をうって、幕となる。


諸君! なんとむさくるしく、よたよたと歩きつづける日本という4つの島を見たまえ。人びとは何を求めているか。カネだ、家だ、名誉だ、権力だ。そう、みんな欲しいものばかりだ。しかし、世の中は不平等に満ち溢れている。裁くもの、裁かれるもの。叱るもの、叱られるもの。しかし、そういうときにあたって、諸君、一切をさっぱり忘れて、わたしたちは笑いたくならないかね。ふん、わたしは笑いたい。

森繁の演説シーン。山場なんだから、もうちょっと撮り方を考えて欲しい。「早撮り」で有名な渡辺監督ののんきなショット


この映画が公開された1955年は、サンフランシスコ講和条約で日本が独立したばかり、そして朝鮮戦争が始まったばかり。

日本がどうなるか、本当によくわかっていなかった。「裁かれ」「叱られ」て、「よたよたと歩きつづける日本」はその当時の実感だっただろう。

そんな中で、この映画では、戦中派たちの「日本は戦争に負けたけど、胸張って行こう」というメッセージが聞こえた。

新東宝の映画は一般に「B級娯楽映画」として批評家に相手にされず、この映画も評価されたという話は聞かない。

でも、わたしは感動して見ました。



<参考>


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