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若い人ほど、心優しいが、「頭がパー」になる説

最近の若者はーーと年長者が若者にケチをつけるのは人類の定番だが、現代の若者にかぎって例外的に評判がいい。


最近の若者は気を遣う。親切で優しい。礼儀正しい。聞き分けがいい。年長者をリスペクトする。個性を尊重する、など。

酒もたばこもあんまりやらない。服装もこざっぱりして清潔だ。いや、むかしは変な格好した若いのが多かったのよ。

むかしのように傍若無人で「大人に反抗するのがカッコいい」みたいなのがなくなった。

新宿の路上に座り込んでるのとか、闇バイトで銀座の宝石店に押し入るやつらとか、つねに例外はいるとはいえ、大多数はケチのつけようがない、ほとんど模範生だね。


そんな話を、きのう、居酒屋でおでんをつつきながら、同世代の60代が話していた。

私と、友人だ。


人に気を遣うのも本当で、お気持ちを傷つけないようチョー配慮する。

友人がこんな話をしていた。

ある芸術系の大学教授が言っていたが、最近の学生は、「お互いに作品を批評し合いましょう」と言うと、他人の気持ちを傷つけたくないから、黙ってしまうか、モジモジして歯に衣着せたことしか言わず、授業にならないらしい。


若い人のあいだで、イジメやパワハラのない、優しい世界が到来しているらしい。

うーむ、と2人は黙る。

つまらん。


若い女のコの店員が、追加のおでんを持ってきてくれる。

愛想がよくて気持ちがいい。

「ありがとね」と老人2人がニヤケつつも、再び黙る。


突然、

「若いやつはどんどんバカになっている、という説がある。知ってるか?」

と友人が言い出した。


こういう説だ。



現代人は「マルチタスク」に慣らされすぎている。

しかし、「マルチタスク」の能力は、人の集中力を奪う。


人間であれ動物であれ、集中力こそが「すごい収穫」を生み出し、精神をきたえて知能を伸ばす。

野性の動物が家畜化すると、脳が縮んで知能が落ちるという。集中力を使って生き延びる必要がなくなるからだ。


現代人は、集中することより、「マルチタスク」が得意になっている。

「マルチタスク」能力に拍車をかけたのは、「スマホ」だ。

スマホは、つねに人の注意を遷移させ、落ち着かせない。

同時に多くの機能を使え、ひとつのことに集中する習慣を奪っている。


人のお気持ちを気にする、というのも、「マルチタスク」だ。

人のお気持ちを傷つけるな、というマスコミの説教が効いたこともあるが、現代人は、このマルチタスク能力があるから、「気遣い」がうまくなっている。


2年前、あんなに話題になった「メタバース」が、ブームにならずに消えたのはなぜか知ってるか?

あれは、仮想空間の中で、複数の参加者のアバターが、お互いの表情や感情を読み取りあうためには、超絶複雑な演算が必要で、いまのテクノロジーで無理だとわかったからだ。

皮肉なことに、現実世界では、仮想世界で無理だった「気持ちの読み取り合い」というマルチタスクが「ブーム」になっている。


そもそも集中力が訓練されていないうえに、人を傷つけない「気持ちの読み取り合い」のマルチタスクで、人間のリソースが消費される。

そのため、知能は下がり、社会の生産性も下がっていくだろう。

優しい世界の究極は、みながマルチタスクに疲れ、共同体から退却して総引きこもり化し、生産性が限りなくゼロに近づく社会かもしれない。



うーん、なんか、こんな説だと思ったが。

お互い飲んでいたから、友人の論理はあやしく、私の記憶もあいまいだ。


だけど、私らのような年寄りには、若者がケチつけられないほど立派だというのはつまらない。

やっぱり、最近の若者はーーと愚痴りながら酒を飲みたい。

なんだかしらないが、彼らも、心優しいだけで、たいしたやつらではないようなので、よかったよかった、と酒をおいしく飲めた。











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