【Netflix】「ポストカード」インドとナイジェリアの「特別な絆」が分かる楽しいドラマ
<概要>
ポストカード
2024 | 年齢制限:13+ | 1シーズン | ヒューマンドラマ
精密検査を受けるために、インドを訪れたナイジェリア人のシングルマザー。そして彼女は、旅先で出会うすべての人たちの人生に影響を与えていく。
出演:ソラ・ソボワル、トビ・バクレ、ラジニーシュ・ドゥッガル
<評価>
5月3日に世界公開された30分×6回のミニシリーズ。
2020年のNetflix映画「ナマステ・ワハラ」でもインドとナイジェリアの関係を描いた、ナイジェリア人女性監督ハミシャ・ダヤニ・アフージャ(Hamisha Daryani Ahuja)の新作です。
夫に先立たれ、「たった一度の人生を楽しみ尽くす」と決めた享楽主義のナイジェリアのおばさんが、病気治療のため、インドに行く。
インドには、経済的に成功しながら、長らく音信不通の兄がいた。
いっぽう、彼女の息子も、ボリウッドでスターになるため、母親には内緒でインドに渡る。
そんなナイジェリアの変な一家が、インドで人生を変える出来事に遭遇するーーという話。
「ヒューマンドラマ」に分類されていますが、「ナマステ・ワハラ」同様、コメディ色が強いです。
ドラマとしてはいろいろ欠陥があります(最後に触れます)。
でも、独特の幸福感につつんでくれる、魅力ある娯楽作です。
「ポストカード」予告編
インド人はナイジェリア人をどう考えているか?
ナイジェリア人はインド人をどう考えているか?
なんてことを、ほとんどの日本人は考えずに一生を終わると思います。
でも、若い人は考えておいたほうがいい。
あと30年もすれば、この2国が世界を支配するから。
2050年に、インドは16億人で人口1位、ナイジェリアは4億人で、アメリカを抜いて3位になります。
2050年の「世界で最も人口が多い国」トップ10(かっこ内は2017年の推計)
1位: インド/ 16億6000万人(13億4000万人)
2位: 中国/ 13億6000万人(14億1000万人)
3位: ナイジェリア/ 4億1064万人(1億9089万人)
4位: 米国/ 3億8959万人(3億2446万人)
5位: インドネシア/ 3億2155万人(2億6399万人)
6位: パキスタン/ 3億694万人(1億9702万人)
7位: ブラジル/ 2億3269万人(2億929万人)
8位: バングラデシュ/ 2億193万人(1億6467万人)
9位: コンゴ民主共和国/ 1億9740万人(8134万人)
10位: エチオピア/ 1億9100万人(1億496万人)
出典:国連経済社会局人口部
そして、インドとナイジェリアには特別な絆がある。
この2国が手を組んで20億人。
両国は、いわゆる「非同盟運動(NAM)」で、戦後はずっと西側からも東側からも距離を置いてきました。
でも両国は、30年後には、いまの日米同盟とか、中国とロシアとかより、はるかに強力な同盟になりうるのです。
インドとナイジェリアの絆、といっても、日本人にはまったくピンとこないと思うし、わたしもパミシャ・ダヤニ・アフージャの映画を見るまではそうでした。
ネットで検索しても、インドとナイジェリアの関係を書いた日本語資料が見当たらなかった。
でも、英語のWikipediaにはありました。
インドとナイジェリアの関係(wikipedia)
とりあえず分かりやすいのは、いま現在、ナイジェリアの最大の貿易相手国がインドであり、インドのアフリカでの最大の貿易相手国がナイジェリアであること。
でも、それ以上の歴史的な因縁がある。
このドラマ「ポストカード」のなかでも、インド人がナイジェリア人に言います。
「仲良くしようぜ。同じ国の元植民地どうしじゃないか」
そう、同じイギリスの植民地どうしで、独立を励まし合った仲なんですね。
(いまも両国は、緩やかな連合であるイギリス連邦 Commonwealth of Nations の一員ですが、エリザベス女王死去後、英連邦も解体に向かいつつあるようです)
イギリスの植民地だったから、どちらの国の人も、英語が使える。言葉の壁がありません。
この両国は、エンターテイメント界でも、すでに世界的存在です。
現在、世界の3大映画産業の地といえば、
1 ハリウッド
2 ボリウッド(インド)
3 ノリウッド(ナイジェリア)
ーーです。
そして、「ボリウッド」と「ノリウッド」の交流が近年盛んで、インドにルーツをもつ、この女性監督パミシャ・ダヤニ・アフージャなどが、それを先導しています。
インドとナイジェリアの俳優が共演する、この「ポストカード」も、その一環です。
(なお、アフージャ監督は、女優として自分の作品に出演しています。「ポストカード」では、ボリウッドのプロデューサー役)
でも、インドとナイジェリアのあいだには、文化的ギャップもある。
ナイジェリアは、先に経済発展したインドからは、まだちょっと「差別」される位置にある。
それにたいして、ナイジェリアにはナイジェリアの、アフリカ人としてのプライドがある。決して「インドより下」とは見られたくない。
そういう葛藤や微妙な関係が、ドラマ「ポストカード」でも描かれます。
ドラマのなかで、インド人が、ナイジェリア人の振る舞いを見て、
「これだから後進国(the third world)は嫌だ」
と言うと、同じインド人から、
「あんただって、後進国の生まれじゃないか」
と、たしなめられるシーンがあります。
しかし、最後には両者は分かり合い、ハッピーエンドになる。
「ボリウッド」と「ノリウッド」に共通するのは、
「とにかく映画やドラマはハッピーエンドでなきゃいかん」
というところらしい。
だから、この「ポストカード」も、なんやかんやあって、最後は強引にハッピーエンドになる。
それがあまりに強引で、説明されていないことが多すぎる。
とくに終盤は、ストーリー上やキャラクター上の必然性を無視しているから、ドラマとして真面目に評価しようとすると、点が低くなります。
(同時に、結末には、西欧のリベラルな価値観に完全には染まらない、アフリカの家父長制の強さも感じます)
でも、映画やドラマは楽しくなければ、というのが彼らの信念なので、それを認めるしかない。
あまり難しいことは考えずに見るべきでしょう。
極彩色のインドやアフリカのファッション、ポップな音楽も楽しく、各回30分と短いので、気楽に楽しめます。
そして、楽しみながら、日本のマスコミが伝えない、世界の新しい潮流を実感できます。
なにより、彼らの「勢い」が、いまの落ちぶれたハリウッド映画にはない魅力を放射しているのです。
<参考>