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「フジ」「文春」「朝日」は80年代「悪ノリ」トリオだった

なんかさー、フジテレビは、80年代の悪ノリをそのまま引き継いでいるから、中居正広みたいな問題を起こした、みたいな論調がある。


「フジテレビは1980年代、バラエティーを中心に、人権や倫理など『建前』をひっくり返すことで視聴者に受けて、ヒットを連発した。現在の経営陣はこの時代の成功体験から抜け切れないまま、外との乖離が広がり、人権意識の変化を認識できていなかったのではないか」 (引用)
(朝日新聞社会部 2025/1/28)


オレは80年代を知っている。お前ら「朝日」だって、あの時代には「悪ノリ」してたぜ。


28日の読売オンラインにも「フジ記者会見、識者の見方…「80年代のノリのまま」」という見出しがあった(有料記事だから読んでない)。

誰か、メディア論の識者が、「フジは80年代のノリのまんまだからダメ」と言いふらしているのかもしれない。


いや、あのね、フジが80年代に悪ノリしてたというなら、文春だって悪ノリしてたし、朝日だってそうだった。

文春や朝日は、その悪ノリをいつ反省して変わったのか。オレは聞いてないいぜ。

前にも書いたとおり、悪ノリの悪ガキ仲間どうし、文春がフジを責める、という構図は滑稽なんだよ。


新聞では朝日新聞!

出版では文藝春秋!

テレビではフジテレビ!


これが、80年代「悪ノリ」三人衆だった。

みんな、忘れてるか、知らないんだよね。



思い出してほしい。

フジテレビの黄金時代は、1980年代から90年代前半だった。


この時期は、「週刊文春」の黄金時代とも重なっている。

花田紀凱(かずよし)が週刊文春の編集長になったのが1988年。

それから彼が1993年に編集長をやめるまでが、週刊文春が史上最高部数(70万部代)で、全週刊誌のナンバー1だった時代。

それはちょうど、フジ絶頂期を象徴する「東京ラブストーリー」(1991〜)や「101回目のプロポーズ」(同)の時代です。


最初の朝日の記事にある、

「(フジテレビは)人権や倫理など『建前』をひっくり返すことで視聴者に受けて、ヒットを連発した」

という部分、どっちかというと、同時期の週刊文春に当てはまる。

代表的なのは、最近も話題に出ていた、女子高生コンクリート殺人事件で、少年たちの実名を報道したことですね(1993年)。少年法で守られるのはおかしい、つーて。

編集部には勝谷誠彦なんかもいて、「人権」と見れば牙を剥いていた感じだった。

イケイケで「人権」を叩いていた。

それが今さら、女性の人権がーとか、言うんじゃないつーの。

いや、面白かったんだけどね。


で、1990年だったか、「週刊朝日」の編集長に穴吹史士(ふみお)が就任して、92年に西原理恵子+神足裕司の「恨ミシュラン」が始まる。

当時のバブル期の名残や言論の自由の隆盛期・・を象徴する作品であり、「当時だからこそ描けた」

云々と、wikipediaの 「恨ミシュラン」にあるとおり、当時の悪ノリを象徴するような連載だった。

なんだ、90年代で、80年代じゃないじゃないか、と言われそうだけど、上の引用にあるように「バブル期の名残」というか、80年代の集大成みたいな内容だった。


週刊朝日は1988年に、上野千鶴子の記事で「おまんこ」を見出しにして話題になったりした。

その週刊朝日に、松本人志が連載していたのを、もうみんな忘れてるんだよね。連載をまとめた「遺書」「松本」は、累計400万部の超ミリオンセラーになった。

朝日が松本人志を権威づけた、とも言える。


そして、その週刊文春と週刊朝日に、ナンシー関が同時に連載を始める(1993年)。

ナンシー関こそは、1980年代の悪ノリを批評に結実させた人で、SMAPとダウンタウンを激推ししたわけです。


当時、私はマスコミにいたけど、業界を眺めると、フジテレビ、週刊文春、週刊朝日の3者が、ひときわ異様に輝いていた。

「80年代のノリ」を極めたのは、あの3者だったと思う。


「別働隊」の暴走


面白いのは、フジテレビ、週刊文春、週刊朝日は、それぞれの「本体」あるいは「本隊」に対して、「別働隊」という印象があったこと。

つまり、フジサンケイの「本隊」は「正論路線」の反共右翼だけど、当時のフジテレビは、それと関係ないように振る舞った。

文藝春秋も、「本隊」の月刊文藝春秋や「諸君!」はタカ派保守だけど、週刊文春だけはそれと別のセンスで動いていた。当時の文藝春秋の雑誌の中では、週刊文春だけ女性読者が多かった。それで、女性の読者が増えると広告が増えることに気づいた文春は「クレア」を1989年に創刊する。

で、朝日新聞は左翼リベラルだけど、当時の週刊朝日は、それとは異質の存在だった。

だから、のちに、文春の花田紀凱が、朝日の出版局に引き抜かれる、ということも起こったわけで。


この3者は、いわば、80年代の「脱イデオロギーの面白主義」を象徴する存在だったわけね。

思想とか関係なく、面白いことをやっていたら、多少の批判や抗議を受けても、それを上回る好評を得て、広告費がどんどん入ってくる。

そういう時代の象徴でした。

とにかくカネになったから、「本隊」も文句を言わなかった。


「面白主義」の創造


この「脱イデオロギーの面白主義」で先行したのがフジテレビだった。

いま話題の日枝久と、その1年後輩の横澤彪、この二人(あとくわえるとしたら鹿内の息子)が、1980年代に新しい文化を作ったんだよね。

お笑いブーム、という。

「笑ってる場合ですよ」(1980〜)、「俺たちひょうきん族」(1981〜)、「笑っていいとも」(1982〜)など。

最近、日枝が「ひょうきん懺悔室」で、横澤の横で冷水をかぶってる動画が話題になったけども。

彼らが、ビートたけしも、タモリも、ひいてはとんねるずも、ダウンタウンも大物にした。


日枝が共産党員だったことは散々言われているけど、横澤もどっちかというと左翼で、フジサンケイなのに「赤旗」とかに登場して話題になった。

彼らが「脱イデオロギーの面白主義」をやり始めたのは、もともとフジサンケイの中で思想的に異質だったからだと思う。


彼らが入社したのは1960年代で、60年代の空気に親和的だった。

文春の花田、朝日の穴吹は、日枝・横澤より下だけど、団塊世代より上で、やはり1960年代に入社した人たち。

だから彼らは、全共闘世代の「面白主義」に抵抗がなかった。

『ガロ』1976年1月号「面白主義」宣言 togetter「面白主義の功罪と終焉」より


私は、「80年代のノリ」の本体は、このガロ的な「面白主義」だと思っている。

本来は、糸井重里とか、南伸坊などの団塊世代に象徴されるのが、この「面白主義」だ。

タモリ、北野武が、団塊世代です。

フジの日枝・横澤や、文春の花田、朝日の穴吹は、現場の決定権を握って、後輩の団塊世代に「面白主義」をやらせてみた人たち、とも言える。

(フジのいわゆる「ひょうきんディレクター」三宅恵介・佐藤義和らも団塊世代だった)


それが当たったのは、ちょうど昭和の終わり、冷戦の終わり、「高度成長」の終わりと重なって、イデオロギーに倦んだ人たちに刺さったからだと思う。

そしてそれが、上記のとおり、80年代前半の円安景気、80年代後半の円高景気(バブル)とも重なって、とにかくカネになったわけです。


フジ・文春・朝日だけではなく、世をあげて「悪ノリ」してたのが、この時代でね。

だから、フジの「悪ノリ」だけを責めるのは、不公平だし、問題の本質を外すと思うんですね。


80年代ノリの暗転


「悪ノリ」と言ってきたけど、景気のいい時は、別に悪くなかった。

羽目を外すのは、楽しかったですよ。

でも、バブルが崩壊し、90年代後半から、いよいよ景気が悪くなると、「悪ノリ」が本当に悪質になってくる。

いわゆる「90年代悪趣味ブーム」に接続していくんですね。

景気がいいときは、朝日がいう「人権や倫理など『建前』をひっくり返すこと」が楽しかったけど、景気が悪くなると、ただ倫理のなさだけが目立ってくるわけです。


文春の花田の面白主義も、週刊朝日の面白主義も、1990年代の半ばに、それぞれ「マルコポーロ事件」(1995年)、「虱(しらみ)の会事件と野村秋介の抗議自殺」(1993年)を起こして、頓挫する。


與那覇潤さんが1月28日のnote「フジテレビ・中居くん問題を生んだ「終わらない80年代」」で、以下のように書いていた。


当時から、どこに問題があるのかを、知的に考える人は知っていた。だけど今日に至るまで、どうすれば解決できるのかが、誰にもわからない。(中略)

すべてが楽しく、知的にキラキラして見えた80年代の終わらせ方を、私たちはいまも手にしていないのだ。


私は、1990年代のうちに、日本で何か倫理的な刷新がおこなわれるべきだったと思うんですけどね。

何か思想的な「革命」が必要だった。

でも、それは起こらなかった。なぜ起こらなかったのか、起こせなかったのか、はまた別の大きな問題です。


倫理的な刷新が必要だ、という動きは、保守にはあったんですよ。同時期のアメリカにもあった。

でも、それに抵抗し、それを潰したのは、朝日のようなリベラルだった。それはここでは書かないけど。


80年代の「悪ノリ」に乗れなかった真面目な人たちが向かった先が、たとえばオウム真理教ですよ。

だから、「悪ノリ」を楽しんだ我々は、みんなオウム真理教に責任があるんです。

それも含めて、フジテレビだけの問題ではない。與那覇さん言うとおり、1980年代は終わっていないんですね。


<参考>


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