カンボジア情報誌「NyoNyum(ニョニュム)」の休刊を惜しむ
カンボジアで発行されている日本語のタウン情報誌「NyoNyum(ニョニュム)」(隔月刊フリーマガジン)が、2023年10月号をもって、紙での発行を停止した。
以後はネットで情報発信していくというが、事実上の休刊だ。
「NyoNyum」ホームページ↓
「NyoNyum」は2003年創刊。現存するカンボジアの邦字誌で、いちばん歴史が長かった。
カンボジア邦字誌には他に、同じフリーマガジンの「Krorma MAGAZINE (クロマーマガジン)」がある。2006年に創刊、2019年にオンライン版に移行した。かつては季刊で、年2回発行の時期があり、今年の7月から隔月刊で再スタートしたようだ。
(タイと同様、風俗情報の媒体はいろいろあるかもしれないが、この2誌は健全で、その手の情報は載っていません。)
「NyoNyum」の発行人は、クメール語通訳・翻訳者として知られる山崎幸恵さん。
1972年生まれの山崎さんは、神奈川短大卒業後、青年海外協力隊員としてカンボジアに赴任。1996年にプノンペン王立大学クメール文学科に入学し、2000年に卒業。同大学で、外国人初の私費留学卒業生だった。
山崎幸恵さんプロフィール↓
山崎さんはnoteで、プノンペン大学時代からの自叙伝をつづっている。
「Krorma MAGAZINE (クロマーマガジン)」の母体は旅行会社だが、「NyoNyum」は、山崎さん個人の努力でつづいてきた媒体だった。
私は、カンボジアには何度か行って、そのたびに「NyoNyum」を手にとっていた。おもに首都プノンペンと、アンコールワットのあるシェムリアップで配布されていた。
偉そうな言い方で恐縮だが、カンボジア愛にあふれた内容とともに、しっかりとした編集で、感心した。
カンボジア人をスタッフに雇用し、コンポンチュナンの陶器の販売などもおこなっていた。日本人に観光情報を提供するだけでなく、カンボジアのために貢献したいという意図が見て取れた。
そして、単身カンボジアに根付き、クメール語を習得しただけでなく、こんな雑誌を発行している山崎さんは、すごい人だと思った。
山崎さんは、同誌の今年7月のコラムで、休刊へのいきさつを語っていた。
カンボジアでもオンラインショップやFacebookなどの広告枠を使って自社製品やサービスをPRするといったことが増えてきて、自然に紙媒体への広告掲載は下火に。それでも、まだまだ「やっぱり紙媒体で手に取って読める雑誌は貴重ですよ !」なんて読者の皆さんから声をかけていただき、それがうれしくて雑誌を発行してきました。
「紙媒体を続けるのか、デジタル化していくのか」を本気で考えさせたのは、「コロナ前→コロナ禍→コロナ後」という流れでした。コロナ禍では、「通訳・翻訳部門」「雑誌・情報部門」「ショップ部門」のすべてが90%以上の売上減(これは精神的にも参りました)。そして、オンラインで通訳の仕事が増えてくると、これまでこだわってきたものから抜け出し、発想の転換をする時期なのかもしれない、なんて考えがもやもやし始めたのです。
私が出した結論は、「ニョニュム20周年となる2023年10月号をもって、紙媒体の発行を休刊し、オンラインで情報発信を続ける」というものです。この場をお借りして皆様にお伝えさせていただきます。
(2023.7.1 ボンユキエッセイ No.125)
コロナではみな打撃を受けたが、「90%以上の売り上げ減」は、さぞ応えただろう。
昨日(11月27日)のX公式アカウントでは、最終号の山崎さんのコラムを紹介していた。
年齢的に半世紀を超えたこともあるし、ニョニュムの母体となる会社も20周年、自分の通訳・翻訳者としてのキャリアは25周年、そしてカンボジアと関わってからも来年で30周年を迎えます。
いろんな区切りを迎え、いろんな意味で「やり切った」と思っている自分がいます。自分で道を作り、枠を作り、休む暇もなくがむしゃらに動き続けてきましたが、そろそろゆっくりしたいなあという気持ちが強くなっています。(中略)
その時その時の “ひらめき” のようなもので動いてきたと思います。それは “パッション(情熱)” というのかもしれませんが、もちろんそういう自分を動かす力もありながら、どこかで自分に降りてきた使命のようなものも感じながら、カンボジアで30年を過ごしてきました。
(2023.11.20 ボンユキエッセイ No.127)
山崎さん、お疲れさまでした。
「NyoNyum」を読むのが、カンボジアに行く楽しみの1つだったのに、本当に残念だ。
実は、カンボジアで「NyoNyum」を読んだとき、日本の会社で定年になったら、こんな雑誌の編集で「第二の人生」を送れたらいいな、と夢見たこともあった。
ちなみに、「NyoNyum(ニョニュム)」とは、クメール語で「笑顔」の意味。
なんの役にも立てず、申し訳なかったが、山崎さんとスタッフの新たな旅立ちに幸多からんことを祈ります。