介護保険審査会とは?行政に意見を伝える方法
介護保険制度では、要介護認定や介護サービスの給付に関する行政処分が行われますが、市町村に設けられた介護認定審査会による決定に対して「納得がいかない」「不当ではないか」と感じることもあるかもしれません。そのような場合、介護保険法に基づき、不服申し立てを行うことができます。そして、その審査を担当するのが都道府県に設けられた介護保険審査会です。
介護保険法と行政不服審査法の関係
行政不服審査法は、行政処分に対する不服申し立ての一般的な手続を定めた法律です。しかし、行政不服審査法には「特別法優先の原則(行政不服審査法第4条)」があり、他の法律で特別の定めがある場合には、その特別法の規定が優先して適用されます。
介護保険制度に関する不服申し立てについては、介護保険法に特別の規定が設けられています。そのため、介護保険法は行政不服審査法の適用を受けつつ、介護保険に関する不服申し立てに特化した特別法として機能するものです。これらは行政訴訟法とは異なり、違法に止まらずに不当な処分も請求の対象になることが特徴にあり、費用を掛けずに、手っ取り早く行える手続きを目指して制定されたものです。
介護保険審査会における審査請求と認容の状況
介護保険制度において、市区町村が行った要介護認定や保険料の決定などの行政処分に不服がある場合、都道府県の介護保険審査会に対して審査請求を行うことができます。
例えば、愛知県では過去3年間(令和2年から令和4年)に45件の審査請求があり、そのうち17件(約37%)が認容、つまり審査請求人の主張が認められ、処分が取り消されています。
また、総務省が公表した「平成30年度 行政不服審査法施行状況調査」によれば、地方公共団体における審査請求の総数は27,950件で、そのうち介護保険関係の審査請求は2,516件(約9.1%)となっています。同調査では、平成30年度に処理が完了した審査請求11,074件のうち、認容された件数は751件(約6.8%)でした。
不服申し立ての具体的な手順
審理員は、請求人の意見と市町村の処分の両方を客観的に評価し、公正な判断ができるよう努めます。そのため、請求人は不服申し立てをする際には、できるだけ詳細な情報を提出することが大切です。例えば、診断書や介護サービスの記録、家族の証言など、客観的な証拠をそろえることで、審理員がより正確に事実を把握できるようになります。
また、審査請求をした後は、審理員や審査会の求めに応じて、追加の情報提供を行うこともあります。もし「どのような資料を出せばいいかわからない」といった場合は、都道府県の担当窓口に相談することも一つの方法です。
審理員の役割とは?
審理員は、審査請求があった際に、その内容を詳しく調査し、関係者の意見を聞き、審査会の判断材料を整理する役割を担います。たとえば、「要介護3と認定されたが、実際にはもっと重い要介護5の状態なのに正しく評価されていない」として、不服申し立てをするケースがあったとします。この場合、審理員は市町村が行った認定の経緯を調べ、申請者(請求人)や医師の意見、介護サービス提供者の記録などを総合的に整理します。
審理員が収集した情報をもとに、介護保険審査会が最終的な判断を下します。そのため、審理員の役割は「公平に事実関係を整理し、審査会が適切な判断をできるようにすること」にあります。実際には、市町村の処分が正当であった場合もあれば、請求人の訴えが認められて処分が変更される場合もあります。
審理員はどのように選ばれるの?
介護保険審査会における審理員は、都道府県知事が任命する職員の中から選ばれます。行政不服審査法に基づき、審理員には一定の法律知識が求められますが、介護保険に関する専門的な知識を持っていることも重要です。そのため、行政職員の中でも福祉や医療に関わる部署の経験がある人が選ばれることが殆どです。
審理員と介護保険審査会の関係
ここで大切なのは、審理員が最終的な判断を下すわけではないということです。審理員はあくまで「事実関係を整理し、審査会の判断をサポートする」立場にあります。最終的な決定は、介護保険審査会の委員によって行われます。介護保険審査会は、法律・医療・福祉の専門家(弁護士、医師、介護福祉関係者など)で構成されています。審理員がまとめた資料をもとに、審査会が公正な判断を下す流れです。
審査請求手続きの書面主義
まず、審査請求が受理されると、市町村は「なぜこのような認定をしたのか」を説明するための弁明書を作成し、審査会に提出します。この弁明書の写しは、請求人にも送られるため、市町村がどのような考えで認定を行ったのかを知ることができます。
もし、弁明書の内容に納得がいかない場合、請求人は「この部分は事実と違う」「この点をもっと考慮してほしい」といった意見を書いた反論書を提出することができます。この反論書によって、請求人の考えや状況をより詳しく審査会に伝えることができるのです。
その後、市町村側が請求人の反論に対してさらに説明を加えたい場合は、再弁明書を提出することもできます。同じように、請求人も、再び自分の意見を伝えたい場合には再反論書を提出することができます。こうしたやり取りが必要に応じて行われることで、双方の意見がしっかりと伝わるようになっています。
また、審査請求の結果が、ほかの人にも影響を与える場合、その人も意見を述べることができます。例えば、家族や介護サービス事業者が、認定の変更によってサービスの内容に影響を受けることがある場合、その人たちは「参加人」として意見書を提出することができるのです。こうした仕組みによって、関係するすべての人が意見を述べる機会を得ることができます。
このように、審査請求の手続きでは、最初に市町村が自分たちの判断を説明し、それに対して請求人が意見を述べ、必要に応じてやり取りを繰り返すことで、審査会がより正確で公平な判断を下せるようになっています。審査会はすべての書類を確認し、意見を考慮したうえで最終的な結論を出します。この仕組みによって、一方的な判断ではなく、請求人の考えや生活の実態をしっかりと審査の中で伝えることができるようになっています。
介護認定に納得がいかない場合
もし介護認定の結果に納得がいかない場合は、ただ審査請求をするだけでなく、その後のやり取りの中でしっかりと自分の意見を伝えることができます。自分の状況や気持ちを説明する機会が設けられていることで、少しでも納得のいく結果につながる可能性が広がります。
介護保険法の審査請求は、要介護認定や給付内容に納得がいかないとき、公正な審査を受けるための大切な制度です。本人・家族・ケアマネジャーが協力し、適切な証拠を揃えて申請することで、認定結果が変更される可能性があります。ケアマネジャーは日ごろから、このような不服申し立て制度の全体像を把握しておくのも良いかもしれません。