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中核症状とBPSD、医療と介護の役割
認知症の人における介護と医療のアプローチ、その役割の違いを考えてみます。認知症には主症状があり、そもそも型によって症状は多少異なります。認知症を大別すると、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症、血管性認知症、正常圧水頭症など様々な型があり、これらを総称して「認知症」とひとくくりにされています。
これらの病変の違いによって、認知症の中核症状は変わってくるものです。
認知症の主な型と主症状
●アルツハイマー型認知症
記憶障害、見当識障害、判断力や計画力の低下。徐々に進行する忘れっぽさ。認知症の全般症状。
●レビー小体型認知症
幻視、幻聴、認知機能の変動、パーキンソン症状、自律神経障害。認知機能低下が急激に進行する。
●前頭側頭型認知症
行動障害(法規などのルール違反や感情抑制の困難といった逸脱行為、同じ行為を繰り返す常同行動)、言語障害(話せない、意味が分からない)。初期には記憶障害が目立たない。
●血管性認知症
記憶障害、歩行障害、注意障害、感情の不安定さ。症状が段階的に悪化。
●正常圧水頭症
歩行障害、小刻み歩行、尿失禁、軽度の認知障害。一部の患者は手術で改善可能。
これらは脳器質の病的変性によって生じる症状なのですが、現代の医学において今のところ一般的には、不可逆的な性質を持つとされています。ただし脳の機能障害について、脳には大きな可能性が残されており、開拓余地も多いというような状況を考えれば、維持改善することも場合によって可能であると考えられるところです。
主症状とBPSD:医療と介護の役割
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役割分担としては、医療や薬剤の力が本領を発揮するのは、中核症状であるように思われます。認知症の行動・心理症状(BPSD)とよばれる中核症状に付随する周辺症状。妄想、幻覚、うつ、抑うつ、不眠、アパシー(関心の低下)、徘徊、焦燥感、介護拒否、暴力、暴言、社会的性的な不適切な言動などといったものは、環境によって改善することができる症状であるということです。
つまり、介護の役割はこのような部分にこそ真価が発揮される場面です。中核症状は医学的な関りや服薬による維持改善を行うことが期待されますが、周辺症状は非薬物的介入や日々の関わり合いの中から維持改善を期待することが出来るという訳です。中核症状≒医療、BPSD≒介護。このような役割分担が期待できるように思えます。
不安な気持ちを捉えて理解する
BPSDというものは専門用語で一見するところ分かり難い概念ですが、誰もが持つ不安や恐怖などに相当するものであると考えます。当然ながらこれらは、安心できる環境と関わりを保つことにより減少し、その人らしい生活を送ることが出来るという訳です。トイレに行きたいと思ったときに、スムーズな誘導が行えることで、その不安感を減じ、同時に小さな自己実現を達成することが出来ます。
トイレが何処にあるのか分からない。認知症であれば、このような問題点が確実に存在します。そのときに立ち上がり徘徊に繋がるかもしれませんし、まだトイレに行く必要は無いけれど、念のために探し回っているかもしれません。探しているだけなのに、それを止められれば不安感が増すのも当然であるということです。
小さなニーズ、されど大きな一歩
このような場面では、最初から分かり易い表示がされていること、一人でトイレにスムーズに行ける仕掛けがあること、またモジモジしているときなどに即座に気付いて優しく声を掛けてもらえること、そして定期的にトイレを済ませておくこと。そうした改善を通して、ニーズを満たすことが出来るのです。
そうして一見するところ小さな生活の中の困りごとを一つ一つ解消、改善することで、穏やかに生活することが出来るという訳です。これらの困りごとは言葉としてのニーズとして拾い上げることは往々にして出来ません。ところが、言葉を介する必要も無く、関わり合いの中で探すことの出来るニーズであるということを理解して介護にあたることが大切です。
五段階欲求、どれも重要な等価値。
私たちの職業においては勿論、アメリカの心理学者アブラハム・マズローが提唱したような「生理的欲求」「安全の欲求」「社会的欲求」「承認欲求」「自己実現の欲求」と高次の欲求に至る過程を考えていかなければなりません。しかし、日常生活における小さなニーズを満たすこと。これは決して疎かにしてはならないことを認識する必要があります。
そして、五段階欲求説における全てのニーズが"同等に尊重される価値のある欲求"であることだと考えています。BPSDと介護職員の関わりは、実に重要な要素であり続けます。たとえば徘徊を単なる問題行動と捉えるのではなく、声なき声であることを理解して関わること。まさにこれこそが、私の実践するべき介護の在り方なのです。