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"成功する政府と失敗する政府"から日本を考える
政府の失敗という言葉は、公共政策において重要な意義を持ちます。それと同時に大きな政府や小さな政府の議論においても必要不可欠な論点でもあります。これについてカルフォルニア大学の経済学者グレーザーとローゼンバーグは「成功する政府と失敗する政府」を著し、その違いについても述べています。
●効率的な資源配分:
政府は公共財やインフラに投資し、限られた資源を有効活用することが求められる。特に教育や医療、インフラ整備、住宅供給の質が重要となる。適切な課税政策や支出管理によって、経済の安定と成長が実現される。公共「投資」をしっかりと捉える事が重要。
●ガバナンスと透明性:
政府が透明性を持って意思決定を行い、汚職や不正を抑制する。市民が政府の活動に情報公開や市民参加の制度を通してアクセスできる仕組みが重要となる。そもそも情報公開は民主政治の根本になる。また外部環境の変化に柔軟に対応し、危機管理能力を高めること。
●市民の信頼とエンゲージメント:
市民の信頼を得る必要があり、政策決定において市民の声を適宜反映させる。市民との対話を通じて政策を柔軟に調整する。ノイジーマイノリティとサイレントマジョリティの存在など、どのように市民の声を適切に取り入れるかといった議論も必要になる。
●イノベーションと柔軟性:
時代の変化に適応する能力があり、新しい技術や政策を取り入れる姿勢がある政府。都市や地域の競争力を高めるためのイノベーションが奨励される。ただし過当競争などに陥らないようなバランスの取れた施策が必要。
社会福祉分野に焦点を当てると、政策の設計、運営、そして市民との関係性がカギになるということです。成功する政府は社会福祉政策について、社会全体の成長と安定に寄与する包括的な仕組みとして構築できています。社会福祉を必要としている人々を的確に支援する必要があり、適切な所得調査やデータ分析を活用して効果的な支援が行えるということです。
社会的弱者や低所得者層に対する支援は、給付という手段のみに留まりません。教育や職業訓練など多岐に渡る支援を通じて自立や自己実現を促進することが必要になります。ノーベル経済学者でもあるアビジット・V・バナジーとエステル・デュフロも「貧乏人の経済学」の中で述べていますが、給付のみで単純に貧困問題を解決することは出来ません。
この場合、いかに市民一人ひとりが責任感を持って政治経済といった社会活動に積極参加できるような環境を作り出せるか。その上で社会全体の生産性をいかに高めていけるのかが焦点になります。
また健全な社会福祉政策を実現するためには、財政の持続可能性が重要です。社会福祉政策が長期にわたって機能するためには、効率的な支出管理と健全な税制が不可欠となります。無計画で過剰な福祉政策は、短期的には支持を得られるとしても、最終的には将来の財政危機を招き負担を増大させます。必要な支援を継続できなくなれば本末転倒。一方、持続可能な財源確保を図りつつ、社会福祉に投資すること自体は、貧困や格差を緩和し、社会の安定、そして持続可能な社会を維持することに寄与するのです。
この場合、透明性と成果に基づく評価も成功する社会福祉政策の要件です。政府が透明性を持って政策を運営し、その効果を適切に評価する仕組みを整える。これにより非効率なプログラムや不正利用を防ぐことができます。そうして市民の信頼が高まり、政策への協力や理解も深まります。
また、社会福祉政策は決して政府の独断ではなく地域社会やコミュニティと連携する形で行われるべきであるとされます。高齢者や障害者、移民など、多様な背景を持つ人々が社会に統合されることは、政策の持続可能性を支える要素であり、社会全体の包摂性を高める役割を果たします。
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北欧型福祉国家として、公正な社会を実現しているともされるデンマークにおいては、国連が発行する世界幸福度報告書(幸福度ランキング)の2024年版で2位。政府の情報公開やアクセスに寄与する2023年度の"世界デジタル政府"ランキングでは3年連続で1位。国境なき記者団が発表する2024年の"報道の自由度"ランキングでは世界第2位。そして、総選挙の投票率は平均86%という高い投票率が維持されています。
また近年の治安悪化や所得格差、同化できないことで起こる言語や文化の違い、また社会政策全体のフリーライダーなど多岐に渡る問題から移民政策を非常に強力に抑制的な方向へ政策転換したことも知られています。すべてを一緒くたに考える訳にも行きませんが、これらと日本の状況を照らし合わせて統合した政策論を考えてみることも一つの方法論かもしれません。
一方で、失敗する政府は、社会福祉政策を十分に管理・運営できず、しばしば汚職や非効率な運営に陥ります。このような政府は、支援を必要とする人々に対して十分な資源を提供できないだけでなく、特定の利益団体や階層に政策を偏らせる傾向があります。その結果、貧困や格差が拡大し、社会の分断が進行します。
さらに、社会福祉政策が財政的に持続不可能である場合、支援が突然削減されるリスクがあり、これは受益者に大きな混乱を招きます。これによって社会全体の不安定化を増長。過度な福祉政策によって雇用インセンティブが失われるケースもあり、長期的には市民の自立を阻害し、依存を助長する恐れがあります。
これらを踏まえると、社会福祉政策の成功例としてはやはり北欧諸国が挙げられます。これらの国々では、教育、医療、雇用支援が一体化された包括的な社会福祉政策が実施されており、これが社会的包摂を促進し、国民の生活の質を向上させています。このような成功例は、グレーザーとローゼンバーグが提示した原則を具体化したものであり、社会福祉政策が効果的に機能するためのモデルケースといえます。
社会福祉分野における成功と失敗の違いは、政府がいかにして透明性、効率性、持続可能性を重視するかに大きく依存します。成功する政府は、これらの要素を慎重に統合し、社会の安定と成長を実現します。一方で、失敗する政府は、これらの要素を軽視し、短期的な利益や不透明な運営に陥ることで、社会全体に深刻な影響を及ぼすのだということです。
ただし租税負担率と社会保障負担率の合計である国民負担率はデンマークは大体約65%である一方、日本の国民負担率は大体約50%ほどになっています。これらの社会制度に対するコンセンサスなども含めて適当なバランスを議論していくことが必要です。この際に重要になるのは、やはり政府の国民に対する情報開示や国民の投票率がキーワードになるものと考えます。
今回は成功する政府と失敗する政府の条件を礎に、社会福祉の制度について考察してみました。デンマークの若者は投票率80%以上。我々の政治への無関心もまた、持続可能性のある社会を阻害する要因と成り得ますが、日本的価値観と政治的関心がどのように結びつくのか。今後とも大きな課題になり続けるようです。