「白紙の頁めくりめく」とは何なのか
こんにちは、カキレモンです。
さて、みなさんは「めくるめく」という言葉をご存知でしょうか。
少なくとも日常会話で使うような言葉ではないですが、一度くらいは耳にしたことがあるかと思います。
この「めくるめく」という言葉について、少し気になったので先日twitter上でアンケートを取ってみました。内容は次のとおりです。twitterで見なかった方は、続きを読む前に少し考えてみてください。
A. め+くるめく
B. めくる+めく
C. 分け方は場合による
D. そもそも「めくるめく」自体が日本語として正しくない
ちなみに、twitterでの結果は次のようになりました。
答えは目次のあと。
■春めく、ほのめく、めくるめく?
め‐くるめ・く【目×眩く】
[動カ五(四)]目がくらむ。めまいがする。「―・く心地がする」
Weblio辞書:デジタル大辞泉より引用
上に引用したとおり、漢字で書くと「目眩く」です。意味や字面から考えれば分け方は「め(目)」+「くるめく(眩く)」であり、答えはAということになります。
一方で「めくる」と「めく」に分けてもなんとなく意味を持ってしまいそうであり、そこはかとない説得力があるのも確かです。というのは、「めく」がいろいろな言葉の後にくっつけることができる接尾辞だからです。
め・く
[接尾]《動詞五(四)段型活用》名詞、形容詞・形容動詞の語幹、副詞などに付いて動詞を作り、そのような状態になる、それに似たようすを示す意を表す。「春―・く」「ほの―・く」「今さら―・く」「ざわ―・く」
Weblio辞書:デジタル大辞泉より引用
しかし上の説明を読めば分かる通り、動詞である「めくる」に「めく」をつなげることができません。一般的な口語文法にのっとって考える限りは、やはり「めくる」「めく」と分けて解釈するのはどうしても無理があるということになります。
twitterでは正しい回答のほうが少数派という結果でした。あなたは正しく答えられましたか?
■我ら、めくるめくファミリー
実はここからが本題ですが、「めくるめく」は分け方にとどまらず、様々な派生版が存在するようです。なんとなく歌の歌詞に多いような気がしますが、ここからいくつか見ていきたいと思います。
・めくりめく①
運命の采配は悪戯に
白紙の頁めくりめく
『Lost Princess』/ 作詞:しほり より引用
某アニメのOP曲の歌詞の一節です。本編を視聴したことはないですが、作曲者は田中公平さんなのでいい曲です。
これは「頁(ページ)」を「めくり」、というコロケーションが完全に成立しており特に他の解釈もできそうにないので、「めくるめく(目眩く)」本来の意味とは無関係と考えざるをえないでしょう。
そうなると後半の「めく」は意味的にかなり居心地が悪そうですが、歌なので語感の方が優先されているということでしょうか。確かに、「めく」を繰り返すことによって心地よいリズムが形成されているような気もしますし、実際の歌でも「めくりめく」というフレーズにエコーがかかって何度も繰り返されているので、そういう意味なのかもしれません。
・めくりめく②
めくりめく夏の思い出
それは君と
繋ぎ繋ぎ増えるページに
刻み込むよ
『めくりめく夏の思い出』 / 作詞:岩淵紗貴 より引用
MOSHIMOというロックバンドの曲です。これもいい曲です。
こちらの「めくりめく」は「思い出」に係っています。これは「めくるめく(目眩く)」本来の意味に対してコロケーションが十分に成り立っていると思うので、そちらの意味でしょう。
一方でそれに続くフレーズでは、「思い出」に対応する箇所に「ページ」という言葉が現れています。自然と「思い出」が本のようななにかであり、そのページを「めくる」というような動きも連想させます。
なんだかダブルミーニングじみていてオシャレですね。「めくりめく」と「繋ぎ繋ぎ」の対応も秀逸です。さらに終盤では「めぐりゆく僕の想いは」という歌詞になっていて、こういう言葉遊びも個人的にはとても好きです。
・めくるめくる
(ああ ゴージャスなゴールド
ソー コンシャスなコースト
めくるめくるパラダイスなら
ここでいいじゃない)
『Go Just Go!』/ 作詞:八城雄太 より引用
なにかのゲームのタイトル画面とかで流れていたりする歌です。個人情報特定されすぎピアニストではないですが、作曲者が田中秀和さんなのでやはりいい曲です。
これは…………少なくとも、文脈的には「めくるめく(目眩く)」の意味として使われていると見ていいでしょう。「(ページなどを)めくる」とは関係なさそうです。
しかし、「めくるめく」の「くるめく」は四段活用の動詞なので、最後に「る」がつくような活用は存在しません。手詰まりです。こまった。
1つの可能性として考えられるのは、特にJ-POPでは英語などの歌詞に対して、本来母音が入っていない場所にも母音を挿入して曲のリズムを成立させることがしばしばあります。例えば、この曲のサビの「Go Go Go Just Go Yeah!」の部分、"Just"は母音が1つしかないので本来1音節ですが、実際には母音を入れて「じゃすと⤴」と2音節で発音しています。
つまり、この「る」もその風習の一環として挿入されたと解釈すれば辻褄が合います。……いまアイマスって言った?
ちなみにこの曲ですが、イントロの「(Go! Just go! Just enjoy it!)」では"Just"の部分もきっちり英語と同じ音節数で歌っていたりします。トリッキーなことをしますね。
・本日の最優秀賞
1:02~あたり、サビの部分です。
WAKE UP! DESIRE(好きさお前が)
LIGHT UP! YOUR FIRE(好きさ死ぬほど)
目眩くってくれ PLEASE, PLEASE, PLEASE
『仮面舞踏会』/ 作詞:ちあき哲也 より引用
ジャニーズで一番ダンスがうまいと評される少年隊のデビュー曲です。作曲者はあの筒美京平さんなので、もう何も言う必要がありません。
これは何というか、文法とかそういうヌルいことをのたまっている場合ではないくらいの迫力があります。もし全国「めくるめく」歌詞選手権があったらブッチギリで優勝をもぎ取るでしょう。
作詞の方がどれくらい意図されたのかは分かりませんが、サビの盛り上がりのところに「めくるめくってくれ」と、4つもの破裂音を入れていることでより強いインパクトを与えている気がします。「めくるめいてくれ」では(文法的には正しいが)ちょっと軟弱な気がしますね。
■おわりに
「めくるめく」だけで結構な分量になってしまいました。そこらじゅうでゲシュタルト崩壊が勃発しています。
チキンなので保険をかけておきます。後半で文法的には「正しくない」ような歌詞をいくつかピックアップしましたが、それらを否定的に論じたつもりはありません。ことばの創作は作者の意思によって多少ルールを逸脱できるくらいには柔軟だろうという持論のもと、あえてその表現を選んだ作者にはどんな意図があったのだろうか、みたいな感じのニュアンスだと思っていただければ幸いです。
あ、でも「光年」を時間の単位として使うのは絶対に許さないです。これは個人的な信条として。
そろそろ3千文字になっちゃいそうなので巻きで。
それでは、(願わくば、)また。
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