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葉緑体を奪う悪の組織「モンシロチョウ」 - ボタニカル倶楽部

あいつらは遺伝子レベルで覚えている。

昨年、芽キャベツの苗をひとつ植えてみた。ボタニカル倶楽部の前身といえる状態で、今よりも無知だった。無知の塊だった。いや、無知のその前の概念の零知かもしれない。なんとなく庭の雑草を刈り取り、なんとなく芽キャベツの成長を見届けていたら、ひらひらとモンシロチョウがやってきた。光が降り注ぎ、草木の緑と湿った土の色を背景にした蝶の姿は美しいものである。

昆虫は元々大好きだし、自宅の庭に訪れる出来事は鉄腕DASHっ子にとって自然循環の何かが始まったのかとワクワクしてしまうほどだ。人間が侵略し続けた地球も、ジオラマ感覚で必要なオブジェクトを配置すれば、おもしろいように生き物は応えてくれる。いいぞ、もっとこい。退屈な日常、無情な仕事の隙間に、小さな命の刺激を与えてくれ〜〜。

そして1ヶ月以上の月日が流れた。

GW前後は出張の日々が例年続く。天気が良いシーズンは取材日和。晴れの日と雨の日では、2泊や3泊の取材ツアーや旅行のテンションはぜんぜん違うし、良い旅行の条件は快晴かどうかに8割左右されるもんだと思っている。

久しぶりに庭の様子をチェックしてみたら、芽キャベツの葉がほとんど消え去っていた。あそこにあったはずの輪郭がそこにない。マンガ表現の切り取り線で点滅するアレ。わずかに残った葉の裏側を見ると、キャベツそっくりの色をした小さなぷりぷりの芋虫がわんさかいた。仰天。アブラナ科の宴会がそこで行われていたようだった。はいはいはいはい、なるほどね。テレビで見たことがあるぞ。

あのときひらひらとやってきたモンシロチョウは、卵の産み場を探してたってわけだ。こんな結末を知らない俺はまんまと喜んで、自然循環がうんたらかんたらとポジティブシンキングに思いふけってたわけね。いいじゃん。いいじゃん。目先の判断でいえば芽キャベツを食い散らかされて、落ち込む人間の様子が画になるかもしれない。でもな、俺は自然循環の一端に立ったわけよ。芋虫に食われたほうがより貢献度は高いわけじゃないか。

いくらモンシロチョウが葉緑体を奪う悪の組織だったとしても、俺は憎まないよ。むしろお前らの大好きなイソチオシアン酸フェニルを庭に用意したのは俺だ。生きるために、種を残すために、本能のままに。目の前に置かれた好物を食わない手はないだろう。そこまではオッケーだ。

そこから俺は気持ちを切り替えて、毎朝起きるたびに残された芽キャベツにくっついた芋虫を探し出しては、人間と犬が歩き散らかすアスファルトの道路に投げつけるマシーンと化したのである。ぴっと捕まえて、ふんっと投げる。それぐらいじゃきっと死なないのだろうが、せめてもの抵抗だ。仕事相手だろうが、部下だろうが、友だちだろうが。俺の倫理観の一線を超えたやつは容赦しない。

2020年6月。水やりのシャワーを茂みに放ったら、驚いたモンシロチョウが4匹飛び立った。あいつらは遺伝子レベルで覚えている。今年も闘いが始まる。


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徳谷 柿次郎
1982年生まれ。全国47都道府県のローカル領域を編集している株式会社Huuuuの代表取締役。「ジモコロ」編集長、「Gyoppy!」監修、「Dooo」司会とかやってます。わからないことに編集で立ち向かうぞ!