ミリしら干し芋作り
さて突然だが、私は干し芋が好きだ。
休日に茨城県のアンテナショップに行って干し芋を買い込むくらいには好きだ。
理想の干し芋を求めて、近所中の干し芋を買い求めた日々を過ごしたこともある。
しかしそれくらいのことで、果たして干し芋が好きだと胸を張って言えるだろうか。
私は言えぬ。もっと干し芋への愛を昇華する良い方法はないものか。
----ああ、そうだ。私はまだ干し芋を作ったことがない。
柿地は決意した。必ず、かの素朴な甘さの干し芋を作り出さねばならぬと。柿地には干し芋の作り方がわからぬ。柿地は、村のインドアである。
干し芋を作ろうと思い立ったとき、既に体はスーパーに存在していた。意識だけが家に置き去りにされたのだ。
さつまいもというのは、実に品種が多い。
スーパーでさっと見ても、シルクスイートだの安納芋だの鳴門金時だのとあるのだ。
干し芋も様々な品種で作られているが、食べ比べていく中でも、私はねっとりとした食感の干し芋が好きなのだ。
というわけで紅はるかをチョイス。ラベルの「ねっとり・甘寧 熟成した味わい」と書かれていた。即決である。
賢明な人なら、ここで干し芋の作り方を調べるのだろう。
しかし、私に魔が差した。
干し芋作りをイチから攻略したい!
ミリしら干し芋作りのスタートである。
そもそも、加熱をしてから干すのか?干してから加熱するのか?という疑問がでた。
干すというと、イメージ的には水分を含んでいるものを、外気に晒すなりして乾燥させることを指すはずだ。
となれば、素の芋はそこまで水分を含んでいないように見えるから、茹でるなり蒸すなりして水分を含ませてから干すべきだろう。
よし、方針は決まった。早速芋を茹でてみよう。
芋をしっかり水洗いする。
そういえば芋はじっくり加熱したほうが甘みが増す、みたいなことをオレンジページだかレタスクラブだかで読んだことがある。いや、土井先生が言っていたかも。
とりあえず中火にかけて水から茹でてみることにした。
沸騰したら、弱火にする。じっくりなんて言うのだから30分は茹でるのだろうか。
うん、茹でればいいじゃないか。
茹で汁が紫色になってきた頃、Pさんが帰ってきた。
柿地は余念がないので、当然ダイソーで干し芋用のネットを買ってある。
私はネットをむんずと掴み、リビングに入ってきたPさんに押し付けた。
「なになに?!」
Pさんは狼狽えていた。私はすかさずカメラを起動してその姿を収めるのである。
「今干し芋作ってるから」
「この前干し芋買いに行ったのに?!」
「いや面白いかなと思って」
「確かに面白そうかも」
ほとんど意味のない問答を繰り広げつつ、私は茹で上がった芋を鍋からざるにあげた。
粗熱を冷ましたら、皮剥きの作業だ。私はこのようなチマチマとした作業があまり得意ではない。そこそこに不器用だからだ。
なので手先の器用なPさんが帰ってきたのは僥倖なのである。
とはいえ単純作業が好きなようで、黙々と皮を剥きはじめてくれた。私も負けじと皮を剥く。
4本を二人がかりで15分ほどかけて剥き終える。この時点で目的を忘れそうになるくらいに美味そうである。
私は干し芋作りの素人、やはりオーソドックスなスライス干し芋を作るべきだろう。
茹で上がった芋をスライスしていくのだが、結構難しい。薄切りにする必要もないのだが、切っているときにちょっと崩れたり。
崩れたものを試食。美味すぎる。本当に目的を忘れてしまいそうだ。
しかし、干し芋師匠は言う。
「つまみ食いが1番美味いよね」
もう一口だけ食べてから、干し芋師匠を窓から投げ捨てた。
結局好奇心に負け、一本だけスライスせずに半分に切った。厚ければ厚いほど、干し芋は美味いのだ。
そして最終工程の干すところまできた。
中途半端な時間に思い立ってしまったものだから、とっぷりと日がくれてしまった。
本当は日中外に出して干したかったが、仕方がない。部屋干しで我慢しよう。
翌日、快晴。
我が家は日当たりがすこぶる悪い。こんなんで果たして美味しくなるだろうか。
不安の余り、写真撮影を忘れる凡ミス。チキショー!
また翌日。仕事。
あっ!もし外出中に干し芋ちゃんたちがカラスに襲われたら…
不安なので部屋干しにする。俺は過保護な親か。
そのまた翌日。仕事。
いよいよ帰ったら食べよう!モチベーションは高まり、情熱に燃える。空回って普通にミスをする。
でも家に帰れば干し芋がある。めげない。これぞ結果オーライ。
帰宅。ネットから干し芋を取り出す。緊張の一瞬だ。
干し芋は黄金色のきれいな色をしていた。ちょっと感動すら覚えてしまった。
恐る恐る一口食べた。
おっ!ちゃんと干し芋になってる!
芋の素朴な甘みとしっとりとした食感。まさしく干し芋だ。
やや外側が硬くなってはいるものの、市販の干し芋に近い味わいが出せている。これは成功では?
半分に切ったものは焼いてみた。
ばっちり美味しい。Pさんも美味い美味いと食べている。
やはり薄くスライスしたものより、食べごたえや甘さが勝っている。そしてしっとりというよりねっとりとしている。
かなり理想に近い!大成功!ヤッター!
後日になって調べてみたら、工程はほぼ正解だった。チョロいぜ干し芋。(どうやら1週間干すパターンもある模様)
手間こそかかるけれど、工程自体はシンプル。そして美味い。冬だからこその料理。
季節を感じれるよい体験だったし、干し芋への造詣を深めることができたのではないだろうか。
Pさんはまじまじとネットを見る。
「ねえ、このネットどうすんの?」
「もう使わんだろ」
「ええ?!」
「干し芋なんて買えばいいんだよ!」
「なんてこと言うの!?」
おしまい。
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