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やる気教室第7話 休むのは努力



〈前回までのあらすじ〉

県内有数の進学校である岩晴(いわはれ)高校の1年生の成瀬波 成瑠(なせば なる)は、勉強のやる気がでなくて困り果て、学校の相談室へと足を運ぶ。

しかし、そこにいたのはネット麻雀をしてサボっている相談員のもぐちゃん先生だった――?

「やる気がでない人間のプロ」だと豪語するもぐちゃん先生の相談室に行き、なるはもぐちゃん先生からやる気の出しかたを学ぶようになる。



成瀬波 成瑠(なせば なる)
岩晴高校1年生。やる気がでず、勉強に手をつけられなくて悩んでいる。
1日の平均勉強時間は30分未満で、課題を〆切までにだせないこともある。
いちごミルクが好きで、一時期毎日いちごミルクを飲んでいた。


もぐちゃん先生
岩晴高校の相談員。「やる気がでない人間のプロ」を名乗っており、やる気のはなしをすることにやる気があふれている。
デスクワークのやる気がでず、相談室でサボっている。
最近はトゥルシーティーにハマっていて、仕事中に飲んでこころを落ち着かせている。




放課後、わたしは相談室で参考書とにらめっこしていた。
参考書を開いたはいいものの、そこからなにも進んでいない。

――問題を解こうとすると、あたまの奥がぎゅっとしめつける。
あたまが、問題を解くのを拒否しているみたい。


「はあ……今日はやる気でないなあ……」


すると、さっきまでアイマスクをしてデスクで寝ていたもぐちゃん先生がむくりと起き上がり、こっちを向いた。


「ふぁ~あ。よく寝た。

なる、顔が死んでないか。もうかれこれ20分くらいその状態だろ」


「はい。今日はとくにやる気がでなくて。もぐちゃん先生、こういうときになんとかする方法はありませんか?」


「なる、今日はもう家に帰って休んだほうがいい」


「え? でもわたし、今日はまだなにもやってませんよ?」


「わたしたちが生きててなにもやっていないということはない。今日だって授業を受けたし、人と一緒に過ごしただろう? そういうところで地味にストレスを感じている。

それに、日々の疲労は蓄積するものだ。昨日まで気を張っていたのが突然がんばれなくなることもある。

天気、特に気圧の変化や気温の影響で不調になることもある。睡眠の質も不調に影響する。女性だと生理の影響も受ける」


「でも、それでもみんな勉強をがんばっているんだし、わたしも勉強をがんばったほうがいいんじゃ……」


「なる、参考書を開いて20分経つのに問題に手をつけられないのは、不調のサインだ。脳が悲鳴をあげてるんだよ」


「うーん、でもなんか、サボっている気がして。勉強をがんばっているひとは、不調に左右されずに勉強してますよね」


「なる、それは逆だ。

たしかに学生のときならそういうがむしゃらなやりかたをするひとも多い。

しかし、大人になってからはむしろ、がんばりつづけられるひとは不調のサインが出たら、あるいは出るまえに休んでいるんだ。そういうサインを見過ごすと不調が悪化して、仕事や人生に悪影響が出ることが経験上わかっているからな」


「でも正直……自分の弱さに負けた気がして、悔しいです」


「そんななるには、いくつかの格言を授けてやろう。

まずは、この言葉だ。

『頑張るのは惰性、休むのは意志』

これは、発達障害の当事者の借金玉さんの言葉だ。『将来よくなりたいならいまがんばれ』とひとはよく言うが、借金玉さんに言わせれば『日々健康でいたいならいま休め』だそうだ。

しっかり休むことで、自分の心身をケアしてあげられる。休むというのはいかなるときでも優れた判断だ。休む決断は、ひとからは褒められないかもしれないが、立派な努力なんだ


「休むのが努力……! いままでの考えと真逆です」


「それともうひとつ。

これは、わたしが好きなゲームのセリフ。

『休むのは、花に水をあげるくらい大事』

わたしたちの心身にとっての水は、食事、睡眠、休養。
休むことは、わたしたちが生きていくのに必要なことなんだ」


「花に水をあげなかったら、枯れちゃいますもんね。
そう言われたら、休んだほうがいいかもって思えてきました」


「そう、だから安心して休んでいいぞ。休んでえらい」


POINT:
休むのは努力であり、生きるために必要なこと。休もう


「うーん、でもちょっと気になることがあって。

先生たちは、しきりに『勉強時間を増やせ!』って言いますよね。
インターネットで予備校の発信とかもたまに見ますけど、そこでも『限界を超えて努力しないと結果が出ない』みたいなことを言ってるような……」


「あー、あれは真に受けなくていい。先生や予備校がそう言う理由は2つある。

1つめは、受験という短いスパンであれば、無茶ながんばりかたができてしまうひとがいる。そういうひとを基準に努力量を語ってしまっている。

2つめは、これは言いにくいんだが……先生や予備校の講師たち自身が、身体を壊すような無茶な働きかたに適応してしまっている。先生たちは、自分のものさしで話しているんだ。無茶ながんばりかたなんて、しなくていいに越したことはないだろ?」


「なんか、大人も大変なんですね……」


「大人も大変なんだ。もぐちゃん先生のサボりは、この過酷な世の中を生きるための生存戦略だ」


(なんか、うまく言いくるめられたような……)


「さあ、わかったら帰った帰った! 帰って思う存分ゴロゴロしなさい」


「わかりました。わたし、”意志をもって”休んでみますね……!」


「おうおう。自分という花に水をあげてきなさい」


~今回のPOINT~
休むのは努力であり、生きるために必要なこと。休もう


参考文献





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