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トルメンタ〜相手と戦わずに勝つ方法~それは自分自身と他人への信頼で生まれた~

2021年12月28日~2022年1月10日まで年末年始をまたいで、第100回全国高校サッカー選手権大会が開催された。

先日の決勝では、青森山田高校が圧倒的な強さで優勝を決めたが、その大会の中で話題になっていたのが山口県にある高川学園の新しいセットプレーだ。サッカーは日本代表の試合を昔観に行ったくらいで、全く詳しくはないのだけれど、その新しい作戦にただ圧倒された。

その戦法とは「トルメンタ」。スペイン語で「トルネード、嵐、旋風」の意味だ。

フリーキックやコーナーキックの際、対戦相手はマンツーマンディフェンスで選手へつく。強い選手なら2人ディフェンダーがつく時もあり、そこではボールの攻防戦が繰り広げられ、観客としても緊張が走るところだ。

しかし高川学園の選手は、各々がゾーンを確保せず、コーナーキックを蹴る際に、フォワードの選手やミッドフィルダーの選手達は5人でお互いに手を繋ぐ。そして円陣を作り、手をつないだ状態でぐるぐる回りだした。

本来なら対戦相手はマンツーマンディフェンスしたいが、一体誰につけば良いのか分からなくなる。そしてただゾーンディフェンスをするだけになる。

そこでコーナーキックやフリーキックを蹴る選手は、その円陣の中にボールを入れるように蹴る。そうすれば、相手側がボールを取れず、そこから一気に攻撃へ転換できる、という戦法だ。

今まで見たことのないサッカーのセットプレーだが、サッカーのルール上でも規制や規範がなく、問題ないそうだ。

準決勝では敗退してしまった高川学園だが、そのエッセンシャル思考な戦法は、他選手だけでなく、スポーツジャーナリストも驚いた。

この「トルメンタ」が開発されたのは、果たして偶然だったのか?

高川学園は100名を超えるサッカー部だが、運営するにあたってそれぞれ部署制になっているそうだ。
部内にさまざまな部署を設け、それぞれの部署ごとにピッチ外での役割を与えた仕組みだ。トップチームの試合に出られない選手たちにも「自分も大事なチームの一員なんだ」という自覚を促し、個々の自立に繋げる狙いがあると江本孝監督は語る。

 この制度は、筑波大学蹴球部の取り組みをヒントに江本監督が2017年から採用している。学校や寮の敷地内、地域の農家に貸してもらった土地などで畑を耕し、農作業や育てた農作物で地域交流を図る「農業部」、来客者をドリンクなどでもてなす「おもてなし部」など、独自の形を作り出した部署は今では10を数えるという。

まず昨年の敗退から、守備陣を強化することにした。

「きっかけは昨年度の選手権の昌平戦でした。この試合でセットプレーの重要性を痛感させられたんです」

今回の“トルメンタ”は「強化部」と「分析部」が連係したことで生まれたアイデアだった。

しかしそれだけではない。守備陣を固める、その練習も欠かさなかった。

強化部や分析部が連係することで、主軸だけでなく大所帯の部員全員の意見を集めることができた。田代を中心としたメンバーがその情報を集約し、再びチームに還元する。週に数日はセットプレーの練習時間を設け、一列に並ぶパターンやニアに固まるパターン、ショートコーナーでのパターンなどトリックプレーを試した。

その中で、キッカーを務める北が「そこからどうやったら相手が困るセットプレーができるのかの話し合いが日常化していった」と変化を感じ取っていた頃、さらなるターニングポイントが訪れた。

選手権予選を控えた9月、いつものようにグラウンドでセットプレーの練習をしている時に、エース中山がいきなりこう提案した。

「何人かで手を繋いで、ちょっと回ってみようよ」

きっかけはエースストライカーの中山桂吾(3年)のアイデアだった。

突然の中山の提案に、キッカー北は「最初はふざけているのか、と思いました」と笑う。それでも田代やコーチ陣は「面白そうだね! やってみよう!」と尊重した。「トルメンタ」が生まれた瞬間だった。

そこからいろんなパターンの「トルメンタ」が考案された。

準々決勝の桐光学園戦での決勝点を叩き出した“トルメンタ”は、大会前に負傷し、出場が叶わなくなったキャプテン奥野奨太(3年)が提案したものだった。

出場ができなくなった時は悔しかったという。それはそうだろう、大会への出場、そしてキャプテンという立場で、チーム中心として練習を重ねていったのだから。

しかし彼は悔しさよりもチームのために考えた。そして、部員たちは奥野をベンチ入りさせたい、お互いの信頼がすべてチームのために、というそして一人一人のためにと力を発揮させた。

高川学園のサッカー部には、他には「生活部」「グランド部」「道具部」「総務部」「審判部」などがあり、それぞれが活躍して、お互いに意見交換等をしているという。一見、サッカーとして関係ないようなこともある、と思う人もいるかもしれないが、きめ細やかな配慮として、すべてチームのためにそれぞれ必要な部署である。

各部署は毎週ミーティングをして活動の振り返りとそれに対する課題を見つけ、リーダーが報告、子どもたちは自分たちからアクションを起こしていると言う。

日ごろから選手が責任を持って行動し、自分たちで考え、自主的に動いていることが、今大会ベスト4に残った高川学園の強さの本質だということが伝わってくる。

江本監督は言う。
「サッカー人としてある前に、社会に出て活躍する人間を目指す。そのためにサッカー部のテーマとして掲げているのが『目配り・気配り・心配り・言葉配り』なんです」

14年ぶりに準決勝まで登りつめた快挙は、江本監督が選手たちの性格や行動などを熟知し、適材適所で配置した手腕もさることながら、可能性を信じ、そして選手たちがそれぞれにかけがえのない1人1人だと感じられ、精神的に自立していること、それがチーム全体でお互いに思いやり、信頼となって、
例えベンチ入り出来なくとも、力が発揮できた大会だったのではないかと思う。
これは試合だけではなく、きっとこれからの人生でも生かされていくだろう。

国内では、人によってはこの「トルメンタ」について批判する声もあるようだが、「その奥にある、自他への信頼感、その心を知る必要がある」と思う。
これは、高校のサッカー部だけの話ではない、これが私たち社会で生きる上で、「トルメンタ」的な発想ができるかどうかは、自他共に存在を認め合う上での話だと認識する必要がある。

老いも若きも地球の未来人であり、お互いに手を取り合い、尊重し合い、認め合う、そういうことから常識を超えるアイデア、より良くなるための発想が生まれるのではないか。

お互いに手を取り合った時に、エゴ的な、ネガティブなものさえもはねのけ新しい発展的なアイデアが出てくるのではないか、
と思った。

つづく


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