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家事整理の実際02「置き場所のきまった家」

 スーパー主婦として活躍する井田典子さんが、著書『「ガラクタのない家」幸せをつくる整理術』で、「片付け問題」には90年前に答えが出ていると書いています。その答えが、『羽仁もと子著作集 第9巻 家事家計篇』に収録された「置き場所のきまった家」にあります。

置き場所のきまった家
 私どもは本気になって、めいめいの家の中を整理して、ガラクタなしの家にしましょう。そうしてその次にものの置き場所をきめましょう。どこの家でも大きな家具類は数が少なく、そのあり場所もきまっているのですが、座敷から台所にまで、数多くある小さい家具は、一々きちんと置き場所をきめて、家中の人が、暗闇(くらやみ)でも出して来られる、しまわれるというようにしておくことは、容易なことではありません。おなじ台所の中の道具でも、一つの鍋をあるときは上の棚にふせたり、下の棚に置いたり、仕事部屋の針箱の中から鋏(はさみ)を持ち出して、茶の間の火鉢の引きだしにちょっと入れておいたりするようでは、それはものの置き場所の定まらない家なのです。
 一家の主婦は第一に、どんなに小さい家具の一つでも、よく考えてその置き場所をたしかにきめて、家中の人びとにまたよくそれをそらんじてもらわなくてはなりません。家人のことごとくが、すべての家具の置き場所を知っているばかりでなく、また何を使っても、用がすんだらもとのところにちゃんとしまっておくという習慣と訓練ができていなくてはなりません。
 われわれの家からガラクタをすっかり淘汰してしまっても、置き場所をきめることのできない家は、やはり散らかってしまいます。
 まずなくても済んでいるところにもらった道具はどうしたらよいでしょう。たとえば一枚のお盆にしても、それがほんとうに気に入ったものならば、その日からそれを使って、古いお盆を物置きにでもしまって、このごろところどころで試みられるようになった安物市にでも出して、ごく貧しい家庭のためにする工夫もあるでしょう。また贈られたお盆を邪魔にならないところに、さっそく片付けてしまって、不用品のバザーにでも出すということにしてもよいでしょう。
 といってみると、お友だちが親切にくださったものを、すぐとそのまま不用品として出してしまうのは気の毒だと、まず私自身が思います。そうして決断しかねていると、いつの間にか、家中にかなり多くの人の厚意と、そうしてすてがたい趣をもったガラクタがふえてきます。
 散らかすまいと思っても、机のまわりが散らかってくる、それは何のためかと思ってみると、読んですぐとくずかごにいれるのに忍びないような気がする手紙と、返事をおくらしている手紙と、読みかけているうちに、ほかに急いで読まなくてはならないものが出て来て、そのままになってある書物、せっかくたのまれた原稿を返すのも気の毒であり、出す気にもなりかねて置いてあるようなものです。返そう返そうと思って忘れているものもあります。一言でいえば決断しかねることと実行しかねることのために散らかるのです。
 事務的に物ごとを処置することばかりに重きをおいて、友だちからの贈り物でもなんでも、さっさと不用品で売ってしまうような気持ちでなく、茶室のように家内をととのえておくということは、非常に大切な私たちの責任なのですから、忍びがたきをも忍んで、家の中になくてもすむものを決して一つも置かないように、はっきりと私たちの意志をきめましょう。たのまれた原稿は早くどっちかときめること、読みかけでも縫いかけでも別のほうにうつるなら、あきらめてひとまずしまっておくというようにすると、ほんとうに気がせいせいします。家の中の散らかることと整頓することとの、一つのわかれ路はまたそこでしょう。どうしても家の中を片付けかねるのは、じつはその心のうちが片付かないのです。
 片付かない家の中には、またいま一つの原因があります。それはちょっとしたことをしたあとを片付けないからです。羽織をぬいで置き放したり、新聞をひろげて、そのまま立っていったり、顔を洗ってあたりを水だらけにしたままであったり、食堂を半分片付けて、台所で洗いものをしていたり、そういうことで家の中が乱雑になります。
 どんなに小さい仕事でも動作でも、何かすればきっとあと始末がいるものという考えと習慣を、主婦自身と子供はもちろん、雇人にもよく徹底させなくてはなりません。
 幼児にこの訓練をほどこすのには、朝顔を洗ったあとで、楊枝(歯ブラシ)をきれいにしてしまうこと、手拭をかけたりすることを楽しみにさせること、おやつのあとを台所の台の上にちゃんと持っていかせること、毎日日ひ取どり暦ごよみをはがしても、くず籠かごに入れることをすぐとするように、本でもおもちゃでも出したら片付けること、そのほかに、大人でいえば戸締まりを見るような具合に、寝る前におもちゃ戸棚を見にいくことにして、ちゃんと片付いているのを見て、よろこんで寝るようにさせるのは、ほんとうによいことです。それで子供の片付け落としたおもちゃや、出しっ放しになっていた絵本は、大人が気のつき次第おもちゃ戸棚の前まで持っていっておいてやり、中には決してしまわないことです。子供が寝る前に行ってみて、おもちゃ戸棚の前にいろいろなものがあれば、忘れていたのだと気がついて片付けます。ものを片付けることを教えたいと思って、片付けないでおいてあるものをみるたびに、それまた何が忘れてある、それ何がといい、遊びに出ようとするたびに、本を片付けましたか、おもちゃを片付けましたかというのは、子供をこせこせさせるもとになります。幼児のときにこの習慣がついていれば、学校にいくようになっても、机のまわり押入れの中に気がつくでしょう。
 この置き場所はここにしよう、どんなことがあっても、ちがえてはならない。出しっ放しをしないようにということは、いろいろの訓練の上に大切なことです。忍耐と根気をもってしつけおおせなくてはならないのでございます。

羽仁もと子著作集 第9巻『家事家計篇』第6章「家事整理の実際 二 置き場所のきまった家」

 井田さんも、「モノに帰るべき場所を決めておくこと」、「面倒でも必ず戻す、という決心と実行を怠ると、やがて『とりあえずの家』ができてしまうのです」と著書に書いています。みなさんの家は、「置き場所の決まった家」ですか? それとも「とりあえずの家」ですか?


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