破戒僧
中学生の頃、修学旅行の一日目、僕は発熱した。
慣れない本州の冬の寒きに耐えかねた我が弱き体躯が、その健康たるを保つことを拒んだのだ。それからの僕は、発熱に留まらず、頭痛に腹痛、倦怠感と、幾つもの災いに襲われた。
死ぬ〜
、
しかしながら、僕の足は歩みを止めようとしなかった。
そう、どうしても見たかったのだ。
東大寺の、大仏。
「東大寺盧舎那仏像」
見たいよ〜
奈良公園に到着した際に撮った、クラスの集合写真には、しっかりと僕の姿も写っていた。顔はめっちゃ青白かった。
されども、
大仏を見るまで僕は、離脱するわけにはいかないのだ。
鹿が乾いた瞳でこちらを眺めている。この人間が何に苦しんでいて、それなのに何を求めて我々の前を歩くのか、その答えが知りたいなら、それは、僕は頭痛と倦怠感と腹痛に苦しんでいて、それなのに大仏一つを求めてお前らの前を歩くのだ。
絶対に〜
、
大仏を、見るぞ〜〜
、
そうして、修学旅行生御一行の目前に現れたのは、写真の上で見たことのある、巨大で、なにか荘厳なオーラを放つ建造物だった。
間違いねぇ。
この中に、大仏、いる。
「東大寺盧舎那仏像」
、いる。
はっきりと列を成した制服たちが、その木造のなにかの奥へと消えていく。僕もその一つとして、
、
空が見えなくなると、そこに、見えたのが、
「東大寺盧舎那仏像」
「東大寺盧舎那仏像」!!!
かっこいい〜〜〜!!!
思ったよりでかい〜〜〜〜!!!!
「東大寺盧舎那仏像」
、
かっこいい〜〜〜〜〜〜!!!!!!
と、大仏を見上げる僕は、なるべくそのパワー的なものを受け取れるように、一歩一歩をしかと踏みしめながら歩く。これはむこう一年、災い無しですわ。
と、
その時だった。
猛烈に、腹が痛くなってきた。
大仏を見てから、もう、猛烈に、腹が痛くなった。
猛烈に、痛い。
あ、
やべっ、
洒落にならねぇ。
歩行すら上手くいかない。
刹那、養護教諭らしき人物から声が掛かる。
そうして僕は、修学旅行生御一行から、離脱した。
なんかあったかいもので腹を温めていたら直ぐに治ったので、あの凄まじい腹痛は、本当にシンプルな体調不良だったのであろうが、今になって僕は、この出来事について、一つの幻想を思い浮かべるのだ。
あの腹痛は、大仏の祟りだったのではなかろうか
、と。
僕は人間としてろくな部類ではないし、悪しき行為も、人並み以上には犯してきた。そのために、大仏は僕を見て、ちょっと考えて、
祟ることにしたのかも知れない。
僕が悪人だから、大仏は、僕を。
でも、これまで犯した悪いことに関しては、謝罪もしたし、反省もしたし、それ以上咎められることなんて、
あっ、
それで許されるのはキリスト教か。
仏教はだって、死なないと救われないもんな。
死なないと救われない。
生きているうちは、苦しくて、悲しいもので、故に人々は仏の教えを守り、仏に好かれてから死ねるように頑張って、そうして、極楽往生を目指す。
そして。
あの腹痛が、仏の祟りだとしたら。
じゃあ、今生における僕は、
仏に嫌われた、
破戒僧みたいなものなんだろうな。
「破戒僧」。
「破戒僧」、かぁ〜〜〜。
う〜ん、
おう、
上等だ、コラ。
全ての仏どもよぉ
、
かかってこいや!!!!
俺は、
「東大寺盧舎那仏像」に、
祟られた、
破戒僧なんだよ!!!
本気(マジ)で!