創造的に考える方法 / 考え続ける力(著)石川善樹
・ビジネスでは、細分化が進んでおり、どんな分野でもやり尽くされている。この中でイノベーションを起こすには、さらに違うことを考えなければならない
・松尾芭蕉に学ぶThink Diffrentの鉄則は、「新しくしてから質を高める」
・安宅和人氏の考える思考の核心は、「知覚」
上記は、「考え続ける力(著)石川善樹」に書かれている内容です。本書は「創造的に考えるとは何か?」をコンセプトに、著者が考え、達人たちの思考法を掴み、また考えるという一連の流れを本書で再現されています。
本書で提示されるのは、「考え続ける力」の方法論ではなく、「考え続けている著者の姿勢」だと感じました。しかし、著者の考えや紹介される豪華な5人の達人の内容は「創造的な思考法」の学びになると感じました。
前書の「問い続ける力(著)石川善樹」の続編というよりも、「創造性とは?」というコンセプトの本になっています。前書を読んでいなくとも、イノベーションや創造性に興味があれば、とてもおもしろく読める本となっていると感じました。
創造的に考えることの難しさ
本書では、創造的に考える = Think Diffrent としています。
著者は、日本にいたときは、「Think Diffrent なんて簡単!」と思っていたそうです。日本人の多くは、周りと同じことを考え、同じように行動するため周りと違うことを考えることは簡単だったようです。しかし、海外に留学すると、周りの人たちの考えることは、バラバラであり、少しくらい変わったことを考えてもそんなに変わらない状況に置かれてしまいました。
著者は、昨今のビジネスの状況も、上述された留学体験と近い状況ではないかと考えています。ビジネスでは、多くのサービスの細分化が進んでおり、どんな分野においても、多くのことがやり尽くされています。その中で、イノベーションを起こすには、既存の延長ではなく、今までとは違った新しい軸を見つけなければならない難しさに直面することになります。
余談ですが、「Think Diffrent」は、Apple のプロモーションのキャッチコピーとして有名です。Apple のコマーシャルで取り上げられた人物は、アインシュタイン、ボブ・ディラン、キング牧師、リチャード・ブランソン、ジョンレノン、バックミンスター・フラー、エジソン、モハメド・アリ、テッド・ターナー、マリア・カラス、ガンディー、アメリア・イアハート、ヒッチコック、マーサ・グレアム、ジム・ヘンソン、フランク・ロイド・ライト、パブロ・ピカソという20世紀に活躍した17人が取り上げられていました。その映像は、白黒映像で構成されていますが、今見ても色褪せないかっこよさがあります。
下記は、スティーブ・ジョブズの声でナレーションされています。
松尾芭蕉のThink Different を分析する
本書では、日本のなかで、最もThink Different した人物として、松尾芭蕉があげられています。これは、MITメディアラボのセザー・ヒダルゴ氏が考案した「ヒストリカル・ポピュラリティ・インデックス(HPI)」という指標を使って計算されたものです。算出方法は、Wikipediaが、何ヶ国語に翻訳されているか?どれくらいのPVがあるかという二点を計算して歴史上の人物の影響力を点数化したものです。
日本人では、1位 松尾芭蕉、2位 織田信長、3位 昭和天皇、、と続くようです。トップ10の中にいる生存している人物は、8位 スタジオジブリの宮崎駿監督のみ担っています。
著者は、松尾芭蕉のすごさを分析しています。
松尾芭蕉は、貴族が詠んでいた「和歌」を日常的な俗な「俳諧」にアップデートし、その後「侘び」「寂び」を入れてアップグレードしていると分析しています。(下図)
引用:芭蕉に学べ。「日本的Think Different」の方法 / Business Network Lab
著者は、松尾芭蕉に学ぶThink different の鉄則を、「新しくしてから質を高める」としています。そして、「創造的なもの」も時間が立つと、「スタンダードなもの」になってしまい、またアップデートし、アップグレードし、創造的なものを生み出すという流れが繰り返されるとあります。
しかし、本書では、さらにこの永遠のトライアングルから抜け出す方法として、「能」を大成させた世阿弥を紹介し、世阿弥は永遠のトライアングルから逃れ、数百年残るものを創った「新しく質を高めたものを、あえて古くする」ということを、Think different の究極の奥義とくくっています。
この古くなったものにも創造的であるという考え方は、世阿弥の「年来稽古条々」にある50代を過ぎてからこそ手にすることができる「老骨に残った花」という考え方に通じるところがあるように感じます。
*「風姿花伝(著)世阿弥」も数百年前に書かれたものでありながら、学びが多い書籍なので、すごくおすすめです。
思考の核心は「知覚」
本書では、5人の「(全く異なる複数の分野で)何度も創造性を発揮している日本人の達人」と対談し、「なぜこの賢人たちは、全く異なる複数分野で、何度も創造性を発揮してこられたのか?」というHow を掘り下げた内容になっています。
私は、「シン・ニホン」「イシューからはじめよ」の著者である安宅和人氏との対談は、考えるということについて、たくさんのキーワードが得られたと思います。
安宅氏は、思考を「入力(インプット)を、出力(アウトプット)につなげること」だと考えています。そして、このインプットとアウトプットをつなぐ能力を「知性」としています。
安宅氏は、思考は、「入力」「処理」「出力」の3つのステップで成り立っているとしており、「処理」を「川上」「川中」「川下」の3つに切り分けています。(下図)
引用:石川善樹 × 安宅和人(ヤフーCSO)|身につけよ! 人生100年時代における新しい「教養」_#2 / HILLS LIFE
インプットとは、例えば、画像や音声、文字など、外部からの刺激になります。アウトプットとは、思考の結果ということになります。
処理の中にある川上は、画像や音声、文字といった情報を「理解」することです。「音声」や「文字」という取り込んだ情報からそれらの単語や文章として理解をします。川下は、グルーピングや切り分け、問いの設定、車の運転などになります。川中は、川上の情報を統合し、環境全体の理解や複合的な視点での見立てなど、情報が入り組んでいる場合に、川上の情報を統合し、メタ化した意味合いを得ていくプロセスになります。
安宅氏は川上と川中に当たり、入ってくる情報からイミを理解することである「知覚」が、思考の核心としています。
「思考」を論理的に分解されると、たしかに、安宅氏の言う通りの形になると思います。私たちが創造的に考えられるか否かは、現在の情報にアクセスしやすい社会においては、その情報をどう「知覚」できるかが重要になってきます。インプットとして、同じ情報を見たとしても、そこにどういう「イミ」を見つけられるかは、個人の処理機能に影響されるからです。
では、どうやって処理機能である「知覚」を創造的 / Think Different にするかは、本書での濱口秀二氏との対談がとても参考になるかと思います。
濱口秀二氏の対談内容は、「SHIFT:イノベーションの作法(著)濱口秀二」で語られている内容になりますので、こちらの本を読まれることをおすすめします。
おわりに
本書では、安宅和人氏、濱口秀二氏、大嶋光昭氏、小泉英明氏、篠田真貴子氏と対談されていますが、どれも興味深い対談ばかりです。
それぞれの章ごとに考えさせられる内容になっていますので、「創造的に考える」たいと感じている人や、考えることが好きな人には、ぜひおすすめな書籍です。
また過去に読んだ本も、今回多く紹介させてもらいましたので、過去の記事のリンクも掲載しておきます!
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