日本初のヴィーガンコンビニ&ファミレス VEGAN STORE主宰・鈴木翔子さんインタビュー(その2)
2019年12月3日にオープンした日本初のヴィーガンコンビニ&ファミレス、VEGAN STORE。運営元であるglobal meets合同会社代表の鈴木翔子さんは「介護業界に就職した後も何かと食に関わる機会が多く、気がつけば介護と飲食の二足のわらじで仕事をするようになっていました」と言います。オーナーとして多忙を極める中でVEGAN STORE の厨房で自ら調理もする鈴木さんに、どのような経緯でヴィーガンに興味を持ち、VEGAN STORE 開業に至ったのか、お聞きしました。
介護と飲食の二足のわらじ
「生まれ育ったのは茨城県ですが、振り返ってみると、食に関してはとても恵まれた環境だったと思います。祖母が畑で育てた採りたての野菜が当たり前のように日常にありましたし、釣り好きの父が釣ってきた魚は幼稚園生の頃から私がさばいていました。また、大人になってから介護士として働く中で心臓病や腎臓病を患う方たちのための病理食を作る機会も度々あり、食の大切さを身にしみて感じてきました」
「介護の仕事を始めた頃、お世話させていただいた明治生まれの女性たちから色々なことを教わりました。その方たちは、いわば日本の食の移り変わりを身をもって体験されてきたわけですが、『昔は魚は食べても肉は食べなかった。食事は野菜が中心だった』とおっしゃるんです。90歳、100歳になっても肌がツルツルで、毅然としていながらとても穏やかな方ばかりでした。元々丈夫な体質だったということもあるかもしれませんが、『野菜ばかり食べていても、こんなに素敵に年齢を重ねられるんだ』と強く印象に残りました」
「当時の私はその方たちにとってひ孫のような年で、まるで家族の一員であるかのように、とてもかわいがってもらいました。介護食は基本、薄味でシンプルな味付けをしますが、その年代の方は、うま味調味料が家庭に入ってくる前の時代をご存知なので、ちゃんとしただしのとり方を教えてもらったりして、とても勉強になりました」
「ただ、そうやって仲良くなっても、お世話した方々は亡くなっていきます。自分が何をしても次々と人が死んでいく経験をするというのは、私の年ではまだ早いのではないかと思って、一度、介護の仕事から離れることにしました。当時お世話になっていた方のつてでフランスに行く機会があり、観光ビザで90日滞在したのですが、驚いたのは、白人の国だと思っていたフランスにアフリカ人や中国人など肌の色も様々な人たちが大勢暮らしていたことです。そこで初めて移民の問題を知りました」
「帰国後は都内のジャズバーで料理をつくりながら歌う仕事をし、かけもちで介護の仕事も再開しました。私は資格と呼べるものは何も取得していないのですが、なぜか人に教えたり、運営を任されたりすることが多く、このときも4つの施設を運営するグループの施設長をやることになり、猛勉強しながら働く日々を過ごしました。30代前半に橋本病という病気になり、どんな食事が体調を整えるのに良いのか色々試してみたところ、野菜中心の食生活は非常に効果があることを身をもって実感したんです。それがVEGAN STORE開業のひとつのきっかけになりました」
ヴィーガンが持つ可能性
介護の仕事や海外での体験を通して、食と健康、高齢化、移民など様々な社会の課題に関心を持ってきた鈴木さんは、「世の中がヴィーガンに注目するようになってきた時代、ヴィーガンは単なる食の選択肢というだけではなく、そこからいろいろな可能性を広げていけるはず」と考え、昨年5月、VEGAN STORE を運営するglobal meets合同会社を立ち上げました。
「たとえば、VEGAN STOREの商品の中に、福島・会津のおばあちゃんたちがひとつひとつ手作りで作っている、本当においしいちまきがあります。たまたま会津地方の商品を販売するアンテナショップでみつけたもので、特にヴィーガンと謳ってはいませんが、材料はすべて植物性です。こんなにおいしいものなのに、小規模でやっているので大量生産して流通させることは難しいと聞きました。それだったら、VEGAN STORE で販売することで、多くの人たちにこのちまきを知ってもらいたいと思ったんです。このちまきのように、地元で採れるおいしい食材を使って地域の人たちが誠実に作っているローカルフードで実はヴィーガン、というものはたくさんあります。そうした商品も積極的に取り扱い、日本の地方を元気にするお手伝いができたらと思っています」
「VEGAN STOREはコンビニ&ファミレスというだけでなく、社会のニーズに応えるためのひとつの起点だと考えています。海外では、たとえばMiyoko's Kitchenというヴィーガンブランドが、ヴィーガンバターなどの材料に使うじゃがいもなどの生産を通して困窮している酪農家を支援しています。 日本でも、後継者不足などの理由により、農家は厳しい状況に置かれていますが、放置されている耕作地や廃業に追い込まれている酪農家をVEGAN STOREで提供する商品の食材生産という形で支援できないか、探っているところです。そうした農場で地元の高齢者を雇用したり、共働き家庭の子どもたちのための子ども食堂を運営したりすれば、地方の活性化に貢献することもできます。ヴィーガンを含めた食を通して、大勢の人たちの力も借りながら、お互いに助け合って、より良い世の中をつくっていきたいですね」
「地方だけではなく、VEGAN STOREがある浅草でも、シャッターが閉まっている店舗が目立ちます。そうした店舗をVEGAN STOREで販売する惣菜をつくる工場として活用すれば、シャッター商店街の解消に役立つかもしれません。おかげさまで、地元の方からも様々なお声がけをいただいており、ヴィーガンに興味がある飲食店さんへのご協力など、地元のためにできることがあれば積極的にやっていきたいと思っています」
動き続けるVEGAN STORE
VEGAN STOREではヴィーガン導入を検討している企業向けセミナーやプラントベースの万能食材・おからこんにゃく®の料理家・大滝敦子さんによるポップアップレストラン開催など、様々な企画が展開中です。今年4月20日からは、ニューヨークの日本食レストラン「有吉」1階フロアで、日本食のヴィーガンファミレス&居酒屋を一週間限定のポップアップストアで営業予定とのこと。ニューヨーカーが日本発のヴィーガン食にどのような反応を示すか、非常に楽しみです。
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