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『皮膚と心』太宰治 「理想の夫婦だよね」と、大人ぶって

○はじめに

このnoteは、まだ本を読んでいない人に対して、その本の内容をカッコよく語る設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『皮膚と心』太宰治

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【太宰治の作品を語る上でのポイント】

①「太宰」と呼ぶ

②自分のことを書いていると言う

③笑いのセンスを指摘する

の3点です。

①に関して、どの分野でも通の人は名称を省略して呼びます。文学でもしかり。「太宰」と呼び捨てで語ることで、文学青年感1割り増しです。

②に関しては、太宰治を好きな人が声を揃えて言う感想です。「俺は太宰治の生まれ変わりだ」とまで言っても良いです。

③に関しては、芸人で文筆家の又吉直樹さんが語る太宰治の像です。確かに太宰治の短編を読むとユーモアがあって素直に笑えます。


○以下会話

■夫婦愛が見れる小説

 「夫婦愛が見れる小説か。そうだな、それなら太宰治の『皮膚と心』かな。これはギクシャクした夫婦が、ある出来事をきっかけに関係が改善するお話で、特に奥さんが可愛らしくて微笑ましいんだよ。

『皮膚と心』は、28歳の奥さんと35歳の旦那さんの新婚夫婦が出てくるんだよ。35歳の旦那さんは、一度他の女性との結婚歴がある人なんだ。デザイナーとして有名な化粧品のデザインをしていて、それなりに高給取りなんだけど、学歴がないことにコンプレックスを持っているんだよ。そして奥さんの方は、父親を早いうちに失くして、母親と妹の女だけの貧しい家に育って、美貌もなく、若くもなく、結婚も諦めていたんだよ。独り身として生きようと思った矢先に、昔お世話になった人から今の旦那さんとの縁談を持ちかけられて、10代での結婚が普通だった当時としては、遅めの結婚をしたんだよ。

こんな「残り物感」のあるふたりは、離婚歴があったり学歴がなかったり美しくなかったり歳を取ってたりするから、自分に自信がないんだよ。だから仲悪くはないんだけど、どこかよそよそしい会話で、ギクシャクしていて、心の底から打ち解けられずにいたんだよ。そんな気まずい夫婦生活からこの『皮膚と心』は始まるんだよ。

奥さんは旦那さんに無邪気に可愛く振る舞いたいって思うんだけど、旦那さんの自信のなさが伝染して、余計にギクシャクして、すっかり他人行儀になって冷たく会話しちゃうんだよね。旦那さんは旦那さんで、離婚歴を気にして、学歴が無いことも卑下して、自信なく落ち込んでいて、会話に覇気がないんだよ。世間体で生きる男の情けないところだよね。

でも実は奥さんは、旦那さんが気にしてる離婚歴も学歴も、全く気にしてないんだよ。そりゃ初婚の方が嬉しいけど誰にでも過去はあるし、大学は出てないけど話せば頭の良い人だって分かるし、今の旦那さんに満足していたんだよ。そして何より、女学生の頃から憧れていた化粧品ブランドのデザインをしていたと知って、それは誇るべきことだって旦那さんを尊敬していたんだよ。それに比べて自分は何の取り柄もない人間だって落ち込むくらいだったんだ。

そんな奥さんにも、ひとつだけ自信があるところがあって、それは肌の綺麗さだったんだ。小さい頃から白くてつるりとした肌が唯一の自慢で、決して美しくない顔なんだけど、肌のおかげで幾分かマシになってるって信じてたんだよ。

そんなある日、奥さんが銭湯で体を拭いていると、右乳房の下にポツリと赤い斑点を見つけるんだよ。その時はあまり気に留めず、着物を着て、家に帰って鏡を見ると、ちょっと広がっているんだよね。心配になって「こんなものが、できて」って旦那さんに報告すると、旦那さんは仕事の手を止めて、じっと患部を見つめて、「痒くはないか」って心配そうに聞くんだよ。痒くはないって答えると、薬箱からチュウブを取り出して、白い塗り薬をウニュって出して「蕁麻疹なら痒いはずだが、まさかハシカじゃなかろう」って言いながら丁寧に塗ってくれるんだよ。奥さんが「うつらないかしら」って言うと「気にしちゃいけねえ」って答えてくれて、奥さんは旦那さんの一連の行動に静かな愛を見つけて、体が軽くなってこの人のためにも早く治りたいと思って眠るんだ。

朝起きて鏡の前に立つと、昨日の赤いブツブツが顔にまで広がっているのを見つけるんだ。唯一の自慢の肌に、トマトが潰れたようにブツブツができてしまって、こんなに汚くなったら、旦那さんに見放され、生きている価値はなく、死ぬしかないって絶望するんだよ。こんなことなら結婚なんてするんじゃなかった、女学生の頃に死ねばよかったって、すっとあたりが暗くなって気が遠くなってしまったんだ。鏡の前で呆然としてたら、「どうだ、よくなったか」って旦那さんがやってきたんだ。奥さんはブツブツを隠して、良くなりましたって言おうとしたんだけど、「うちへ帰ります」って言葉が口から出ちゃったんだよね。旦那さんは少しうろたえながらも、「ちょっと見せな」って言うんだよ。奥さんは体の斑点を見せて「こんなところにグリグリができて」って言った途端、緊張が解けて堰き止めていた涙がどばって出てきてしまったんだ。思ってた以上に何だか涙がどばどば出てきて、10代の娘のよう甘えた泣き方をしてしまったんだよ。すると、旦那さんは「よし!お医者へ連れて行ってやる」って今まで聞いたことのない声で強くきっぱりと言うんだ。

旦那さんはその日仕事を休んで、新聞の広告で見たことがある有名な皮膚科に連れてってくれることになったんだ。奥さんが「お医者様に体を見せなければいけないかしら」って言うと、「お医者を男と思っちゃいけねえ」って言ってくれるんだよ。奥さんは顔を赤くしてほんのり嬉しくなるんだよね。何だか今なら何でも言えるような気がして、人に赤い肌荒れを見られたくないから電車はいやって言うと、「分かってるさ」って明るい顔でタクシーを呼んでくれたんだ。

奥さんは旦那さんのことが好きになって、今まで何とも思ってなかった前の奥さんのことが急に憎くなって、けれど今旦那さんを自分のものにしてることに満足して、くすぐったくて、恥ずかしくて、年甲斐もなく少女に戻った気持ちになれて、初めて自分が描いていた夫婦になれた気がしたんだよ。

結局赤い斑点は何か腐った物を食べて出来た、ただの食中毒だったんだ。簡単な注射をして「すぐ治りますよ。お大事に」ってお医者さんに言われて、お金を払って病院を出て、太陽の光に手をさらして見ると、もう治ってる気がして、「うれしいか?」って旦那さんに言われて、恥ずかしく思った、っていうお話なんだ。可愛い奥さんと、本当は奥さん思いの旦那さんの関係が愛おしいでしょ。

■お見合い結婚ならでは

この夫婦は、お互い相手を大切に思ってるんだけど、自信がなくて恥ずかしくて中々言動に移せなくて、でも赤い斑点がきっかけに涙が出たことで吹っ切れて、相手への気持ちを表現できたよね。これってお見合い結婚だからこそ起きる現象だよね。今の時代だと、こんなギクシャクの関係は付き合いたてのカップルには起きるけど、新婚夫婦には中々起きにくいよね。お見合い結婚は、恋愛結婚が主流の現代ではあまり良いイメージないかもしれないけど、まず結婚をして、そこから相手のことを好きになって、恋愛が始まるのも何だかいいよね。

■人から見たコンプレックス

旦那さんは学歴と離婚歴、奥さんは貧乏な家庭と年齢がそれぞれコンプレックスで、自信が持てずに上手く振る舞えなかったけど、その振る舞いを受け止める肝心の相手は全くそこを気に留めてなかったんだよね。僕らも大なり小なりコンプレックスってあると思うけど、そこにこだわってるのは案外自分だけで、勇気を出して周りに話してみると、スッキリすることってきっとあるよね。高校生の頃、脳科学者の茂木健一郎が高校に講演をしに来てくれて、「自分の弱みを笑いにできる人が強い」って話してて、他に何話してたかは全く忘れたけど、そこだけは今でも覚えてるんだよね。

短くてすらって読めちゃうから、ぜひ読んでみて。今度感想教えてね。」


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