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『どうして人はキスをしたくなるんだろう?』みうらじゅん、宮藤官九郎 「俗に言う電車の中で読めない本」

このnoteは、本の内容をまだその本を読んでない人に対してカッコよく語っている設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『どうして人はキスをしたくなるんだろう?』みうらじゅん、宮藤官九郎

○以下会話例

■お釈迦様でも考えないこと

 「みうらじゅんって面白いよね。僕あの人好きなんだよね。とらえ所なくて、自分の好きに真っ直ぐで、トゲがなくて、言葉のセンスが良い。将来みうらじゅんのようなおじさんになりたい。

そんな魅力たっぷりのみうらじゅんと、クドカンこと宮藤官九郎との対談をまとめた本『どうして人はキスをしたくなるんだろう?』が最高に面白いんだ。

仏教が大好きなみうらじゅんだから、本はこんな書き出しから始まるんだ。

お釈迦様のライブを説法と呼ぶのだが、その中に”答えない”というのも含まれていた。「あの世はどうなっていますか?」「・・・。」答えない。今ではそれを無視というが、この世には考えなくてもいいこともあると、お釈迦様は示されたそうだ。

この書き出しで気づいたかも知れないけど、この『どうして人はキスをしたくなるんだろう?』は、仏教を作ったお釈迦様でも「考えなくてもいい」と思うような「くだらない疑問」を、みうらじゅんとクドカンが考える本なんだ。

どんな「考えなくてもいいこと」を題材にしているかというと、「色気ってなんだろう」、「お父さんはいつまで娘と風呂に入っていいだろう」、「どうしてヤンキーは結婚が早いんだろう」、「どうして人は遅刻してしまうんだろう」などなど、35個の疑問。これらに対してみうらじゅんとクドカンが「説法」してるんだ。

■口笛でも吹いてしまえば良い

下ネタになっちゃうけど、笑ったのは「セックスの後にはどんな会話をしたらいいだろう」という疑問。終わった後どんな会話をしたらいいか分からなくて、いつもあの「間」が怖いってところからこの疑問が始まるんだ。

二人は普段「不真面目な姿を見せてしまったから、常識人ぶってバランスを取る」そうで、急に真面目な顔して「アベノミクスで日本経済はどうなるのかね?」と言ってみたり、「明日の朝、ゴミ出しを忘れないようにな。水曜はビン・缶の日だからさ」と言ってちゃんと社会性もあることをアピールしてるらしい。

そして欧米人だったら食後のコーヒーを楽しむように「このコンビにゃ誰も勝てないだろうね」と言って余韻を楽しむんだろうけど、日本人には気恥ずかしくてできないって考察して、他の案として、ヒーローインタビューのようにプレーを振り返る、終わってもしばらく二人でハァハァ言い続ける、という案を出すんだ。最後には「会話なんてやめて、二人で一緒に口笛でも吹けば良い」という案で結論づける。

他にも、「童貞を喪失すると何が変わってしまうんだろう」とか「どうして男は射精した後に反省してしまうんだろう」とか本当にくだらない疑問を考えてるんだ。くだらないから面白いんだけどね。

■死ぬのが怖い

そもそも「お釈迦様でも考えないこと」を考える本だから、こんな疑問ばっかりなんだけど、中には真面目なのもあるんだ。例えば、「死ぬのが怖いのはどうしてだろう」という疑問。

二人とも昔は死ぬのが怖かったけど、今はあまり怖くないって語るんだ。それは、「何かしら役目を果たした」という自覚があるかららしいんだ。例えば童貞の時は「このまま何もせず死んでたまるか」って思いが強かったけど、今は色んな物事において「童貞」ではなくなって、生への執着が薄れてきたんだ。つまり二人の結論は、「死ぬのが怖いのはやり残しているから」。

そのまま二人の「説法」は「孤独死」に移るんだよ。みうらじゅんが以前静岡の旅館で出会ったと言う、奥さんに先立たれた御老人が「今自分が死んで、世間から『孤独死だ』って言われるのが絶対に許せない」って言ってたと語るんだ。老人が独り身で余生を送ってたら、そんなの寂しいに違いないって決めつけがちだけど、その御老人は年金もらって旅行して映画観て好き勝手に暮らしてて、毎日楽しいらしいんだ。「自分ひとりならどこでのたれ死のうが勝手だし、こんなに楽なものはないだろ?」ってその御老人は言うんだ。

このエピソードを読んで、祖父を思い出したんだ。僕の祖父は、祖母が亡くなってから10年間くらい、福岡で独り余生を送っていたんだけど、一人をすごい満喫していたと思うんだ。みうらじゅんが出会った御老人のように、毎年ひとりで旅行して、宝塚を観て、家を改築して、しまいには家事をしてくれる女性も作ってた。そして几帳面な性格だったから、自分が死ぬ準備も万全に整えてて、遺言も書いて、自分史もまとめて、お寺も決めて、葬式で流すスライドショーも作って、棺を運ぶ時の曲までも用意していた。

棺を持ちながら、祖父が用意したCDプレイヤーから流れる石原裕次郎の『わが人生に悔いなし』を聞いて、「死ぬ気満々じゃん」って思ったんだ。おじいちゃんは全てやり切って、死ぬのなんて全然怖くなかったんだろうな。」

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