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『本当はちがうんだ日記』穂村弘 「なよなよしてるよね」と、自分は棚に上げて

このnoteは、まだ本を読んでいない人に対して、その本の内容をカッコよく語る設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。

『君がいない夜のごはん』穂村弘

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【穂村弘の作品を語る上でのポイント】

①言葉のうまさに言及する

②人間的魅力を褒める

の2点です。

① に関して、穂村弘は歌人として活動しているため、この人の書く文章の言葉選びは光るものがあります。単なるエッセイでもピタッと当てはまる言葉をスラスラと書いていて、読んでいて気持ちが良いです。

② に関して、穂村弘という男は、カッコ良い人になりたいんだけど、いつもこっち側の平凡な世界から抜け出せなくて、背伸びしてて、でもそこに優しい心が一筋ある魅力的な人間です。俳句とか詩とかエッセイは小説よりも書き手の人となりが反映されやすいので、書いてる人に魅力があれば、その人の文章もまた魅力的になります


○以下会話

■頼り甲斐がなくて笑っちゃう

 「ゆるい本か。そうだな、じゃあ穂村弘の『本当はちがうんだ日記』がオススメかな。ゆるく読めて笑っちゃうんだよ。穂村弘は、歌人でエッセイも書いてる人で、『君がいない夜のごはん』とかも面白いんだ。

この人の魅力は文章の空気感なんだよね。穂村弘というアラフォーの男性が、頼りがいなくフワフワしてるけど、カッコよくなりたくて色々苦労している様が、正直に語られてて笑っちゃうんだよね。

穂村弘のエッセイは、人の目を気にして生きてる人の、心の声を代弁してくれるような文章なんだ。ピースの又吉直樹が、「この人のエッセイを初対面の方にプレゼントして、もし面白いって思ってくれたら、僕ともきっと仲良くしてくれるだろうな、と思う。」って言ってて妙に納得感があったんだよね。確かに穂村弘を好きになってくれる人は十中八九良い人だし、穂村弘を好きならば、「僕のことも好きになってくれそうだ」って安心しちゃうかもしれない。

『本当はちがうんだ日記』は、「本当はこんなはずじゃない」、「今はリハーサルで本番は違うんだ」って人生にぐるぐると悩むエッセイなんだけど、悩みっぷりが可愛くて、自分よりも年上の著者に対して、「そんなに気にしなくてもいいんだよ」って微笑みかけたくなっちゃうんだよね。

■僕のエスプレッソは何故か苦い

例えば冒頭の文章から面白いんだ。穂村弘はエスプレッソが好きで、よくカフェで涼しげに飲むらしいんだ。だけど、本当は苦くて苦くて全く美味しいと思えなくて、だけどエスプレッソは「素敵な飲み物」だから見よう見まねで飲むという話なんだ。

私はエスプレッソが好きだ。小さなカップの底に泡立つ液体がちょっとだけ入っている。香ばしい匂いを嗅ぎながら、カップにそっと口をつける。目を閉じて、ゆっくりと一口啜ってみる。苦い。舌が苦い。苦くて、とても飲めたものではない。痺れた舌を空中でひらひらさせながら、私はカップを置く。体調がいいときや元気があって「いけそう」な気がするときは、そのまま無理に飲み干すこともある。だが、おいしいと思ったことはない。たいていは諦めて、傷めた舌を水で冷やしながら、あとはただエスプレッソの泡を眺めている。<中略>それにしても、私のエスプレッソがこんなに苦いのは何故なのだろう。果実の薫りとキャラメルの味わいの飲み物が、地獄の汁に感じられるのは何故か。それは、おそらく、私自身がまだエスプレッソに釣り合うほどの素敵レベルに達していないからだ。私の素敵レベルは低い。容姿が平凡な上に、自意識が強すぎて身のこなしがぎくしゃくしている。声も変らしい。すぐ近くで喋っているのに、なんだか遠くから聞こえてくるみたい、とよく云われる。無意味な忍法のようだ。

凄い可愛いよね。駆け寄ってなぐさめてあげたくなるよ。僕も日本酒飲む時に同じことしちゃうんだよね。お店の雰囲気に合わせて、必死に日本酒から甘みを感じ取ろうとするけど、全く美味しいとは思えなくて、そんなことより酔いがすぐそこまで来てて、頭がぽーっとしちゃってる感じ。

■あだ名という勲章

あと、僕が好きなのは「あだ名」かな。穂村弘が「昔からあだ名がないことが、心の底でずっと気になってた」って語る話で、物凄く共感しちゃったんだよね。

あだ名がないことをひとに知られてはいけない。あだ名がないことがばれたら大変なことになる。大学を出るまであだ名がもてなかった私は妙に存在感がなく、自信がなく、いろいろなものをこわがる大人になった。

僕自身も人生であだ名をつけられたことがなくて、大抵君付けか呼び捨てだったから、「みっちゃん」とか「こま」とか「かず」とかあだ名で呼ばれる友人が凄い羨ましかったんだよ。あだ名をつけられることで仲間として認められて、あだ名の無い自分は一歩外にいる感じがしてたんだよね。

でも、大学生になった時、サークルの先輩に生まれて初めてあだ名をつけてもらったんだよ。名前を二回繰り返した安易なあだ名だったけど、初めてのオリジナルの呼び名に、勲章を授けられた気分になったよね。

■思いやる気持ちと能力がゼロ

あと面白かったのは「男気」についての文章かな。世の中には俺についてこいタイプの男性がいて、そういった男性がモテるイメージがあるけど、穂村弘自身はそれとは真反対のタイプなんだ。

「守ったり思いやったりする気持ちと能力がゼロに近い」って語っていて、風邪で寝込んでいる彼女のお見舞いに行く話を書いてるんだけど、行動と空気感が笑っちゃうんだよね。

私はお見舞いに行こうと思ってコンビニエンス・ストアに寄った。だが、寝込んでいる女性に何を持っていけばいいのか全く思い浮かばない。困った私は「ペヤングソースやきそば」と「焼そばUFO」をレジにもっていった。「これ、お見舞い」といってそれらを袋から出したとき、彼女は一瞬、悲しそうな目をした。「ありがとう。でも、ごめんなさい、私、今ちょっとそれ食べられないわ」「え、そう?」「よかったらほむらさん召し上がって」「う、うん、じゃあ」「今、お湯を沸かすわね」彼女はふらふらしながら台所に立った。私は彼女がつくってくれた。「ペヤングソースやきそば」と「焼そばUFO」を、ふたつとも食べて帰ってきた。

笑っちゃうよね。お見舞いにカップ焼きそばを買っていく非常識さと、女性の大人な対応と、言われるがままふたつとも平らげる穂村弘。空気感が凄い伝わってきて、この文章だけで穂村弘の人となりと、この女性の性格と、二人の関係性がビタッとわかるよね。上手な文章だ。

この穂村弘の言動に賛同しちゃうと女性に嫌われそうだから、全面的に否定するのが身のためかもしれないけど、正直僕も穂村弘の言動が分かるんだよね。だから面白いなって感じちゃうんだろうね。

こんな感じで、『本当はちがうんだ日記』を読み進めると自分と重なるところと、少し理解できるところと、全くわからないところと、色んな面に出会えるんだ。結構後ろ向きなことも沢山書いてあるはずなのに、読み終わってみると、なんだか自然と口角が上がってて楽しい気分になれてるから是非読んでみて。」


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