『羊男のクリスマス』村上春樹 「一番読みやすい春樹文学」と、穏やかに
このnoteは、本の内容をまだその本を読んでない人に対してカッコよく語っている設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。
『羊男のクリスマス』村上春樹・佐々木マキ
【村上春樹の作品を語る上でのポイント】
①「春樹」と呼ぶ
②最近の長編作品を批判する
③自分を主人公へ寄せる
の3点です。
①に関して、どの分野でも通の人は名称を省略して呼びます。文学でもしかり。「春樹」と呼び捨てで語ることで、文学青年感1割り増しです。
②に関して、村上作品は初期は比較的短編が多く、いわゆるハルキストの中には、一定数短編至上主義者が存在します。そこに乗るとかっこいいです。
③作品に共通して、主人公は「聡明でお洒落で達観しててどこか憂鬱で、女にモテる」という特徴を持っています。その主人公に自分がどことなく似ていると認めさせることで、かっこいい人間であることと同義になります。
○以下会話
■一番読みやすい村上春樹作品
「読みやすい村上春樹の作品か。そうだな、そしたら『羊男のクリスマス』がオススメかな。この作品は、村上春樹が文章を書いて、イラストレーターの佐々木マキさんが絵を書いた「絵本」なんだ。実は、村上春樹は絵本も出しているんだよ。絵本だから、普通の小説と比べて文章量は格段に少ないし、絵がついてるから村上春樹独特の世界観も想像しやすい。この絵本をきっかけにして、村上春樹作品を読んでいくのはとても良いと思うよ。
■春樹が大好きな羊男
『羊男のクリスマス』は、「羊男」がクリスマスイブにドーナツを食べたせいで、クリスマスソングが作曲できない呪いをかけられてしまい、それをとくために冒険する話なんだ。
『羊男のクリスマス』では、これまで村上春樹の小説にでていたた登場人物が出てくるんだよ。
例えば主人公の「羊男」。村上春樹が作ったオリジナルのキャラクターで、羊と人間を足して割ったような人物なんだ。『ダンス・ダンス・ダンス』という小説では主人公に教えを諭したり、道標を示したりする役割で登場するんだよ。『羊男のクリスマス』では、「夏用の羊衣装の下にぐっしょりと汗をかいていた」っていう描写があるから、人間が羊の衣装を着ているっぽいんだけど、とりあえず正体不明の存在なんだ。
他にも、208、209の数字がプリントされたTシャツを着ている双子の姉妹がでてくるんだ。この姉妹は『1973年のピンボール』でも登場するんだよ。
そして、今回の絵本のポイントとなる「ドーナツ」も村上春樹の大好物として知られているんだ。デビュー作の『風の歌を聞け』では、少年時代に病院の先生を一緒に食べてるよ。ドーナツは、村上春樹の作品に一番多くでてるお菓子なんじゃないかな。多分。
とにかく『羊男のクリスマス』は、「村上春樹が気に入ってるもの」がたくさん詰まってる絵本なんだ。
■絵本になっても発揮される村上ワールド
ストーリーは、羊男がクリスマスに演奏する聖羊上人様に捧げる音楽の作曲を頼まれるところから始まるんだ。羊男は音楽的才能があったから、立派な「羊男音楽」を作曲できるだとうと思っていたんだけど、何ヶ月も経っても、なぜかなかなか作曲ができなかったんだ。
羊男は沈んだ気持ちで、お昼に公園でドーナツを食べていると、羊博士がやってきて悩みを聞いてくれたんだ。「君はひょっとして去年のクリスマス・イブに穴のあいたものを食べなかったかね。」羊男はドーナツ屋で働いていて、ドーナツが大好きだから、毎日お昼にドーナツを食べていたんだ。そして去年のクリスマス・イブにも食べていたんだよ。羊博士は「12月24日は、聖羊上人が夜中に道を歩いていて穴に落ちて亡くなられた神聖な日なんじゃ。だからその日に穴のあいた食物を食べちゃいかんのは昔々からきちーんときまっておることなんじゃよ。」と言うんだ。羊男はこの掟を破ってしまったから、羊男は羊男ではなくなってしまって、「羊男音楽」も作曲できなくなってしまったんだ。
『聖羊上人伝』というボロボロの書物を調べると、聖羊上人が穴に落ちた同じ時間に、同じ大きさの穴に落ちれば、羊男の呪いがとけるとわかったんだ。
そこで羊男は穴を掘って、クリスマス・イブの午前一時十四分に穴に落ちることにしたんだ。すっぽりと穴に落ちていくと、2m程しか掘っていないのに、ずいぶん長いこと落ちることに気がつくんだよ。ドスンと穴の底に着いて周りを見渡すと、そこは異世界だったんだ。そこには、ねじりドーナツのような頭をした「ねじけ」の兄弟や、208と209とプリントされたTシャツを着ている双子の姉妹や、大きなペンギンのような海ガラス、姿を見せない「なんでもなし」という人物達に出会っていくんだよ。その人物達の案内のおかげで、苦労しつつも聖羊上人のところまでたどり着くんだ。
「あなたが聖羊上人様ですか。」羊男が聞くと「そうであります。」と聖羊上人は愛想よくニコニコと答えるんだ。「じゃああなたが僕に呪いをかけたんですね。どうしてそんなひどいことをしたんです?体はくたくただし、こぶはできちゃうし。」と羊男はこぶを聖羊上人に見せるんだ。聖羊上人は「いや、悪い悪い。悪いと思っとるですよ。しかしこれにはいろいろとわけがありましてな」と言って、聖羊上人は戸口の前に立ち、ドアをさっと開けると、
「クリスマス、おめでとう!」そこには、ねじけの兄弟も双子の姉妹も海ガラスもなんでもなしも羊博士までもが待っていたんだ。「クリスマスパーティに招待したというわけですな」と聖羊上人は言ったんだ。羊男は騙されたことに腹を立てたけど、みんなの幸せそうな顔につられて、段々楽しくなってくるんだよ。
双子の姉妹が「羊男さん、ピアノを弾いてよ」と言って、聖羊上人が「君のためにこしらえていたんですよ」と言って布をさっとどかすと、真っ白なピアノがでてきたんだ。
羊男がピアノを引くと素晴らしい音がでて、頭には美しいメロディや楽しいメロディが次から次へと浮かんできたんだよ。
羊男は夜下宿に戻って、郵便受けを見ると、羊の絵のクリスマス・カードが一枚入っていたんだ。「羊男世界がいつまでも平和で幸せでありますように」と書いてあった。
これでお話はおしまい。絵本っぽい朗らかなストーリーだけど、しっかり村上春樹の世界観が出てるでしょ。
■永遠の少年、佐々木マキ
今回、絵を担当した佐々木マキさんは、イラストレーターとして活躍している人で、絵本作家として絵本も出しているんだ。村上春樹は、佐々木マキさんの絵が大学生の頃から好きで、街に貼ってあった佐々木マキさんがデザインしたポスターを、勝手に剥がして部屋に貼っていたらしいんだ。そしてその思いは続いていて、村上春樹のデビュー作の『風の歌を聴け』と6作目の『ダンス・ダンス・ダンス』の表紙は、佐々木マキさんが描いているんだ。
確かに超かっこいいイラストだよね。村上春樹は佐々木マキさんを「永遠の天才少年」と評しているんだ。実際佐々木マキさんは、「け」の一言しか発さないオオカミが主人公の絵本を描いたりしてるんだ。この独創性がすごい面白いんだよね。『羊男のクリスマス』は絵だけの参加だけど、シナリオの方もかなりの才能があるんだよ。
■絵本から入っても良い
村上春樹の小説は、どうしても最初「読みづらいな」って思っちゃうよね。だけど、世界で最も人気な作家の一人で、各国の学者に研究されて、若い作家に影響を与えて、ノーベル文学賞もいつか絶対とる人なんだ。その人の文章を同時代に原文のまま読める僕たちは結構幸運なんだよ。だから、読みやすい絵本からスタートして、「春樹耐性」をつけて是非他の村上春樹作品を読んでみて欲しい。きっと君の読書体験として良いものになるよ。」
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