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『葉』太宰治 「美しい言葉が書いてある」と、綺麗な目で
このnoteは、まだ本を読んでいない人に対して、その本の内容をカッコよく語る設定で書いています。なのでこの文章のままあなたも、お友達、後輩、恋人に語れます。 ぜひ文学をダシにしてカッコよく生きてください。
『葉』太宰治
【太宰治の作品を語る上でのポイント】
①「太宰」と呼ぶ
②自分のことを書いていると言う
③笑いのセンスを指摘する
の3点です。
①に関して、どの分野でも通の人は名称を省略して呼びます。文学でもしかり。「太宰」と呼び捨てで語ることで、文学青年感1割り増しです。
②に関しては、太宰治を好きな人が声を揃えて言う感想です。「俺は太宰治の生まれ変わりだ」とまで言っても良いです。
③に関しては、芸人で文筆家の又吉直樹さんが語る太宰治の像です。確かに太宰治の短編を読むとユーモアがあって素直に笑えます。
○以下会話
「太宰のさらっと読める作品か。そうだな、それなら『葉』がオススメかな。太宰は27歳の時に『晩年』というタイトルの短編集を出したんだ。『晩年』には15の短編小説が載ってるんだけど、その1つ目に入れられたのがこの『葉』なんだ。『晩年』は短編集なんだけど、この『葉』だけは小説になってない、短いメモ書きのような文章が10個くらい書かれているんだよ。ストーリーは全くないんだけど、読んでると不思議に太宰の世界にスーって入っていくんだよね。
例えば冒頭の文章がすごいカッコいいんだよ。
死のうと思っていた。ことしの正月、よそから着物を一反もらった。お年玉としてである。着物の布地は麻であった。鼠色のこまかい縞目が織りこめられていた。これは夏に着る着物であろう。夏まで生きていようと思った。
なんだかめちゃくちゃ素敵だよね。太宰は何度も自殺未遂をしていて、死がすぐ近くにあったから、素敵な着物をプレゼントされるくらいでもっと生きようと思えたんだね。
でもそもそも明確な生きる意味なんてないから、案外みんなそのくらいの些細な幸せを頼りに生きてるのかもしれないね。だから素敵な文章だって思えるのかも。太宰らしくてカッコいい。あとはこれとか空気感が良い。
よい仕事をしたあとで 一杯のお茶をすする
お茶のあぶくに きれいな私の顔が いくつもいくつも うつっているのさ
幸福感にあふれていて、太宰らしくないよね。でも素敵な文章。他にはいきなり、
生活。
とだけ書いてあったり、
白状し給え。え? 誰の真似なの?
って何かのセリフが書かれていたり、
どうにか、なる。
って突然言い聞かせてたり、とにかく散り散りな文章というか言葉というかが沢山並べられているんだよ。だから無理に解釈しようとすると難しくてよくわかんなくなっちゃうから、音楽聴くみたいに、雰囲気で「太宰っぽさ」を味わうのが多分一番良い読み方なんだ。
■『晩年』における『葉』の役割
『葉』に対する他の方の解釈を読むと、小説を花と捉えて、「花になれなかった雑文(葉)の集まりだ」って評価している人が多いんだよね。確かに小説になってない言葉が集まってるから、言いたいことは分かるけど「花になれなかった」と言われても、別に葉っぱは花にはならないよね。花になれなかった言葉の集まりとしての意味なら「蕾」とか「実」とかにすると思うんだよね。僕が思うにこの『葉』は花と比べるのではなくて、木の幹と一緒に考えるべきなんだよ。
作品や作家によって様々だろうけど、小説を書く際に1ページ目から順序よく書いていく人って少ないと思うんだよね。こんなフレーズいいなとか、この言葉は入れたいなとか、書きたい短い文章がちらほら浮かんで、それらをストーリーの中に落とし込んで書くことが多いと思うんだ。葉っぱがいくつか出来て、それを木の幹に貼っていくみたいなイメージ。きっと作曲とかもそうだよね。このリフかっこいいとか、このリズムがいいとか断片的に考えていくんじゃないかな。多分。だから『葉』の短い文章たちは、『晩年』を書くにあたって浮かんできたけど、ストーリーという一本の木の幹に落とし込めなかった文章たちで、でも文章単体として美しいなって思って残していった作品だと思うんだよね。
■前説としての役割
そしてこの『葉』が『晩年』の一番初めに置かれていることに意味があるんだよ。『葉』の後に続く『思い出』、『魚服記』、『列車』、、、はそれぞれちゃんとした短編小説になんだ。つまり『葉』はそれら短編小説に入るまでの前説としての役割を持っているんだよ。お笑い芸人のライブとか、バンドの演奏とかの前に、前説担当として若手がお客さんを盛り上げて会場の雰囲気を作って本番に繋げることってあるでしょ。『葉』も美しい文章をポンポンと出して、僕ら読み手の気持ちを作って、次のページからの太宰の作品の世界にうまく入り込めるようにしてくれてるんだよ。
だからここまで言っといてなんだけど、『葉』は単体で読む作品ではないんだよね。『晩年』を1ページ目から読んでいったら、『葉』の本当の良さを知れるよ。『晩年』は、「晩年」というタイトルをつけるくらい、太宰が27歳時点での集大成として苦労して書いた本だから、『葉』だけじゃなく他の作品も十分面白いよ。是非『葉』の効果を感じながら読んでみて。」
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