ライ麦畑の反逆児
出かける前、昔、精神安定剤のように持ち歩いていた本を本棚から出してカバンに入れた。
「フラニーとゾーイ」
なぜその本が精神安定剤のようであったかはうまく説明できない。
サリンジャーは大学の頃の授業で知った。「ライ麦畑でつかまえて」が題材だった。はじめは、慣れない文体や文化、ひたすらに悪態と、なにがいいんだかさっぱりわからないまま授業も半分が過ぎた。物語も終盤になり最後の数ページというところで、ホールデンがぐっと自分の中に入ってきた。細かいところはおさらいしないと思い出せないけどホールデンに体温を感じた。
世界中に、ホールデンは自分だと思った読者が多かったことだろう。日本で言うところの太宰治が描く主人公と立ち位置が重なる。
私は大学時代、角田光代の小説に自分を見つけて図書館でひとり興奮したことがある。「どうしてこんなにも私のことがわかるんですか?」と手紙を書こうと思ったほどに。
サリンジャー、謎に満ちた晩年がさらに彼を雲に近づけたように思う。
彼がどんな人間であっても、彼が生み出した作品たちが誰かを救っていることは確か。
苦しみながら生み出してくれて、サリンジャーを見つけてくれて、ありがとうと言いたい。
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