体験デザイン研究所「風の谷」第1回イベント 「原生自然と人」口 上 2 「遠くは近くにある」 by阪田晃-

幼ないころ、森を歩いていると、この森はいったどこまで続いているんだろう、それはもはや永遠のように感じられ、ワクワクと畏れが混在し、なにか深淵を見たような、不思議な感覚に襲われたことを覚えています。遠くに仲間の声が聞こえて、森に飲み込まれずに戻ることができました。

草木の香りや、太陽の輝き、風の音や月明かりの夜の音。父や母、兄弟がそこにいて、同じ世界を体験している。近所の子どもと-緒になって遊んだ記憶。おもしろいおじさんがいたり、やけに色っぽい女の人がいたり。そんな記憶が身体にも空間にも刻まれている。その喜びそのものに浸っている。

こうした幼ないころの記憶は、それがいいものであれぱあるほど、大人になったら邪魔をするので、心の奥底に押し込められています。僕たちの良い記憶の多くは「原生自然と人」が強く結びついたものです。だからこそ原生自然から間接化され、くシステム社会>に張り付けられた僕たちには、思い出しづらい記憶なのです。

ネイティブ・アメリカンやアマゾン先住民など、数々の人類学者が報告するように、今この時も、強烈な身体性を保持したまま生きている人々がいます。彼らは言葉に縛られず 時に酩酊し、夢を見ます。言葉の選択肢の中から人生を選ぷのではなく、夢に現れたビジョンの通りに生きていこうとします。

僕らの仲間のひとり、森本さんもそんな感じの人です。ネイティブ・アメリカンの部族名を冠したCamp Tawingoで2年間ディレクターをしておられました。力ヌー、力ヤック、スキ-も達人。でもこ本人は「ちょっと趣味で、、、」という程度。そんなおもしろい人です。

もしかすると「私には遠い世界の話だ」と感じるかもしれません。言葉の生き物である私たちには、強固な「自意識の檻」が立ちはだかるからです。人は傷つくのが嫌だから、現在の自己を保とうと-生懸命努力します。真面目であれぱあるほど「自己の恒常性維持機
能」が働きます。

もし「このイベントは行きにくいな」と思ったのであれぱ、ぜひ参加してイベントの時間を-緒に過こしてほしいと思います。そう感じることは珍しくないからです。でもそれは「遠い話にきこえるだけ」。僕はこのイベントを通して、ゲストが見た景色を、その実存を通して皆さんにも体験してほしいと願っています。

稀有な身体性を有した人々との出会いは、皆さんの身体に眠っている喜びの記憶に直接アクセスし、きっと何かを呼び覚ますからです。

僕も森本さんも共通することがあります。それは「ソロキャンプが嫌い」。あんなものは楽しくもなんともないからです。旅はどこに行くかではなく「誰と行くか」。一人で原生自然を旅すること。それ自体の意義はもちろんあります。でもそれは一体なんのためなのでしょうか。

隆起した岩の間をカヤックで通り抜けた時、真っ白な岩が海に浮かんで見える。その景色を感じたときに強烈に思うのです。「この景色を誰かに見せてあげたい」。だから8月に能登半島の子どもたちをカヤックに乗せて、海から自分たちの島を見てもらえるように企画を準備中です。

もちろん宮台さんのトークも存分に展開されます。なんとなくでも「毎日つまらないな」と感じている皆さん、一緒に楽しい時間を過ごしましょう!

宮台真司(社会学者)
阪田晃一(キャンプディレクター)

イベントのご案内
2024年7月18日開催【シリーズ|原生自然と人】能登半島の隆起した海をカヤックで漕ぐ〜語り手は森本崇資(キャンプディレクター)、ホストは宮台真司・阪田晃一


体験デザイン研究所風の谷

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