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掌編小説

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Twitter300字SS(https://privatter.net/p/310549)ほか、突発掌編をまとめたマガジンです。
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記事一覧

伴侶に



 ルルヤを伴侶に、と望んだのは自分だ。部族は違うが互いに族長筋、歳も近かったから気が合った。日が暮れても二人で遊び回って叱られた。草原を転がり、水切りをし、狩った兎や鳥を捌き、星を数えた。長として立つとき隣に望むのは、ルルヤ以外にない。
 そう思ったから婚姻の話を持ちかけたのだが、気取らない付き合いを続けてきたがゆえに、改めての場は気恥ずかしかった。晴れの装束に曲刀を提げ、珠と羽根飾り、五色の

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運命は叩扉するか



 運命が扉を叩いた、とは作り話らしい。私の運命も扉を叩かなかった。光より速く私の胸に飛び込んできて、気づけば運命を家に連れ帰っていた。矯めつ眇めつして写真を撮り、SNSにアップし、存分に眺め、やってやったぜという気分で眠った。
 運命は餌を食べない。鳴かず、散歩も不要。構う必要はないが構ってしまう。おまえは美しい子だねと呟く。写真にたくさんいいねがついた。
 運命は語らない。歌わない。これが運

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星見先生とぶどうパン



 学者先生はいつも、夕どきの鐘が鳴る頃に来店し、星見塔に出勤する。ぶどうパンをさっと買い、お釣りを受け取るのは上の空。彼の眼が焦点を結ぶのは天上ばかり。
 けれど私は、変人だと囁かれる先生の浮世離れした眼差しが好きだ。星を見つめる先生を眺める私、というわけ。
 先生は不意に「今夜は星が降ります」と呟き、返事も待たずに人通りに紛れてしまった。
 ……夜って、宵? 深夜? 明け方?
 流れ星は先生

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汀の恋人



 折り紙の国のお姫さまと人魚の少年は恋をしていました。銀色の尾をひらめかせて泳ぐさまに、紙吹雪の中で微笑む姿に胸を高鳴らせ、互いを夢に見ました。
 一緒に暮らせたなら、どんなにか素敵でしょう。涙を流すことのできないお姫さまの代わりに少年が泣き、涙が涸れてからふたりで笑いました。
 陸で生きられない少年はお姫さまに珊瑚や真珠を贈り、お姫さまは切り紙細工やお菓子を乗せた船を波打ち際に浮かべました。

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天使の梯子



「雲の切れ間から射し込む、幾筋もの神々しい御光は、あたかも」

 天使の梯子を教えてくれたのは、兄の本だ。天使は飛べるのに、と首を傾げると、天使が人のために架けてくれるからだよと窘められた。
 では夜はというと、ムンクの「月光」がまさに天地の架け橋に見える。絵画の解釈はさておき、水面に映るひかりを辿れば月に至るだろうと思えた。かように人は天に焦がれ、宙をわたる橋を欲するのだなと頷いていたのだか

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開かずの宝箱



 学校からの帰り道、古ぼけた鍵を見つけた。クローバーの茎をすっと伸ばしたような、ゲームに出てくるみたいな、かっこいいやつ。
 どこの鍵かわからないし落ちていたものだから、捨てなさいよって母さんは嫌な顔をしたけど、夢見がちだった僕は鍵を洗い、紐を通して首から下げた。鍵が合う扉はないかと探検に出かけ、どこかのお城の鍵かも、なんてにやにやした。
 社会人になって家を出て、人並みに恋なぞして、鍵は鞄の

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母の遺言



 凍えるような戦争が終わって緩やかに日常が戻り、けれども母は戻らなかった。国仕えの身である以上、出征も戦死も予期されたことだとはいえ、骨が灰になるまで守護術を行使したがゆえと言われれば涙に溺れるほかはない。
 役人が遺書を持ってきたのは、ようやく混乱と悲愴と欠落が凪いだ頃合いで、平常心を総動員してそれを受け取った、のだが。
「呪いの書並みに厳重な封印なんだけど」
 学生の僕、料理人の父。当然な

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泣かない



 辺りを憚らず爆泣きしている女子高生に恐れをなして、先客のキッズは逃げていった。
 公園に二人きり。重い。

「泣かないって言った」
「泣いてない~!」

 全部濁点がつきそうな声だ。二人分のハンカチは既に水浸し。制服の袖が犠牲になりつつある。

「だってわかってたもん」

 バスケ部エースで生徒会長。容姿端麗、品行方正。そんな男に平成最後のアタック(死語では?)すると駆けてって、今に至る。

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アンジェリカの家出



 八回目の家出準備だ。
 服やリボンや靴下、クッキー缶、押し花の栞、匂い袋、日記帳。あるじが憤然と旅行鞄に詰め込むさまを、ルーイは黙って見守る。
 原因はいつも親子喧嘩で、初回の家出は彼女がルーイの処遇について旦那様に反発したのがきっかけだった。怒りで血の気の引いた、冷たい手を覚えている。半日で連れ戻され、二人ともこっぴどく叱られはしたが、幼い体をいっぱいに広げて庇ってくれたこの方に一生付いて

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