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落としに行って病みつきに!4 最終回

■前のエピソード》

 前回、愛染明王巡礼に参加し、次の日の滝行に即決で参加することを決めた。巡礼に同行していた女性も何を思ったか滝行に参加することを即決。僕にとって2回目となる滝行に行って来た。

 この日、朝から気温が上がらない。気温19~22度ほどを行ったり来たり。日が差せば22~3度、日が陰れば18~19度といった感じだ。

 参加者の中で同じ月に二度も滝に打たれる物好きは僕だけだった。

 前回、不動明王真言を金峯山寺の経本にかかれている発音でしか知らない状態だったので、他の参加者同様の唱え方が出来ずやや不発な気持ちでいたのだが、今回は自宅でこっそり練習していた。

「の~まく さ~まんだ~ ば~ざらだん せんだ~ま~かろしゃ~だ~ そわたや うん たらた~ かんまん」

という発音。練習の甲斐(かい)あって自信満々に唱えることが出来た。このツアーでは不動明王真言の発音はこれがスタンダードのようだ。

 さて、ツアー主催者が先達(ここでは「せんだち」と読む)として水場に入り、ほら貝の音で場を清め、みんなの水晶が入ったざるを滝つぼに沈めるなどして滝行の準備をスタートさせる。

 この日は前述の通り、日が陰り風が吹くと気持ち寒い。薄着の白装束のまま順番を待ち続けているともっと寒いに違いない。そう思い、「誰からやる?」の一声に即答で「やる!」と即答し、トップで行をさせてもらう。

 前回は水に打たれ続けることに耐えられず、思わず体を捩(よじ)らせてしまった。今回は最初から最後まで真っ直ぐ打たれる覚悟で挑(いど)む。

 が、捩(よじ)ってしまった。

 合掌して読経している間、間もなく『痛い‥』あの感覚が蘇(よみがえ)ってくる。

『だめだぁ~、痛い‥』前回よりももっと体を捩ったり、水がヒットする位置から右肩近くにずらしたり色々工夫し始める。無駄な努力なのか、落下してくる水がどこにヒットしても痛い!

「位置もどして、姿勢正して」
な、なんと読経を中断して先達からお叱りを受けてしまう!

『終わらね~‥、いてぇ~‥』
 あっという間に終わった前回とは違い随分長引いてしまった。

 順番的に誰よりも早く終わり、更衣室で服も来て5月下旬にしてはやや寒いこの日、薄手のダウンベストを着こんで他の参加者の滝行の様子を見ながら待つ。時にカメラを担当してあげたりする。

 すると、僕以外誰一人として体を捩る人がいない。『みんな痛くないのかなぁ‥』そもそも『痛い』という所に意識がフォーカスしてないのか。

『僕も真っ直ぐ立って美しい姿勢で滝行を完遂(かんすい)したい』
そう思わずにはいられない。ということはまた次の滝行に参加するということだろうか‥?

 そういえば、滝つぼで人から落ちた余計な『貰い物』。こういったものはこの滝つぼから流れ出て外へ放出されてしまう危険性はないのか?

 滝つぼなので水は次から次へと流れ出てくる。止まってはくれない。行の最中、または直後、水場には様々な人の要らない念なりエネルギーが溜まっている。これらは、水場から排水され龍泉寺や天川村へ流れていく。

 大丈夫なのか??
 主催者曰く大丈夫だそうだ。

 仕組みはこうだ。滝つぼのある水場自体、不動明王の強力な結界(けっかい)の中にある。不動明王は左手に縄・右手に剣を持っている。危険なモノを縛り上げ、斬り潰して魔を消滅させるという。だから出ていく水は清らかな水として村へ行くのだそうだ。

 不動明王を前にいかなる魔物も太刀打ちできないということらしい。そう理解が進むと、不動明王が更にカッコ良く感じてしまう。

 ところで、先日愛染明王巡礼で一緒に巡礼していた女性はというと、滝つぼから上がるとまるで別人になっていた。これは大変印象深かった

 偏見かもしれないが、僕にはその女性がまるで何か憑き物でもいたんじゃないのか?というほどに顔が青く見えていたのだ。
 しかし、滝つぼから上がるやスッキリ感たっぷりに顔の血色も良くなっておりまるで別人の様でも、若返った様でもあるように感じた。あるいは、風呂上がりの様でもあった。

 滝行は本当に何らかの作用をもたらすのだ。その女性の変容ぶりが何よりの証拠と思いたい。

 さて、全員行が終わり長らく没水状態だった水晶も十分清まり再び透明な輝きを見せる。後日参加する龍神三社水晶祈願を迎えるまで、箱や袋に入れて大切に保管しておく。

 この日の気温は結局一日中たいして振るわず、僕は震えが止まらないほど、すっかり体が冷えていた。

 天川村には洞川温泉(どうがわおんせん)なる温まる施設がある。ここで日帰り温泉出来るのだ。

 この日平日ということもあり、たいして混んでなかったので温泉に浸かっていくことに。

 冷えきっていたくせに、温まるのもまた早い。僕は男性陣の中ではいち早く風呂から出た。ホールで皆を待っていると、しばらくして憑き物がとれた風の女性も出て来た。

 またこれが驚いた、滝から上がった直後の血色の良さと、風呂上がりの血色の良さに大差ないのだ。

 やっぱり滝つぼから上がった時点で、この人にとって相当の変化があったに違いない。

『不動明王ある所、変化あり』

 そのような名言が僕には生まれた。

 おわり