シェアハウス、シェアバイク、シェアパンツ〜僕の同居人#10〜
奴との同居生活が始まって以来、
深夜の散歩は断続的に続いている。
この日は、
広尾、恵比寿、中目黒と、
日比谷線を沿うように進み、
駒沢通りを蛇崩の方へひたすら歩いた。
1時間半程歩いたところで、
疲労と飽きがやってきた。
「そろそろ帰ろうか」
こんな感じで僕らはいつも帰路に就くのだが。
しばしば遠くまで歩き過ぎてしまい、
帰りがしんどくなってしまう。
帰りのことも考慮しながら調整して歩くということが下手くそな僕らは、
「どうする?今日はタクシーで帰る?」
と、葛藤する。
今のところ、
かろうじてタクシーは回避しているが、
この日はいよいよ限界が来た。
「どうする?」
そこで妙案を思いついた。
シェアバイクだ。
よく街で見かけるあの赤い自転車。
スマホがあればいつでも使えるアレ。
シェアバイクのスポットを探し、
僕らは自転車で帰ることにした。
これはすごい!
スイスイ進む。
坂だってキツくない。
楽しくて疲れも忘れるくらいだ。
僕達は人生初の電動自転車に完全に浮かれた。
目黒区中をあてもなく漕いだ。
知らない街の
知らない道の
人通りの少ない道をひたすら。
これがあればどこだって、
どこまでだっていける。
地元では、よく海まで行ってたくらいだ。
(#5に詳細)
なんだかんだで、
1時間半くらい自転車で走り回り帰宅した。
それからというもの、
行きは散歩、
帰りは自転車、
が基本スタイルになっていった。
そうそう。
シェアバイク以外に、
僕らはお互いの服をシェアしている。
共同生活中は疎か、
普段から、
奴が毎度置いてく衣類を僕は着ている。
(#9に詳細)
勿論、パンツもシェアだ。
何を置いていったのか奴も覚えてないくらい膨大な量だ。
「あ、これ中学生の時から履いてるやつだ」
と、干してるパンツを懐かしそうに手に取ったそれも僕が未だに使っている。
7月上旬。
早く仕事が終わり帰宅した。
奴は既に家でくつろいでいる。
奴の下手くそなApex(ゲーム)のプレイを観ながらつけ麺を食う。
耐えられず奴からコントローラーを奪って、
暫くゲームに没頭した後、
そろそろ行こうかと準備を始める。
この日はいつもより早目に出発し、
夜の街へと繰り出す。
「これなら間に合うね」
兼ねてからの目標を達成させるべく、
麻布十番を抜け飯倉片町へ進む。
雨季にもかかわらず、
珍しく雲一つない空。
心地よい夜風に吹かれながら、
いつもの道を暫く歩く。
前方にそびえ立つは、
ライトアップされた東京タワー。
僕らは真下まで歩き、見上げる。
そのまま灯りが消えるまで眺めた。
僕は妙な達成感に浸ると同時に、
人知れず喪失感に苛まれた。
そう。
うんこを漏らしたからだ。
ずっと前から。
麻布十番の手前で、
要するには、
家を出て数分後に。
途中、
コンビニに寄って
奴のヴィンテージパンツに別れを伝え、
今、東京タワーを見上げている。
勿論、何も履いてない。
平然とシェアバイクに乗り、
東京タワーを後にした、
あの日の僕を、
奴は今も知らない。
いつかこの話を笑って奴とシェアできる日が来ることを願う。
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