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連続事例検討会:第8回「共依存」
正の走光性
オンラインコミュニティ“space”で、おとぎ塾が始まり、2か月が経過しようとしている(2024年5月現在)。
戦争も紛争も絶え間なく、物価も高くなり続け、介護・福祉の業界は“変わらず厳しい”と喧伝されている。
それでも、現場で一生懸命動いている人との縁に気づかされる毎日があり、心は明るい方を向いている。
自宅と職場を往復する以外の仮想空間で行われている“おとぎ塾”は、私のなかで気軽にアクセスできる“舞台照明”であり続けている。
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事例の詳細と参加メンバー
さて、今回の事例は“共依存”である。
高齢者支援の仮面をかぶっているが、障害分野や発達支援などにも及ぶ、謂わば“他人事でない度”の高い事例の登場だ。
今回も、常連からニューカマーまで、総勢12名のメンバーが集結した。
様々な視点から事例を見つめていく。
参加者一覧
就労継続支援B型勤務/ケアラー当事者
介護・福祉政策のシンクタンク研究員
介護事業所の支援・離職防止・研修の会社を起業準備
認知症カフェの主催者
障害者グループホーム勤務
家族介護者(“共依存”当事者)
過去に知的障害者施設勤務の看護師
など
事例について
事例の詳細はこうだ。
母・75歳、知的障害のある息子と二人暮らし。
母との直接的な関わりから“共依存”が発覚。
愚痴を言いに窓口を訪ねるが、支援は拒む。
施設入所等、親子関係の清算には消極的。
亡き夫のDVがあった。今は息子の浪費と暴力に悩まされている。
70代後半は、高齢者支援の界隈では若いという肌感である。
そして現状、彼女らに深刻な困りごとが発生している訳ではない。しかし、息子の浪費・暴力沙汰から大きな負の展開が予測され、支援者はヤキモキする、という案件である。
この“共依存”は果たして困難事例であるのか?
まったく手がかからないわけもなく、かといって「このままでいい」を鵜呑みにするわけにもいかない。
支援者が揺れる、メタ的な事例ともいえるかもしれない。
様々な意見
事例の音読後、参加メンバー一人ひとりのアウトプットが始まる。
・“子どもの障害年金頼み”という文脈で、共依存となっている場合もあるのでは?
・「私が支えなきゃ」との思いがある?
・まず、息子がどうしたいか?の深掘りする。そして使える制度は何かを調べる。
→自立支援医療の手帳・障害の手帳などを活用する方法がある。
・利用者と介護者の間の共依存関係もあると思う。
→度を越えた支援は虐待につながるのではないか?
・経験談;住宅型有料老人ホームに、母娘が同時入居したケースあり。トラブルを抱えるもお互い個室に移ることは拒否。母の入院に娘もついて行くような間柄。急激な分離は両人にとって毒になりかねないので、このような対応をとった。
・お世話する/されるの関係性で、共依存が起こりやすいと思う。その意味で、母子の間で起こりやすいのでは?
→子の自立を妨げる関係性については介入の必要あり。
・子のお世話以外の生きがいを持てれば良い。
・支援する側は“関わりすぎ”に注意。
・支援を受ける者は、ありがとうを言い続けなければならないのだから、しんどいと聞いたことがある。
・当事者間でバランスが取れていればそれで良いのでは?という目線も必要。
岩間先生の解説
著者・岩間先生の解説をザックリまとめると以下のようになる。
・共依存の特徴は、過度のマイナス依存が掛け合わさって成立していることである→(マイナス)×(マイナス)で、本人たちの中では(プラス)になっている。
・共依存は愛憎が並び立つ。どちらも嘘偽りない本心で、ともに強い思いである。
・共依存は閉じられた関係である。他者との関係を排除し、自己完結していくが、周りはネガティブな巻き込まれ方をしてしまう。
・息子は、家庭環境によって社会関係を閉ざされた(いわば“巻き込まれた側”である)。支援はまず、息子から始めなければならない。
・そして、当人(母親)の過去を整理していく。“私”を主語として、どう生きるかを自分の言葉で語れるよう支援する→言語化/アウトプットの支援。
・双方に働きかけつつ、関係性の変化を“積極的に待つ”ことが大切。
著者に寄り添えるようになってきた!
メンバー内でしっかりと答えがある。かなり岩間先生のアイデアにシンクロしてきている、と感じた今回。連続開催ものに触れる醍醐味は、このシンクロ率の高さにある。
「依存しあうことは、思いのほか普通のことである」……“違和感を見つめる”とは、実はこうした視点ではないだろうか。
“共依存”は果たして困難事例なのか?という問題提起には、少しだけ視点をずらし、手の掛け方を変えれば、スッと解決するものなのかもしれないという回答を得られた気がする。
この二人のことを“共依存”と ばっさりラベリングするが、当事者同士が良ければ、多少の不都合があってもいいんじゃないか?……ある種の諦観を持つことの大切さも再認識した。
正義の心だけでなく、当事者目線を持つことも、とても大切なものであるのだ。
記録者の思い
共依存について、さらに考えが広がっていく。
・夫婦間での共依存もあり得るのではないか?そうすると、同性カップルも今後事例として上がってくるのかもしれない。
・8050問題との関連性も話題として上がったが、FIREを達成した人が増えた場合、共依存はどのような展開となるのだろう?
「自立とは、依存先を増やすこと」という先人の言葉が響く。
誰しもが、潜在的な上から目線を捨て、構わず「助けて」と伝えられるスキルを身につけていかねばならないだろう。
視点を変えること、関わり方をズラすこと=“やわらかく考える”ことの大切さを改めて学んだ。
最後に、参加されていたドクターの言葉で締めたい。この一言に、学びが集約されていると、記録者は確信している。
支援者は、「転ばぬ先の杖」でなく、「転んだ先のエアバッグ」になれるといいんじゃないかな。
スケジュール
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介護のオンラインコミュニティ「SPACE」について
「SPACE」は、“介護”に関心を持った仲間が集うオンラインコミュニティです。組織や地域を越え、前を向く活力が得られる仲間とのつながりや、 自分の視点をアップデートできる新たな情報や学びの機会を通じて、 一人ひとりの一歩を応援できるコミュニティを目指しています。入会できるタイミングは、毎月1日と15日の2回です。詳しくは以下をご覧ください。
書いた人
もっちぁん
現場で働きつづける介護福祉士。特別養護老人ホーム勤務(グループリーダー)、他に介護支援専門員と社会福祉士を名乗れる。
※おとぎ塾では、『支援困難事例と向き合う』(中央法規)に掲載された18事例を元に、オンラインコミュニティ“かいスペ”の有志メンバーが意見を出し合う検討会を開催。本記事はその様子をレポートしています。