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連続事例検討会:第11回「アルコール依存」


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下戸の戯言

焼酎の大五郎をご存知だろうか?
賃貸住宅における契約書の甲乙丙が分かりにくい人へのライフハックとして、
・甲を俺
・乙をお前
・丙を大五郎
に置き換えると、スラスラ読めるようになるという代物である。
ポイントは、大五郎が甲類でも乙類でもないところかなぁと個人的には思っている。
こんな塩梅に話題を振るところから分かるとおり、記録者は酒が得意ではない。
とはいえ、知人に酒を口に含んだ瞬間記憶を失ったり、刹那にトイレに駆け込みオートリバースしたりという人も知っているので、下戸といっても上には上がいるものだなぁと感心している。

事例検討会の座標

そんな今回の事例は「アルコール依存」である。
今さらながら書き加えるが、おとぎ塾とは、ケアに関わる人たちのオンラインコミュニティ「かいスペ」内での“事例検討会風座談会”である。
無関心でも過干渉でもなく、ニヒリズムでもペシミズムでもない。
参加者を敢えて形容するなら、現場のリアルを抱えつつ、オプティミズムを志向せんと集う“他者を放っておけない人々”である。

事例の詳細

話を戻そう。
今回の事例「アルコール依存」の詳細はこうだ。
・71歳男性 生活保護を受け一人暮らし若い頃から大酒飲み。
元大工で50歳頃の転落が元で無職になり、酒量が増える。
・1年前に内縁の妻を亡くし、酒量がさらに増えた。
・身体的リハビリや断酒プログラムにも参加したが、長続きしない

人類と酒の因縁浅からず、太古より神との通信手段や他者とのコミュニケーションツールとして機能するかたわら、酒は人を傷つけたり狂わせたりもする代物である。
片頬に天使の、もう片頬に悪魔の微笑みをたたえるその顔貌に人は振り回され続けている。
そんな罪深く幸福な液体の負の側面に焦点を当て、今宵も宴が開かれる。

参加メンバー

今回参加したメンバーはほとんど「溺れる程飲まないし、飲めない」という事である。
アルコール依存の当事者でもないのに、何が分かる!?と言われても、くじけず向き合う覚悟があるか?
そんな問いかけが記録者の頭の中で駆け巡り、胃から酸いものがこみあげてきそうになる。
今回の参加メンバー、RPGでいうところのパーティは、囲みのとおりである。

参加者一覧
包括 社会福祉士 特養介護士 訪問介護士2名 認知症専門医 クリニック看護師 障害者就労支援員 経営コンサルタント 障害者就労支援員 デイサービス介護士 障害者施設介護士

本会では、聞き専以外の参加メンバーがそれぞれ意見を述べあう。聞き専メンバーは、ときに書き込みにて加勢する。
印象的なアウトプットをここに記し残す。

参加メンバーの意見

A氏の推理

若き訪問介護士A氏の事例に対する分析が振るっていた。
「この方の、お酒の入手ルートはどうなっているのだろう?」
金銭管理も酒量を考えると気になってしまう」
そして、「テキストに書いてある、意欲や意思にどう関わっていくか?に関心がある」との感想。
事例から滲みでるアパシーへの介入は、記録者自身も持ち続けている課題である。
A氏の体験談にも目を見張るものがある。なかでも高齢女性が夕食時にワインを注ぐようヘルパーに求める件で対応に苦慮したという。その方は「もっと注いで」と要求がエスカレートしていくため、家族に相談したり、自費サービスに切り替えるなどしていったとのこと。

訪問系の知られざる豆知識の一つ

介護保険では、ヘルパーは酒やタバコは購入しに行けない建てつけになっている。基本買い物の支援は自分で食べるもののみが対象となるため、お世話になったあの方へお中元やお歳暮を買いに行ってもらうのもダメだし、孫のオヤツや家族の食べ物だってNG。

舶来チックな返しと、それに対する返し

この、アルコールの購入にヘルパーを使えない件で「ビールは俺の中では30年も前から食事だ!」と、フランス人の血はワインでできています的なことを言う利用者と出会った、と塾長が言っていた。
すったもんだの挙句、最終的な着地点はノンアルコールビールだったという。
ノンアルは介護保険の対象として買い物に行けるというTipsにちょっと感心してしまった。

B氏の経験談

就労支援事業所勤務のB氏も、貴重な経験を話してくれた。
今までに4人ほどアルコール依存の方との関わりがあったそうだ。
元々、バリバリ働いていた管理職や医師などが、自己イメージとのギャップに苦しめられて酒に逃避する傾向にあったという。
さらに、軽度知的障害の方も、就労支援という場においては過度の期待を背負う羽目に陥り、アルコール依存になってしまうとのこと。
「神は乗り越えられない試練を与えない」などというが、甚だ疑問である。記録者は信心が不足しているのか?

C氏の見立て

認知症専門医で専門書も執筆されているC氏からの意見も勉強になった。
アルコール依存症の困難さは、「このままじゃ、死にますよ」という忠告でさえも聞き入れない程の強さなのだそうだ。どうしてくれよう。

依存するメリットとは?

依存するメリットとしては、温まる、食事が少なくて済む、痛みやツラさからの逃避、飲めばバイブスアゲアゲ、などの例が出た。
言葉にするということは未知なることへの共感を呼ぶものだと、感心しきりであった。

今までと真逆?

さらに、独居の場合であるならば、体調を崩すことで支援の手が入るが、同居だと、家族が酒を飲める環境を用意してしまうから支援の手が届きにくいという“逆転現象”も起こるところがこの事例の厄介さである。

酒に寛容な国、ニッポン

日本という国は、海外に比べ飲酒に寛容な国であり、それこそ外国では朝方お酒を売ってくれないことを筆頭に規制が厳しい。
「飲酒と酒にまつわるトラブルに寛容な国」この言葉をDr.Cから聞いたとき、これはソーシャルアクションの課題を突きつけられた、と一社会福祉士として気を引き締めた次第である。
我々は、刈り尽くす者の声が大きいこの社会において、再構築という樹を植えていく必要があるのだ。

個別にどんな支援をしていくか?

ここまでで支援について、二つの提案が出た。
①飲酒以外で夢中になれる事を見つけていく
②「あなたはアルコール依存です。今のままではダメになります」とハッキリ言う存在を作る

①は、個人レベルにおけるスクラップ&ビルドの実践である。
しかし②は、これまで“禁じ手”とされてきた「レッテル貼り」とも言える強硬な実践だ。
剣道なら“突き”の、柔道ならば“裏投”の、三沢光晴なら“タイガードライバー91”の解禁であり、ことほどさように、アルコール依存は手強い案件なのである。

2024年6月9日、30代の男が横浜駅近くの路上で面識のない女性を刺殺する事件が起きた。
犯人は山梨県にある依存症回復のための支援施設に入ったが、6月6日夜に行方不明になっていた。
また、参加メンバーからのエピソードで、依存症の方が入所したことによりフロア丸ごとアルコール消毒液が使用禁止になったり、依存症の人は薬局のアルコールという文字を見ただけで手を伸ばしたくなるといったエピソードが聞けた。
こうした事からも、アルコール依存を支援する困難さがうかがわれると、記録者は感じている。

D氏の提案

クリニックで働くナースD氏からは、アルコールへ意識を向けさせないために、元大工としてモノづくりを依頼する関係性を作っていこうとの意見が出た。

さらなる支援・チーム編

ここでさらに、全日的な提案に発展した。手短に表す。
③日中何かに打ち込める役割づくり 夜間誰かと一緒にいられる体制づくり
個人的にものすごく気に入っている。

岩間先生の解説

テキストにおける解説をまとめると、以下のようになる。
・アルコール依存からの脱却は、一進一退。また、長引くほどに治療が難しくなる。
・アルコール依存症は、自分の努力だけではどうにもならない
・本人の過去を知りつつ、今ここに立ち返って支援を考える。
・支援者は、当人の信頼を獲得し、且つ当人の自己開示を導き出す

これは熱い展開ではないか?

以上、アルコール依存症の人の支援に必要な要素とは、
・倒しきるのではなく
・離れた安全地帯から応援メッセージを送ることでもなく
・一度はぶつかり合いながら
・信じ続ける愚直さと、仲間に頼りきる人間くささを手離さずに前へ進むこと!
なのだ。
なんだ、ただの少年漫画における売れっこコンテンツじゃんか、福祉の仕事ってばよ!
と個人的気づきに酔いしれて、一晩以上寝て醒めた現在、こんな駄文を公開した事に、反省しきりなのである。

スケジュール

介護のオンラインコミュニティ「SPACE」について

「SPACE」は、“介護”に関心を持った仲間が集うオンラインコミュニティです。組織や地域を越え、前を向く活力が得られる仲間とのつながりや、 自分の視点をアップデートできる新たな情報や学びの機会を通じて、 一人ひとりの一歩を応援できるコミュニティを目指しています。入会できるタイミングは、毎月1日と15日の2回です。詳しくは以下をご覧ください。

書いた人
もっちぁん
現場で働きつづける介護福祉士。特別養護老人ホーム勤務(グループリーダー)、他に介護支援専門員と社会福祉士を名乗れる。

※おとぎ塾では、『支援困難事例と向き合う』(中央法規)に掲載された18事例を元に、オンラインコミュニティ“かいスペ”の有志メンバーが意見を出し合う検討会を開催。本記事はその様子をレポートしています。


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