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連続事例検討会:第13回「消費者被害」


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変則的な事例

事例検討会もいよいよ後半戦。RPGに例えると、前回の 親族間対立を厄介な通常戦闘とするならば、今回の 消費者被害はサブクエスト或いは隠しダンジョン的なポジションであろう。

その消費者被害であるが、記録者は“名無しの経済的虐待”という認識である。
騙されるということは、①当事者が後でチートを使われたことに気づく ②まず第三者がチートに気づく、と解釈できる。
消費者被害は世間一般においては、決して珍しくないケースである。ゆえにここでは、警察や消費者センターといったエキスパートに投げっぱなしにするのではなく、介護福祉の者にできることは何か?を話し合っていくこととなった。

参加者

記録者は今回、夜勤のため不在。ただし、かいスペ内のアーカイブから視聴して今回の記録を残している。

参加メンバー
包括 社会福祉士(東京)
訪問介護士(東京)
認知症専門医(宮城)
クリニック看護師(神奈川)
障害者就労支援(愛知)
デイサービス介護士(大阪)
ケアハウス介護士(京都)
有料老人ホーム管理者⇒介護人材関連 起業(大阪)
〈総勢8名〉

事例の詳細

事例の詳細はこうだ。
・独居の男性。子どもは遠方に住んでいる。近隣との交流なし。
・使っていない部屋に開封されていない段ボール箱が複数積んであったり、廊下にどうみてもフィットしてない手すりが設置されたりしている。
・こちらから支援を申し出ても「なにかと頼める人がいるので、不便はしていません」と けんもほろろ。

色々な消費者被害〜対策と所感

今回の要諦は“専門機関への相談以外にできること”を考える である。
本記事においてはメンバー体験談と、それにどう対応したか?対応するべきか?さらに記録者自身の視点を各論っぽく並べていく。

①高級品?の訪問販売

ある日、ヘルパーが訪問したところ、ご利用者宅に見知らぬ男性が座って明るく挨拶をしてきた。よくよく聞いてみると布団のセールスであった。利用者さんは「いらないお布団ありませんか?」とのセールストークに釣られ、家に入れてしまったとのこと。

→ヘルパーは、どうしたらいいか分からず、咄嗟に「カタログとかあるんですか?」と質問した。すると業者が「取りに行ってきますね!」と出ていったので、すかさずドアロック。その後ヘルパーステーションに電話で報告し、「分からないので帰ってくださいで押し通したとのこと。

参加メンバーの新人時代のエピソードとのことだが、GJである。その年の新人賞総ナメと言っても過言ではない。やはり、一人で抱えこまずに誰かに相談!というコミュ力は人生にとって最上位に位置するライフハックである。

②物ではなく

ある日、若くてにこやかな男性が独り暮らしの高齢女性宅を訪れ、「困りごとがあったらなんでも言って」と話し相手になった。「重いからお米を買ってきて」とか「照明を交換して」など日常の些細なお手伝いを積み重ねた後、男は正体を明かす。「実は投資の仕事をしている。あなたの持ち金を2倍にすることができるから、預けてくれないか?」と。信じた女性は3000万円を渡してしまったという。

→遠方に住む娘さんが投資詐欺であることを見破り、弁護士に相談した。しかし業者側も弁護士を立てて応戦。結果、7割の2000万円ほどが戻ったという。

投資詐欺の被害は、額面の大きさもさることながら、長期間にわたって関係性を築いた後、ドアスラムよろしくお金持ってドロン!という肌感がある。
騙された人が後で悔しがる姿を見るのも辛いが、良い人すぎて待ち焦がれる姿を見るのも辛い。

③訪問しなくても

怪しい電話は、訪問販売より何十倍も遭遇するイメージがある。

→記録者の自宅にも毎日のようにかかってくるが、そのたび我が母なぞは、秒でガチャ切りしたり、「お手伝いの者なので分かりません」とガチャ切りしたりしている。
ちなみに我が家にお手伝いを雇う経済的余裕など、ない。

下の画像のようなデバイスのレンタルがあるという知見も得られた。

自動通話録音機レンタルサービス

④今回の事例について

→対策として、介護保険につなげるため、家族を巻き込んで、保険サービス利用のための小芝居を打つのはどうだろう?という案が出た。
「こんなお国の制度があるんですってよ!」「世の中にはこんな風に年寄りから巻き上げる人もいるんですってよ!?」等、本人に響く言葉をチョイスしていくのだ。

これは、信頼できる相手を、訪問販売会社から介護保険サービスにすげ替える、いわばホタルに「こっちの水は甘いぞ」と歌い続ける作戦である。
もしも、映画や読書が好きなのであるなら、悪徳業者の闇を描いた作品がないかな?と考えた。机上に置いておくとか、一緒に鑑賞するとか。
今思いついているのは『闇金ウシジマくん』なのだが。

⑤えげつないローン

最近話題になっている事案として持ち上がったのが「住んでる土地にアパート建てませんか?」問題で、なんとこの業者、80代の方に30年ローンを組ませるという突拍子も慈悲も常識もない提案を書面にして出してきたという。

→この方については、とにかく訪問看護等、人の出入りを増やす取り組みを行うことで、やがてお泊まりサービスの利用に繋がり、次第に業者は寄り付かなくなったとのこと。

訪問看護が利用者にとって難しいならば、訪問薬剤師を向かわせる。要介護度がつかない方ならば、薬局に自宅へ行ってもらうなどの手段があるとのこと。何かハードルが見つかったら代替案を当てる!戦術的制度活用!
薬を持っていくだけにこれが富山型ですか!?(絶対に違う)
やはり制度の勉強をもっとせねばと反省しきりである。

⑥その他「業者はリングの貞子よりも♪きっと来る〜」

訪問系では、不用品や貴金属を買い取ります!という名目でお宅に入り込む業者もある。

→様々な訪問系業者への対策としては、弁護士会などで配布しているステッカーの活用、これは意外と魔除け札のように効いているとの現場の肌感がある。

弁護士会のステッカー

また、玄関の内側に地域包括支援センター職員の名刺を貼っておいて「ウチはセールスお断りなんで、何かあったらこの人のところに電話してください」と追い返す口実に使うのだとか。後は、監視カメラの活用。ダミーを山ほどつけるか、対象追跡機能のあるスイッチボットなどの製品をつけるのも対策となりうる。

少し発想がとぶが、警備×介護って引きが強いテーマではないかと直感が信じている。例えば、OriHimeのようなデバイスと人材を使って、監視とまではいかなくても、ヒトやコトとつながれる窓口(ポータル)として活躍できそうな気がしている。

まだある…他にもこんな消費者被害があるのでは?

例えば、水回りの修繕とか床下点検工事なども、自分ではどうにもならない困り事をタネに高額費用を取ろうとするし、身の丈以上に出費を迫る宗教勧誘も当てはまるように思う。
体調や縋りたくなる心理的背景など、背景の分析が必要なのだと再認識させられた。

業者の思惑は?

売る側の視点でなぜハマるのかを解く、というメンバーの意見が出色であった。
推しを射止めんとする者は胃袋を、営業職は友情をつかみにいくという(かどうかは分からないけども)。
困り事や寂しさを解消することで対価を得る、対価の支払いがデカいほど正義であり、強者が生き残れるという価値観は、正直シンプルで強い。
また、そうした業者としても、売上の結果でなく、何人とどれくらい“仲良くなったか?” “何軒訪問したか?”にKPIを置く傾向にあるのだという。

※KPI (Key Performance Indicator;重要業績評価指標
記録者がこの単語を覚える際に題材としているエピソードは、ベトナム戦争時に国防長官だったマクナラだ。マクナラは経営理論を導入してベトナム戦争で指揮を執った人物で、彼がKPI(指標)としたのが「どれだけ相手を殺せたか」であった。そのKPIに基づき各チームにノルマを課したというのだが、どうなったかは、推して知るべしである。

考えるに、独居高齢者は、信頼関係構築の草刈場となっていないだろうか?福祉の業界人としてかなり不利な立場である。まるで、弱小球団のような立ち位置だ。福祉は、フッ軽な業者にはファーストステップで勝てない。動画で言ったら、サムネに魅力が無いのだ。

参考動画 積読チャンネル『「計測」は人類に何をもたらしたか?#31

業者の非対称性を分析

人をその気にさせる技術・売る商品の(真偽不明の)知識。以上2点において悪徳物販業者はスペシャリストだ。
一方、支援業者は おとぎ塾参加メンバー同様、ゼネラリストで、あらゆるケースに対応するための術と知識を身につけねばならない。
前者の拠り所とするは、①利益誘導であり、②他者を出し抜く快感であろう。
後者では、悔しさ・悲しさを重ねない、不幸を見たくないという心であると想像する。
消費者被害に関連する‘物販業者’と、福祉に携わる‘支援業者’の差は「金の切れ目」であるのかもしれない。そこから発展させ、両者がどんな点で有利か不利かを考えてみた。

圧倒的に向こうの方が有利な気がする。野球の打撃側と守備側くらい違う。こんななか、どのように動けば良いか?心理的な点から紐解いていく。

本人の心理を読み解く

本人が消費者被害にハマる際、どのような心理状態であるか?を深掘りしてみた。以下のとおりである。
・物やサービスと金銭を交換する“取引”だから、頼みやすい(金が鎹)
・寂しさを埋めてくれる
・全肯定だけの話し相手が欲しい
・ありがたがられる=承認欲求が満たされる
・困り事を手軽に解決してくれる便利さに惹かれる

ことほど左様に消費者被害は、今そこにある危機であり、さらにソリューションが確立されておらず(ブルーオーシャン的)、何よりヒトは基本騙されやすいのに騙されることが大嫌いという、如何ともし難い思考の癖があるため、いつまで経ってもなくならないのである。

岩間先生の解説

特に印象に残ったのは、
「物が欲しいのではなく、頼りになる関係性を手に入れたい」「金銭の自己管理はとても気持ちの良いもの」という本人の心の動きへの指摘であった。
我々には、本人の心理を受け止めつつ、業者への依存度を下げてゆくという行程が求められる。
つまり、心の扉という天岩戸を開けさせる方法を探る必要があるのだ。
それを岩間先生は「不健全な頼りになる関係を凌駕する、健全な頼りになる関係をつくる」と表現している。
二人の絆は誰にも邪魔されない。「失礼だな、純愛だよ」的な覚悟ガン決まりが求められている。少しでも近づく気概を持たねば。

消費者被害をなくすという事例を深掘りするにつけ、行き過ぎは論外だが、抑止力というものは必要であると再認識した。むしろ認識が強くなった。
そう考えると、福祉の者は、抑止力の完全否定には、疑いの声をあげるべきではないだろうか?

他のイベントへの波及

介護の民間資格をめちゃくちゃ沢山取得している逸材が、今回おとぎ塾に参加してくれた。
その中で事例と介護の資格を結びつけ「胡散臭さは一人ひとりの心が決めると信じている」という言葉が出た。

もしかしてだけど“資格とってみた!コスパどう?”みたいな座談会が、かいスペ内で新たに開かれるかもしれない。これは期待大である。

スケジュール

介護のオンラインコミュニティ「SPACE」について

「SPACE」は、“介護”に関心を持った仲間が集うオンラインコミュニティです。組織や地域を越え、前を向く活力が得られる仲間とのつながりや、 自分の視点をアップデートできる新たな情報や学びの機会を通じて、 一人ひとりの一歩を応援できるコミュニティを目指しています。入会できるタイミングは、毎月1日と15日の2回です。詳しくは以下をご覧ください。

書いた人
もっちぁん
現場で働きつづける介護福祉士。特別養護老人ホーム勤務(グループリーダー)、他に介護支援専門員と社会福祉士を名乗れる。

※おとぎ塾では、『支援困難事例と向き合う』(中央法規)に掲載された18事例を元に、オンラインコミュニティ“かいスペ”の有志メンバーが意見を出し合う検討会を開催。本記事はその様子をレポートしています。


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