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連続事例検討会:第6回「軽度認知障害」

おとぎ塾とは?

おとぎ塾は、介護オンラインコミュニティ“SPACE”内での介護福祉の現場における困難事例を、あり得ないほど多彩なメンバーで語り尽くす“バーチャル・グループワーク”。
正解を求めるばかりでなく、こういう考えもある、こういう視点もあるという可能性を深く探る集い。

参考図書はこちら

第6回の事例は「軽度認知障害」

軽度認知障害。この事例の何が困難なのか?
軽度なのに困難なの?という素朴な疑問がわき起こる。
しかし、舐めてかかってはいけない。
対人援助において、相手を軽んじる態度は禁物だ。常に真剣さが求められるのだ。
そんな思いを胸に、今回も書をなぞり、語り明かしていく。

そして今回も、初参加の方が1名加わった。
元・住宅型老人ホーム施設長で従業員満足度を向上させる取り組みや介護人材にまつわる起業を始めている方である。
穏やかながら熱を帯びているその佇まいに、私はそっと手を添えられ、背中を押されているような気持ちになった。

事例の詳細(こんな筈ではなかったという本人の思い)

さて、今回の事例の詳細はこうだ。
・4年前に夫を亡くす。10年間夫の介護を全うした。その縁で事業所やケアマネとのつながりがある。
腰痛を持っているが、「それは介護を勤め上げた勲章」と誇らしげに語る。
物忘れの自覚と不安があり、施設入所を繰り返し訴える。
・要介護の申請をしたが、車の運転はできる
・しかし、認知症の診断を勧めることには怒りをあらわにする。

どうやら、“困り人”と“何とかしようとしている人”の間に食い違いがあり、その食い違いを解消するのに、壁があるようだ。

こんな感想が出た

・生活に支障がない物忘れに対して、
「気にしすぎですよ」「よくあることですよ」「お疲れじゃないですか?」は頻出ワード。
……言われてみれば、さもありなんである。事ほど左様に、私の気づきが増えていく。

・介護保険で要支援1くらいをとって、誰か話し相手や相談できる仲間ができるといいな、と思う。
……具体的な数値と案が出てくるところが、専門職だと感じる。

・「老いてくると、皆こんなもんだよね」という思いがある。
・(事例のように)そうやって地域で暮らしている人って、実はたくさんいる。
……専門的な知識だけでなく、対人援助には寄り添う姿勢も大切だ。
……私たちは、自分自身という個性が消えるのが怖いらしい。認知症の進行と死へ向かう恐怖は似ている。

・ケアする者が言う“物忘れ”と当事者に起こっているそれは違うといわれている。

経験談と思いは汲めども尽きず、月の眼差しを背中で感じながら、夜はしんしんと更けていく。

私の視点

・事例の“困り人”は、自分のことが分からなくなっていく恐怖に直面しながらも、他人に迷惑をかけず静かに暮らしたい。
……夫の介護には何度も折れそうになったが、やりきった思いを抱きつつ、自分が背負った手間を よそ様にかけさせたくない思いと、自分は信念を貫いたというプライドを、同時に抱えていたいのでは、と想像する。

・“何とかしようとしている人”としては、介護保険サービスは限られた資源を割り振るものだが、この事例のような“網の目からこぼれ落ちそうな人”をどう救って(掬って)いけばよいのか?
……今までも抱き続けている疑問を、これからも抱え続けるには、考え抜くスキルをもっと伸ばさなければならないと、決意が改まる。

医師の視点

毎回、この事例検討会には、認知症専門医が参加している。さながらマジックユーザーのように多彩なスキルを披露していくさまは、記録者を一瞬傍観者に変えてしまう魔力を持つ。

医師は、今回のような事例を見たとき、どうアプローチしていくかを考えるという。
とても心強い。それは、記録者自身をも成長させてくれるという心強さだ。詳細の一部を以下に示す。

・背中を伸ばすと痛みが出る→脊柱管狭窄を疑う
・夫を亡くし、気持ちが落ちていないか?に着目し「何をしても楽しくないとかないですか?」と聞く→うつを疑う。うつは、意欲と記憶の低下を引き起こす(このため生活が破綻しやすい)。
・物忘れ外来よりも、まずは認知症カフェに行ってもらい、そこからかかりつけ医に相談、という流れを想定する。
・事例の対象者を“人に迷惑をかけたくない性格”と読みとく→人に貢献できる体験の提供/役割づくりをしていくと良いのでは?

岩間先生の解説

全員から発言を得たのち、塾長・こじまさんから、今回の事例における著者・岩間先生の解説が語られる。
このスタイル、6回目にして随分と馴染んできたようだ。
要約しつつ私見を入れると、以下のようになる。

軽度認知障害には“おののき(恐怖)”と“焦燥(あせり)”が潜んでいる
“恐怖”とは、物忘れの恐怖。それは自分に向けられた思いといえる。
“焦り”とは、人とうまくつながらないことへの焦り。それは他者との関係に向けられた思いであろう。

物忘れの先にあるものと向き合うこと。それは当人にとって極めて酷な作業である。

“軽い障害”が遂に自分の身にも降りかかるようになった事実。自分が一番分かっているからこそ、重く悩むことになる。
“何とかしようとしている人”はそこに気づき行動し、支援に結びつけなければならない。

働きかけとしてのポイントは、
物忘れが軽度の時期から、援助関係を形づくる。
②本人が抱える恐怖を、丸ごと・具体的に把握し、できる支援をあてはめる
これは換言すれば、未踏の地へ挑むその人と共に歩む覚悟を持つということではないだろうか。
③本人が抱く焦りには、時間をかけることと、関わる頻度を上げることで対処し、本人に感じてもらう“テーマ”を明らかにする。
記録者は、特に③に着目したい。
困りごとがあると、人は自発的に表現したくなると私は信じる。だからこそ、他人(ひと)の力を借りてでも、自分の思いをハッキリと表現できるようになることが、大切なのではないだろうか。

アップデートされた私の視点

参加者の話を聞き、岩間先生の解説と、塾長・こじまさんのまとめを伺い、今回の事例へのアプローチを改めて考えてみる。

・認知症に苛まれる方への支援は、重度になる前から(軽度の頃から)専門的に対応していく【認活】が重要である。

・当事者を受け入れるのに、ピッタリな歌謡曲がある。
私がオバさんになっても」だ。
我々援助者は、森高千里に対する江口洋介になるのだ。 

・変わっていく“私”に、変わらず接してくれる人がいるという安心感を与える。我々には尊厳を持って関わる覚悟が求められる。
そして認知症をケアする者は、その方の人生を丸ごと知る気概を持つ必要がある。

・これらを踏まえたうえで、認知症がレッテル貼りにならない社会になってほしいし、作っていきたい。

おわりに

今回も、本筋とは少しだけ離れているがつながりのある知見をいくつか知ることができた。おとぎ塾の醍醐味であると記録者は強く思う。
明日親しい人に知らせたくなるような様々な知見が得られたことを最後に記し、書を担う指をしまうこととする。

スケジュール

2024/05/11,21:30-23:00

介護のオンラインコミュニティ「SPACE」について

「SPACE」は、“介護”に関心を持った仲間が集うオンラインコミュニティです。組織や地域を越え、前を向く活力が得られる仲間とのつながりや、 自分の視点をアップデートできる新たな情報や学びの機会を通じて、 一人ひとりの一歩を応援できるコミュニティを目指しています。入会できるタイミングは、毎月1日と15日の2回です。詳しくは以下をご覧ください。

書いた人
もっちぁん
現場で働きつづける介護福祉士。特別養護老人ホーム勤務(グループリーダー)、他に介護支援専門員と社会福祉士を名乗れる。

※おとぎ塾では、『支援困難事例と向き合う』(中央法規)に掲載された18事例を元に、オンラインコミュニティ“かいスペ”の有志メンバーが意見を出し合う検討会を開催。本記事はその様子をレポートしています。

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