
#8 認知症シンポジウムでのおじいさんの名言
家族が介護になると、つまるところ同居か施設かという議論になりがちだ。でも、実際にはそんな急角度にライフスタイルを変えることは難しい。少なくとも私は難しいと感じていた。だからこそ、週一介護をがんばっていたと言ってもいい。
そんな折、自分の住む自治体で認知症シンポジウムがあるというので行ってみることにした。わざわざ参加したのは、そのシンポジウムには認知症患者さんによるパネルディスカッションが予定されていたからだ。
短期の記憶ほど風のように消え去ってしまう認知症の症状。高齢の認知症の人であればなおさらディスカッションは難しいだろう。一体どのように進行するのだろうか?これは画期的な取り組みに違いないと思った。そして、それは予想をはるかに超える感動的な内容であった。
パネラーとして登壇したのは四人の認知症の高齢者。そして驚くべきことに、パネルディスカッションを進行するのは同じく若年性認知症の人であった。そしてこのパネルディスカッションは見事に成立していたのである。
中盤に入り、どんなふうにサポートしてもらいたいかといった話題だっただろうか、パネラーのお一人の80代の男性が先陣を切ってこう発言されたのだ。
「そりゃ、家で自由に暮らしたいに決まっている。できないところだけやってもらえたらいい。」
この発言はこのシンポジウムの名場面だったなと思う。そうだよなぁ、そりゃそうだよなぁと呟きながら私はそのおじい様に視線を注いていた。なんだか非常に腑に落ちたのだ。母と私の生活にも大いに参考になる当事者の声ではないか! 同居か施設かではなく、できないところだけサポートしてあげればよいのだ。そして母が家で自由に過ごす時間も等しく重要なのだと合点がいった。私がぼんやりと思っていた新しい選択肢についてクリアになった瞬間でもあった。
