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楽しさという感覚が導く場所(1/3)

宮下さんのことを知ったのは、僕がまだ大阪で働いていた頃。当時お世話になっていた活版印刷所で刷られた、豊橋市にある自家焙煎カフェ「APOLLO COFFEE WORKS」のショップカードをデザインした人でした。その後、浜松にUターンし、一緒に事務所をシェアすることになるとは、当時の僕は思いもしませんでした。
 
宮下さんは自分のことをインディー気質だと言う。音楽やデザインなど、常に新しいものを吸収し、惜しげもなく周りにシェアし、仕事のレベルを高めている。そんな宮下さんに、活版印刷、デザイン観について話を聞きました。

デザインの表現を拡げる活版

──僕が宮下さんを知ったのは、活版とオフセットで刷られた「APOLLO COFFEE WORKS」のショップカードでした。そもそもなぜ、活版印刷を採用したの?
 
作ったのは2010年頃で、当時は安く、手軽なネット印刷が全盛の時代。手ざわり感のある、人が刷ったと分かるようなものにしたいなと思ったのが理由。青い部分はオフセットで刷って、文字部分が活版印刷。昔の切符って、打刻機で日付の部分だけ活版印刷してたんですね。あと、店主の橋本さんが海外旅行の切符やチケットをコレクションしていて、それらもヒントなりました。

APOLLO COFFEE WORKS」のショップカード。ミシン目が入っていて、ピリピリと1枚ずつ破ってお客さんに手渡しするスタイル。活版に興味を持つお客さんも多く、自然とコミュニケーションできる仕掛けが

──オフセットと組み合わせることで活版が引き立っているよね。
 
完全にフラットに仕上がるオフセット印刷に、活版で文字部分だけ凹ますと、よくある印刷物というよりも、プロダクト感が出るのが面白い。印刷に表情を付けられるのが、活版の面白さかもしれないですね。当時も、活版で名刺やショップカードを作る事例はあったけれど、活版の特徴を踏まえ、他の印刷と組み合わせるというのはあまりなかったと思います。


アポロコーヒーの橋本さんも「面白い」って喜んでくれたし。お店も、車好きとか、機械いじりが好きな人たちが集まるようになっていって、普通の印刷とは違う、どこか油の匂いがしそうな活版印刷は、お店のイメージとも合っていたと思います。
 
──宮下さんは、どのようなときに活版を選ぶの?
 
一番は、手触り。風合いのある紙に刷るときは活版。あとは、オフセット印刷機に通らない厚紙や薄い紙、耳付きの和紙、規格がふぞろいの紙などを使いたいときは活版を選ぶかなあ。

以前使っていた宮下さんの名刺。箔押しするとキレイになりすぎると感じ、あまり艶感が出ない、鉛のような鈍い仕上がりをイメージし活版を採用した。紙はボルダ(ナチュラル・オーク)※ともに廃番。銀色と墨のインキを混ぜ、鉛筆で書いたような粒子感のある仕上がりになった。


楽しさという感覚が導く場所(2/3)に続く


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