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楽しさという感覚が導く場所(2/3)

「楽しさという感覚が導く場所(1/3)」からの続き

この回では、宮下さんにデザインとの出会い、デザインに対する思いを伺いました。

人を引きつけるアイデアを考えるのが好き

──そもそもデザイナーになろうと思ったきっかけを教えて。
 
なんだろうな、僕の場合、入りは音楽なんですよ。高校時代から通っていた名古屋の輸入レコード店「rail(レイル)」で、リトルプレスやミニコミ誌、ジンが並び始めていて、自分でも作れるかもと思ったのを覚えています。当時はSNSもなく、自分の思いを文章として残すなら出版しかなかったから作っていた部分もあります。ミニコミ誌以外にも、友だちに音源を提供してもらって、カセットテープでコンピレーションも作って、ジャケットのデザインを見よう見まねでしていました。
 
そんなときに出会ったのが、今も親交があるデザイナーの伊藤敦志さん(AIRS)でした。僕がしていた音楽ユニットのジャケットデザインを依頼したら、あがってきたのが2色刷りの版下原稿で。版下をちゃんと見たのが初めてだったので、印刷物やポスターって、こんな感じで作られているんだと知ったのが衝撃的でした。ミニコミ誌も手書きではなく、ちゃんとデザインされたものにしたく、印刷所のアルバイトをしながら技術を学んでいきました。といっても、デザイナーになりたいというよりも、自分の本を作ることが目的だったんだけど。

その後、出版社の制作部門でエディトリアルデザインを学び、もっと成長したいと、デザイン事務所に転職。そこではデザインだけでなく、会社案内の企画や撮影の立ち会いなど、ディレクションの仕事も任せてもらえたのは大きかったですね。4年ほど働いて、実家のある豊橋市に戻り、情報誌を制作する会社に転職しました。
 
──そこでは、どのようなことをしていたの?
 
その会社はクーポン誌の発行がメインで、新たにメンズファッションを中心としたフリーペーパーを創刊することになって、僕はデザイナーとして参加しました。ただ、ふたを開けてみたら、デザインも、構成も、写真の撮り方もまだ固まってなくて、僕がディレクターも兼任し、全てに関わることになったんです。
 
本当にたいへんだったけど、いろいろと好きなことをさせてもらいました。豊橋にある川合健二さんのコルゲートハウスで撮影させてもらうために交渉に行ったり、モデルを頼む予算がないから、借りてきた古いマネキンに服を着せて撮影し、後からデータ上で合成して、何体もマネキンがいる誌面にしたり。

宮下さんが創刊から関わった東三河のフリーペーパー『QUATRO』。
モデルの右奥にはコルゲートハウスが見える。
豊橋市を走る路面電車の中や銭湯など、ロケーション選びにも遊び心があふれる。

──宮下さん、めちゃくちゃ楽しんでるでしょ(笑)
 
そうそう(笑)。普通こんな場所で撮影しないし。予算がなかったから、アイデアでより良くしたいというはあったし、少しでも楽しい誌面にしたいというはあった。でも、安く済ませるはずが、マネキンって意外と高くて、当時1体1万5000円もした(笑)
 
──ものを作るにあたって、大事にしている、妥協しない部分って何ですか?
 
基本的には自分が面白いのが一番というか。少しでも引っかかりがあるものにしないと誰も見てくれないから。受け手がどう思うかは分からないので、こちらでコントロールできる釣り針に、何をつけたらいいかが考えるのが楽しくて飽きないですね。
 
──受け手を引きつけるアイデアは、どのように得ているの?
 
僕が10代、20代前半だった90年代は、80年代のサブカル全盛期の残り香みたいなのが非常に強かった時代で、PARCOのフリーペーパー『GOMES』とかめちゃめちゃ好きだった。その楽しかった時代の感覚は、今でも影響していると思います。
 
自分が楽しいというのがまずあって、そのうえでお客さんも喜んでくれたらうれしい。僕はデザインで自分のカラーを出すタイプではないので、アイデアのコアを考えるのが得意。だから、KNOT LETTERPRESS PRINTINGのロゴとか、ああいう仕組みを考えるのが本当に楽しくて。

3Dプリンターで出力した●▲■を組み合わせて図がらや文字を印刷する活版ワークショップをヒントに、新たに■の2分の1の長方形を加え、KNOTの文字を構成。入れ替えると活版の「活」の字になるアイデアが秀逸。フォントは活版印刷と同じドイツ生まれのDINをベースにアレンジ。
積み木も制作し、ロゴのコンセプトがより明快に。

アイデアというより、「遊び心」の方が言葉としては近いかもしれないですね。僕は発明みたいなことはしていないくて、使い方の変換をしているだけだから。
 
──発明はしていないかもだけど、技術や使い方を拡張させている、発展させている印象はある。それはサブカル好きというか、インディー好きならではの、ちょっと横から見る癖が影響しているのかも?
 
それはどこまで行ってもあると思う。若いときから真正面からだけでものを見てこなかったから(笑)。本来人が見せたくない面だったり、意地悪い角度から見るってことでもあるんだけど、いろいろな角度から見る癖は、デザイナーになってからすごく役立っている。印刷にしても、普段やらない方法をするのもそんなインディー気質があるからかも。

イラストレーター・akira muraccoの名刺。ホログラムの紙にイラストや文字を印刷することで、印刷していない部分がホログラム箔加工したように見える。


「楽しさという感覚が導く場所(3/3)」へ続く


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