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【写真/旅】超三次元的猫町 能生地域


場所:新潟県糸魚川市 能生地域


萩原朔太郎の数少ない小説である「猫町」

あれに触れて以来、いつも旅先では自分の中の想像上の猫町を補強してくれるような町を探している。
例えば長野の渋温泉だったり、静岡の由比などがそうで、上海の路地裏もそれに近かった。


本当は自分の家から何間も離れていない所に見つけることができれば最も望ましいのだけど、生憎現在の住まいはすっかり綺麗に整備されてしまっていて、定規で引いたように真っ直ぐな道を行けば例えどんなに酔っ払っていたとしてもすぐに知ったところに出てしまう。

現実逃避願望がどんなに強くても、現実の強固な結合と安定はそれを許してはくれない。

だから僕は遠くへ行く。





糸魚川市 能生地域



8号線沿いの漁村はいくつかまわったが一つ一つが違った表情を見せる。

同じように見えても、山からの距離、街からの距離、そして持っている歴史。住む人々が変われば町も変わる。

この辺りは山へかけての勾配が始まるのが早いのか、家々が坂に載って段を構成していた。

最上段には現在は廃線となった北陸線跡を利用した道がある。
約三層のレイヤ構造となるこの町の筋に入り込むと、地形に沿って緩やかにカーブする道の為、遠くまでは見渡せない。立体迷路の中で時折見える隙間からは別の別の層の一階が見えたり、下は屋根が見えたりする。

小さな十字路にあるベンチでは老人が空を見つめながら煙草を楽しんでいた。

会釈をして通り過ぎる。








弁天岩


すこし歩くと弁天島と呼ばれる巨石があり市杵島姫命を祀っているいわゆる厳島神社になっている。
海に近い町で、近くに島や半島がある所では良く見る光景だ。
陸がわには能生白山神社があり、ちょうど子供達が太鼓の練習をしていたので少し賑やかだった。











道路沿いに戻るより、最後にもう一度だけと町の中を選んだ。


懐かしい景色。漏れ聞こえる人々の声。TVニュースの音。夕方だ。この夕方はいつの夕方だろう。

かつて暮らした町はこんな場所だったのかもしれない。
自分がまだ小さくて、目線が低かったから。夏だったかもしれない。塗り固められたセメント。今よりもずっと近くに見ていた。

換気扇から漂う料理の匂い。温められた醤油の香り。魚の匂いは昔から苦手だった。

すれ違う老婆に挨拶をした、お帰りなさいといわれる。近所の誰かと間違えているのだろう、あるいは。
上下左右前後、すべてが懐かしい。
初めて訪れた筈なのに。本当に初めてなのだろうかと思う。

もしかしたら。






瞬間、目の前には雄大な日本海が広がり轟音を立ててトラックが横切った。

8号線に戻ってきた。



助手席に荷物を放り投げ、エンジンをかける。

曇りなのでよく見えないが、もうすぐ日が落ちる。

無粋なラジオが現代の音楽を流しはじめた。


これから暗くなっていく現実に帰る為、北北東へ舵をとった。





おしまい。


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