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【2-1】ペルソナを正しく捉える─“顧客を知る”
ポッドキャストの学びを記録として残す。
はじめに
ネットビジネスにおいては、「お客様が何に価値を感じ、どのように購入や利用を決めるのか」を正しく把握することが極めて重要である。しかし多くの企業では、ペルソナ(顧客像)の作成やカスタマージャーニーの構築を単なる「手続き」や「お飾り」のように扱いがちで、結局のところ数値解析や広告最適化ばかりに注力してしまう。
今回は、ペルソナとは何か、なぜ重要なのか、そして他の概念(ターゲットやファネル、カスタマージャーニーなど)との違いを整理しながら、「ペルソナを正しく活用することでネットビジネスの成長にどう寄与できるのか」を概観する。
1. ペルソナが求められる背景
1-1. コモディティ化と価値の多様化
インターネットで商品やサービスを提供する時代になると、機能・価格面での差別化は難しくなる。あらゆる製品が「とにかく安く・早く買える」状況に近づき、「機能だけで勝負する」ビジネスは厳しい。ドリルや車の例にもあるように、顧客が真に求めるのは“製品そのもの”ではなく「それを用いて得られる成果」や「使用感の満足感」など多様な価値になっている。
このような時代には、顧客がどんな暮らしの中で、どんな悩みや欲求を満たそうとして製品・サービスを選ぶのかを理解する必要がある。「ベッドを買う人が、実は高級オフィスチェアやアロマとの比較検討をしている」可能性は大いにある。こうした“想定外の比較軸”を発見するためにも、まずは「お客さんが何を基準に選んでいるか」を具体的にイメージできなければならない。
1-2. 顧客の姿を“ありあり”と想像する
ペルソナとは、特定の顧客像を仮想的に設定し、その人の日常生活や行動、価値観、悩み、憧れなどをできるだけリアルに描き出したものである。これによって得られる効果は以下の通りである。
顧客視点のアイデア創出
架空の顧客が「いつ・どこで・どう悩むか」「どういう言葉に反応するか」を想像することで、開発・マーケティング担当者は“現実の顧客への対応”を考えやすくなる。
コミュニケーション戦略の具体化
どんな媒体で、どんなタイミングで、どんなメッセージを伝えると響きそうかが、ペルソナを起点に明確になる。
セールスポイントの見直し
従来は「機能の優位性」で売っていたものが、実は“腰痛対策”や“朝の快適さ”など、別の観点でアピールすべきだと気づくケースが多い。
要するにペルソナは「顧客の壁打ち相手」として、自分たちが提供しようとするサービス・製品をどう受けとめそうかを常に考える指針となる。
2. ペルソナとターゲット、ファネル、カスタマージャーニー
2-1. ターゲットとの違い
ターゲットとは、企業が「この顧客層に対してサービスを売り込みたい」と大まかに選定した顧客グループである。たとえば「40代ビジネスパーソン」「20代女性」など年齢・性別・職業などで区分されることが多い。
一方でペルソナは、ターゲットの中から“代表的な1人”をさらに詳細に描くことで、「どんな日常を送っているか」「どんな行動パターンか」をリアルに想定したものである。ターゲットが集団的・抽象的な概念なのに対し、ペルソナは個人をリアルに想像するためのツールといえる。
2-2. ファネルとの違い
ファネル(購入経路)とは「企業側が用意したサイトや広告などで、見込み客を段階的に絞り込み、最後に購入まで導く流れ」を示すものである。広告→ランディングページ→商品ページ→カート→決済、というように、あくまで“企業目線”で「どのステップを踏むと購買に至るか」を管理するためのモデルである。
ペルソナとはそもそも視点が異なり、「顧客の日常や生活文脈に目を向け、企業のプロセスを踏む前後を含めて行動を推測する」ことを重視する。ファネルだけで考えていると、広告に触れて→LPに遷移して→購入、と一連のフローは把握できても、その手前で顧客が何に悩んでいたか、他にはどんな選択肢を検討していたかなどは見えなくなる。
2-3. カスタマージャーニーとの関係
カスタマージャーニーは「顧客が、自身の課題や欲求に気づき、情報を集め、製品を選び、実際に使い、評価する」一連のプロセスを時系列で整理したものである。ファネルが「企業の販売プロセス」をベースにしたモデルなのに対し、カスタマージャーニーは「顧客が日常のなかで接点を持つ流れ」を重視する。
ペルソナは、このカスタマージャーニーを作り込む際に「日常でどんな行動をしているか」「どのタイミングで課題を感じるか」「どのメディアを使って情報を得るか」などの解像度を高めるための出発点である。
3. ペルソナが活きる具体例
3-1. 腰痛を抱えるビジネスパーソン向けベッド
高級ベッドを売りたい企業が、「40代ビジネスパーソンでデスクワークが長く、腰痛に悩んでいる」というペルソナを想定するケース。
日常行動: 朝8時に出社し、1日6時間以上座りっぱなしで働く。夕方には腰が重い。
課題: 腰痛を何とかしたいが、運動する余裕はあまりない。マッサージや整体に行く時間を取るのも難しい。
比較対象: 高級オフィスチェア、腰痛対策グッズ、整体通いなど。
解決策: ベッドを変えると朝起きたときに腰痛が軽減されるかもしれない。
こうしたペルソナを想定すれば、ベッド会社は「就業後の疲れを癒やす」「慢性腰痛を翌朝までに回復させる」「朝のスッキリ感で仕事のパフォーマンスが上がる」といった訴求点を明確に打ち出せる。また「残業でクタクタになった後、就寝前のストレッチと共にベッドを活用するシーン」など、具体的なプロモーションビデオや広告メッセージも作りやすくなる。
3-2. ドリルの「機能」以外の価値
ドリル購入者において、「ただ穴を開けたい人」ばかりとは限らない。
ものを掘削する行為に快感を感じる愛好家
自作家具に対して“プロ級の仕上がり”を求める職人気質のホビー人
振動音や埃を最小限にして家族に迷惑をかけたくない主婦層
それぞれに必要な機能やアピールすべきポイントはまったく異なる。ペルソナを設定すれば、「振動音に敏感な人」「DIYを楽しむ人」「コンクリートを掘りたい人」などの行動やニーズをイメージでき、そこから広告や製品仕様、販路戦略を練り直すことが可能になる。
4. 数字に埋没しないために
4-1. 広告最適化AIの罠
ネット広告や検索連動広告は、クリック率やCPA(顧客獲得コスト)など数値指標を最適化しやすいため、一見すると“顧客を理解した”気になりがちである。しかし、この手法は同じデータを使う競合と横並びになりやすく、さらにAIが普及するほど差別化は難しくなる。
結局、数字だけを追う最適化では「本質的に顧客がどんな人か」「どのような日常の中で商品を使うのか」の理解から遠ざかってしまう危険がある。
4-2. モバイル時代の接点活用
スマートフォンが普及し、顧客と企業の接点は絶えず生まれ、途切れる。たとえ広告を一度クリックしてくれたとしても、その後すぐ別のアプリに移るかもしれない。そのため「パネル通りにゴールまで導く」という発想より、「顧客のリアルな生活リズムの中で、どの瞬間に課題を思い出すか」を想像する方がずっと大切である。ペルソナが定まっていれば、「昼休憩でYouTubeを見ている時間帯にアプローチする」など、生活文脈に即した接点設計が可能となる。
5. まとめ
ペルソナをただ作るだけで終わってしまうケースは多い。しかし、それは「なぜペルソナが必要なのか」という根本を理解しないまま書式だけ踏襲しているからである。本質は「顧客が自社の製品・サービスを選ぶ瞬間にどう価値を感じているか」を把握することであり、それがカスタマージャーニーやマーケティング戦略に落とし込まれて、初めて企業としての成長が期待できる。
競合や技術が日進月歩で変化する時代だからこそ、数字や機能に囚われない発想が必要
顧客の日常・生活リズムを捉えるカスタマージャーニーの視点を持つ
その前提としてペルソナが“壁打ち相手”として機能し、具体的な行動・心理をイメージさせる
今後さらにAI時代が進むにつれ、広告やデータ最適化だけでは差別化が難しくなる。「どんなお客様を理想的に描き、その人の暮らしにどう入り込むか」を考えられる企業が、新しい顧客価値を生み出す鍵を握るといえるであろう。