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悪夢の白光─デヴィッド・リンチの死に際して
悪夢が白く光っている。ものさしで測ることのできないゆらめきが忍び込んできたのだ。正午の鐘が打たれるとき、社会の輪郭が自らの内側にミシミシとのめり込んでいき、いずれプレートが跳ね上がるのではないか。そんなふうに、未知なる生活と身体の在処が、付かず離れず渦を巻いて回り続け、部屋の天井から悶々が滴るのを眺めている間に、デヴィッド・リンチは死んだ。枯れ果てた泉に流れ着いたリンチの映画が再生されている間、体の内側には返り血が飛び散って跳ね返り、最終盤、突然空中へと放り投げられた体は極限まで引き延ばされ、地球を覆い尽くすほどの瞬間的な生が繰り返された。意識の荒野を紙に写して彷徨い歩けば、自らの頭部を股間に提げたリンチが佇んでいる。舌を使ってその紙を複雑怪奇に折りたたんでいく様には、着実な手順があった。まるで善良という仮面が悪夢の血を吐き出すようにして、くゆらす紙煙草のけむりは地底深くに打ち立てられ、宇宙の端における起床を促した。生物が向かう地の果てに目を向けない酩酊に、あまりにも眩しい魔女の幻影が待っている。もう、耐えることはできないだろう。部屋では万年筆が折れ、インクが血液のように広がっていくのが見える。その諦念の反射がもたらす揺蕩いによって、いま気付かされるのだ。赤子の泣き声が降りしきる大聖堂で、リンチはパイプオルガンを弾き続けている。死がマグマへと流れ、夢を蒸発させるまで。