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悲しみの森

何か悲しんでいるということを目の当たりにして悲しみ、何ができるかとその場をうろつきとにかくまず隣にいる。
何もできない。

ある日、その場をうろつきとにかくまず隣にいたことに対して、ほかの人から「人の気持ちが分かるね」とほめられる。
ほめられると得をする。
ほめられることが好きになってそちらの方へ歩いていくと、だんだん人の気持ちを分かるようになっていく。今この人こうなんだな、と考えるようになる。

唐突に、誰にも分かられないだろう悲しみがくる。
経験した人でなければ分からない悲しみがあるということを、自身がそれを経験する前と後とでは悲しみの手触りがまるで変わってしまったこと、以前の感触へは願っても二度と戻れないことによって知る。

自分の経験したことのあるような悲しみに暮れる人と出会う。
分かる悲しみだ、と気づく。
それなのに、何もできない。
人の悲しみにはふれられないのだと気づく。

何か悲しんでいるということを目の当たりにして悲しみ、何ができるかとその場をうろつきとにかくまず隣にいる。
人の気持ちなんて分からない。
何もできない。
ただそれだけがある。