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贈られたことがないもの2023/07/05
最近の夜は散歩に出て、近所のコーヒーショップで航櫂日誌やブログを書いたり、作品を作ったりしている。
今夜も繁華街を散歩して、お気に入りのコーヒーショップに入った。
特に決まった席はなく、今夜は入り口に近い席に座った。
作業していると、入り口の自動ドアが開き、誰かが入ってきたり出て行ったりするのが目に入った。
しばらくの間作業していると、誰かが店に入ってきた。
入ってきたのはスーツを着た男性だった。
この時間に、会社員がコーヒーショップにいることが多い。
読書をしたり、資格の勉強をしたり、スマホでドラマや映画を見たりしている。
この人もそうかな。
そう思いながら、あたしはその男性を見ていた。
そのとき、その男性の手に持っているものに目が止まった。
その人の手には、一輪の花があった。
その花は、花屋で自宅用に包まれるときに使われる茶色の質素な紙で包まれていた。
普段、男性が花を持っている姿を見たことがない。
というか、花屋で男性が買い物をしている姿を見ない気がする。
だから、その男性を見て「おっ」ってなった。
誰かにプレゼント?
にしては素朴すぎる。
自宅に飾るために買ったのかな?
常に家に花を飾っている人なのかな。
いや、もしこの人が結婚しているとしたら、奥さんへのプレゼント?
だったら、もうちょっとラッピングが華やかなにしてもらうはず。
待てよ。
この花は誕生日とか記念日とか関係なく、ただ奥さんに今日、花を贈りたいと思って買った花だったりして?
もし誕生日や記念日以外のなんでもない日でもラッピングが豪華だったら、誕生日や記念日のときの特別感が半減されると思う。
あたしの頭の中は妄想が止まらなかった。
これが日常的に奥さんに花を贈っているとしたら、その奥さんは幸せ者だな。
良いなあ、羨ましい。
あたしも普段、花屋で良い花があれば、それを買って部屋に飾っている。
誰かの誕生日やお呼ばれがあれば、花を贈ることもある。
花はどんなに高価なプレゼントや美味しいものをご馳走されるとは、また違う喜びと幸福を与えてくれる。
今まで色んな人に花を贈ったが、不機嫌になる人はまずいなかった。
あたしはまだその喜びを得たことはない。
あたしが誰かに花を贈っても、誰もあたしに花を贈ってくれることはなかった。
別に贈ったから、そっちも贈ってよ、という気持ちはない。
ただ、花を贈られたときの幸福と感動を味わってみたいのだ。
嬉しくて涙が出るのかな?
今まで花を贈った人たちのなかで、泣いてしまった人がいた。
そのとき、あたしはどうなるんだろう……。
いつか個展とかポップアップストアをするとき、もしくは何かめでたいことがあったとき、あたしに花を贈ってくれる人が現れるのだろうか。
妄想していると、花を持っていた男性はいつの間にか店からいなくなっていた。
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