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バイスティックの7原則「会話例」

はじめに

 こちらは日本語教師が外国人介護士さんに資格対策コースなどで指導する際の参考になれば幸いです。バイスティックの7原則をご存じだというテイで実際にあった会話を軽く紹介します。私が現場で体験した会話をもとにあてはめただけですので、あくまでも主観であることをご了承ください。
 ただ現場で思ったのは、このバイスティックの7原則を知らないのか理解していないのか全くできない外国人介護士がほとんどでした。たまたま勤務先がそうだったのかもしれませんが、よく日本人職員が「外国人は異文化だから・・・」と困った顔をしているところを目にしました。色々な施設で採用担当と話すと決まって「外国人は異文化だから雇いたくない。雇ったとしても日本人より給料は安くなる。仕方ない」「外国人を雇うほどうちの施設はお金がないわけではない。日本人雇用で十分やっていける」という話をききました。
 やはりこの原則も日本語教育でやったほうがいいように思いますが・・・。
 


バイスティックの7原則

 援助する側と受ける側の信頼関係構築のための行動や考え方のことです。介護現場における利用者様と介護士の関係もこれにあたります。

 言葉は難しいかもしれませんが、日本語教師ならだれでも同じようなことを学習者に対しておこなっていると思います。

場面1 個別化の原則

 その人がその人らしく生きる、そのお手伝いをするために午後のまったりとした何もすることのないお時間には一人一人に合った動作をお願いしています。介助用エプロンをたたんでもらったり、ご家族から預かったお手紙を読んであげたり(何度も同じものを読みます)、ご家族から預かった口腔体操をお願いしたり、、、。

 日本語クラスでも学習者一人一人の伸ばすところは違いますよね。全員同じ進度、同じトレーニングだけの場合もあるかもしれませんが、個別に伸ばしたいところをアドバイスしたり宿題を出したり、、、。

 一人一人異なる能力があり、性格もある。個別に援助することを考え、行動しましょう、ということ。

【実際の会話】午後はテレビを見たり、談話したり、さまざまな過ごし方。
 A:Bさん、Cさん、今よろしいですか。
 B:いいよ。ちょうど退屈してたのよ。
 A:じゃ、おしぼり、おねがいしてもいいですか。
 C:あら。どうやるんだったかね。忘れちゃったわ。
 A:今から一緒にやりますね。
 B:いつもと同じでしょ?私やるわ。Cさんにも言うから大丈夫。
 A:いつも、ありがとうございます。
   じゃ、これだけ全部、ゆっくりでいいですからね。お願いしま~す。

場面2 意図的な感情の表出の原則

【補足】
 表情に出さなかったり、何も言ってくださらないけれど何かが違う、言いたそう、そんなときがあります。
 ため込むと感情を爆発させたり、感情をコントロールできずに暴言を吐いたり暴れたり、粗相をしたり、決していい結果は得られません。
 ひとりひとりの様子は常に目視してはいるものの、職員数や時間に余裕がないと後回しにしてしまうこともよくあります。
 ネガティブな感情はコマメに出していただけるよう信頼関係を築くことも大事です。

【イラストの実際の場面】
 デイサービスや有料ホームでの話ですが、レクでは男性にでもぬり絵を勧めていました。自分の父がもしぬり絵を勧められていたとしたら・・・と考えると気乗りはしませんが、指示には従うしかありません。
 日頃笑顔でもぬり絵をすすめると無表情になったので、「今日はやめときますか?どうしましたか?」とおそばで尋ねると「悪いけどね、ぬりえ、いやだ。もう嫌なんだよ」と。カラオケを嫌がる人もいました。きけば「トイレが気になってしょうがないから。」と。
 こういうことを言ってくれるとその都度対処できたりするので、こちらとしては大変助かるんですが・・・。時間に追われてるとそうもいかなかったりで、いつのまにか我慢を強いていることもあったりします。

場面3 統制された情緒的関与の原則

【補足】
 利用者様が表した感情に対して、職員が共感的に受け止め、自分の感情を自覚しながらも、適切な感情の表出を心がけることが大切です。
 共感とは「相手のものさしで感情を理解する」ことです。「自分のものさしで感情を理解する」のは同情です。
 
【実際のイラスト場面】
 少し前のできごとを忘れてしまう利用者様はよく「声がかからなかった」「もう終わったの?誘われなかった」とご自分が参加したにもかかわらずこのようなことをおっしゃることがあります。次のイベントに案内したり、一緒に歩いたりしているうちに忘れてくれたりもします。
 一人で誰とも会話せずソファに座っていて介護士をにらみつけてくる利用者様がいました。トイレ介助などに追われていて気付くのが遅れてしまい、お声をかけた際には「もう遅いわよ!帰る!」といって帰ろうとするのでおそばに座ってお話をきいた場面がこのイラストです。参加されていたことをすっかり忘れちゃうんですよね・・・。

場面4 受容の原則

【補足】
 こちらの感情は一切出さず、利用者様のおっしゃることを「そうでしたか」「そうなんですね」などの言動や背中に手を添えるような非言語をふくみ全てを受け入れます。「死にたい」というようなネガティブなこともよくおっしゃいます。特に寂しくなったり、薄暗くなる夕方に多かったです。やさしく抱きしめたり背中をポンポンと触れたりしながら「何かありましたか」「どうかしましたか」とオープンクエッションで傾聴することもあります。

【実際のイラスト場面】
 突然「わからない。なんでここにいるの。こわい」というように不安をおっしゃることがあります。少しお話を聞いてすべてを受容し、少し落ち着いてから一緒に少し歩き、再度お部屋へ戻りました。
 ハグしたままお背中を少しポンポンとしてあげると落ち着かれます。外国人介護士さんはこういった距離の取り方はとても上手だと思います。そして安心感があり温かいです。
 職員間でもこの受容は非常に大事で、すべてを受け止めてもらえると気持ちが落ち着き、明日からまた頑張ります!という気持ちの切り換えができます。

場面5 非審判的態度の原則

【補足】職員が自分の価値観だけで、利用者を一方的に否定・非難してはいけないということです。ここではまず安全の確保が最優先なので、何か害を与える行為をしそうでしたらそれを止めます。言動だけではなく行動もヒヤッとすることがあります。
 その後、対象の利用者様を別々の場所へ移動し、お話をききます。否定や非難せず、とにかく何があったのか、どうしてそんな気持ちになったのか、などです。
 「あなた私の服盗ったでしょ!」と言って他の利用者様につかみかかった場面を目撃することもあります。物盗られ妄想です。それでも双方に話をきき、落ち着きを取り戻していただきます。時間に余裕のないときに限ってそうなるので、なかなかゆっくり対応できるわけではありませんが、どの施設でもうまく対応されていました。

【実際のイラスト場面】
 夕方4時にカーテンをしめることをお願いしている利用者さん、たまたま3時頃に閉めようとしていたので他の利用者さんが「まだ明るいわよ」と指摘しました。間違いを指摘され急に激怒しましたので二人を離しました。
 普段は温厚な男性利用者様、ですがこうなると「うっせーよババア。こっちはな俺の気分でやってんだよ!お前にゃ関係ねーだろ!」とそれはもう、別人になります。指摘した利用者様も「そんなに怒らなくたっていいのに」とご立腹。少しお話をきいてからテレビを見ている利用者さんたちのところへご案内し、気持ちを切りかえていただきました。男性のほうはというと、一旦はおさまったんですが、また思い出したかのように火がついて、近寄って杖でつこうとするので慌てて「こらこらっ!」と駆け寄り制止しましたが・・・。

場面6 自己決定の原則

場面7 秘密保持の原則

【実際のイラスト場面】
 デイサービスの送迎で利用者様のご自宅玄関まで同行しますが、イラストのように「本当に人が住んでいるのだろうか」と思うほどの家だったり、「家族と〇人で暮らしています」と会話ではおっしゃるけれど実際には独居だったり、虫がたくさん発生しているお宅だったり、、、スタッフ間では共有するものの他の利用者様や外部には一切漏らしません。
 特養や有料ホームでも3分の1~半数近く生活保護受給者がいらっしゃいます。業務上必要な範囲での共有で、他には漏らしませんのでご利用者様やご家族も安心していただけます。
 例えば有料ホームの話ですが、おやつの種類が生活保護受給者と一般では異なるので、お渡しする際に「なんで違うの?」と言われると、「申請がなかったから」などとサラッと流します。
 利用者の半数が生保というところに勤務した際は最初ビックリしました。生保でも入所できるんだ・・・、息子さんたちご家族もいるのに?なんで?と。でも勤務してすぐにそんなことどうでもよくなりました。職員の人数が少なすぎて、日々の対応に追われていましたから。

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