『空飛ぶ広報室』有川浩
読書感想文なんて、昔は嫌でしょうがなかったけど、書いてみました。
1 あらすじ
ざくっというと、「ブルーインパルスにあこがれて戦闘機のパイロットになり、ブルーインパルスへの内示がでた直後に交通事故で命は助かったもののパイロットは罷免になった主人公」と、「無理な取材で評判を下げて報道記者から異動させられたテレビ局の女性ディレクター」という、第一の夢をあきらめざるを得なかった二人が、空幕広報室の仕事(ドラマやバラエティ番組への協力、CMの作成等)新しい夢を見つけて進んでいく物語です。
さらに、東日本大震災における自衛隊の話も織り込まれています。
本小説の魅力は以下の2点です。
① お仕事ドラマとしての魅力
② 自衛隊広報としての魅力
2 お仕事ドラマとして
まずはずばり、第1の夢を普通は頑張るが、その夢が絶たれたときにどうするか?が描かれているところがすごいです。
そういったときには、「なりたいものになれなくても、別の何かになれる」という言葉どおり、次の夢を見つけていくことができる、というのが答えになります。
例えば、パイロットでなくても、広報で、航空自衛隊を世間の風に飛ばすことができるのです。具体的には、ブルーインパルスに乗れなくても、ブルーインパルスをテレビ番組で紹介する企画をすることはできます。ちなみに、元パイロットが広報に行くことはよくあるらしいです…飛行機のことをよく知っているためだそうです。
また、テレビ局の中でも、報道記者でなくても、自衛隊や社会問題など、他の情報を伝えることはできます。
3 お仕事ドラマとして(公務員的視点)
① 女性幹部自衛官の苦労
幹部コースと普通コースが分かれているので、幹部コースに行った女性自衛官の下には、男性の下士官がくることになる。その時に、どのようにうまくやっていくか?ということが書かれています。その時、わざと男勝りに振るわなければならないのか?あるいは、普通に受け入れてもらえるのか…今でも続く永遠の課題ですが、少しずつ良い方向に向かっていると信じていたいところです。
② なぜ幹部にならないか
幹部にならない下士官の男性職員が出てきます。曰く、幹部だと3年で異動になる。下士官であれば、異動をせずに長くいて、長期的に仕事に携わり、また、人材を育成することができる、というポリシーがあるそうです。
③ ブルーインパルスの異動
直接小説には書かれていないのですが、航空自衛隊の花形広報部隊、ブルーインパルスは必ず3年で異動します。本来は、戦闘機のパイロットであるので、広報という特殊な任務を長くさせないためだそうです。1年目修行、2年目実務、3年目引き継ぎというローテーションは、異動の多い公務員の見本のようなやり方ではないでしょうか?
4 自衛隊広報として
主人公の稲葉リカは、反自衛隊の教師の教えを素直に聞いてきたこともあり、「自衛隊は違憲」「自衛隊は軍隊」と思っていました。私も同じで、「怖い集団」だと思っていました。特に、小学生のころ、小松空港に旅客機を見に行った…はずなのに、戦闘機がばーん、と出てきて(小松空港は小松基地も併設している)、怖かった記憶があります。
それが、広報室と仕事をしていくにつれ、自衛隊への見方が変わっていきます。「自衛官も人ですから」という自衛官の言葉が身に沁みます。
従来のメディアでは、戦闘機をはじめとする装備品に注目されがちでしたが、この小説では、ソフト面…装備を扱っている「人」を見てもらうことになっています。そうすることにより、自衛隊を身近に感じることができました。
自衛隊がなぜ広報に力を入れるか、というと、自衛隊に対する理解が深まれば、例えば、災害支援の際などにスムーズに入ることができるということがあるそうです。
また、この小説を読むと、自衛隊がテレビで取り上げられていると、「広報室が頑張っているな」と思えるようになります。
つまり、自衛隊への理解が深まった自分は、まさに広報の戦略に乗っかっているということになるわけです(笑)。
5 東日本大震災の話「あの日の松島」
小説の出版は、2011年夏の予定であったが、2011年3月に東日本大震災が発生したため、自衛隊を取り扱う小説で、それを取り上げないわけにはいかないと追加で取材し、最後に「あの日の松島」という章をくわえて、2012年に出版されました。
震災時の松島基地の様子が、リアルに描かれています。例えば、「どうして戦闘機が松島基地で水没してしまったか?」
答えは、30分で津波が来ると予想された一方、戦闘機を飛ばすための点検に30分必要でした。そのため、点検していたら、津波の被害にあうと考え、避難を優先したというわけです。
また、自衛官も被災者であるが、支援物資には一切手を付けなかったそうです。
このような、有事に家族のそばにはいられないのが自衛官です。
自衛官の側から見た震災の話が描かれていることで貴重だと思います。
6 おまけ
本小説は、もともと自衛隊をテーマにした小説を書いていた有川浩さんと、当時の「航空自衛隊空幕広報室長」(単行本版のあとがきに登場)の協力により完成したそうです。
2013年にドラマ化されているので、そちらもぜひ見てください!(主人公は新垣結衣と綾野剛、脚本は「逃げ恥」「MIU」の野木亜希子さん。)原作のエピソードを組み合わせて、イメージを壊さず、さらに、恋愛要素もきれいに入っています。
最後になりましたが、なぜ私はこの小説を読んだか、というと、きっかけは、「県庁おもてなし課」で有川浩さんをしり、「公務員」を取り上げた小説はないかと思い、次に「空飛ぶ広報室」を読みました。そこから、自衛隊への理解が深まりました(笑)。