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両替。【ショートショート】

え?両替ですか?

はぁ。まあここは確かにお店ですけど。

特別屋とでもいいますか。はい。

なので両替はちょっと難しいかもしれませんな。

10000円を1000円に崩してくれ?

いやぁ、お客様それは難しいですよ。

なにせお客様の10000円と私のお店の1000円とでは価値が違うのです。両替になりません。

例えばこちらの1000円は、財布を落とした方が交番で借りた1000円です。家に帰るまでの交通費に使われた1000円が巡り巡って私のお店に来た。これは貴重ですよ。両替で使われる1000円とでは重さが違う。

また、こちらの1000円は10年程お守りの中に忍ばされていた1000円です。来るべき「もしも」の為にその人の人生の傍らに常にいた1000円。ずっと奥の手として残されたそれは、ついにパンツとして使われます。コンビニのパンツ。その日その人に何が起きたのかは想像する事しかできませんが。きっと切り札を使う程の壮絶な出来事が起こったのでしょうな。

こちらの1000円は…え?1000円ではなく小銭の束じゃないか?そうです。これは小銭の束。合計1000円です。これは小銭の束であるからこそ素晴らしい。小学生の男の子が両親の手伝いの度に少しずつ、少しずつ貰った10円と50円。その極致の到達点です。彼はこの血の滲むような極致に5回到達してついにゲームソフトを手に入れました。これはその一束です。何故ここに束のままあるか?バラバラになった小銭達を私が血の滲むような努力で集めたんですよ。ははは。いやあ大変でしたよ。しかしその価値がある。

……え?1000円が大切なのは分かった?いやあ、分かって頂けて嬉しいですな。何?じゃあ500円に両替するのはどうか?

……いけませんなお客様。あなたはまだ分かっておられぬようだ。

こちらの500円はある高校生の男の子が財布から小銭をジャラジャラと床に落とした際に、好きな女の子に拾って貰った500円です。彼の中でこれは家宝になりました。だって好きな女の子が拾ってくれたのですぞ!!あなたもわかるでしょう!?

そしてですお客様。ええ、そして。彼はこれを使いました。だからこそ巡ってここにある。何に使ったと思いますか?

……傘です。お客様。彼はある風の強い雨の日、この家宝を傘を買うために使いました。他ならぬその好きな女の子が、持っていた傘を風に破壊されて、困り果てた状態でコンビニに入ってきたのを見たからです。そのコンビニに彼もいた。彼はここしかないと思った。この家宝の使い時はここだ、と。彼女に渡すための傘を買ったのです。この500円にはその男気が乗っかっている。彼の渾身の気持ちが。

何?では100円はどうか。ですと?

……お客様。まだわかっておられぬようですな。

こちらの100円は、とある作家が初めて参加した同人誌の即売会で、初めて自分の作品が売れた時に手に入れた100円です。その重さがわかりますかな?その作家の、絶大な嬉しさがわかりますかな?歓喜に打ち震えた作家は、その100円を家宝とする道ではなく、他の作家の作品を買う道を選びました。そうやってこの絶大な嬉しさを巡らせる道を選んだのです。そして嬉しさのリレーの果てに、ここに辿り着いた。その価値は両替できない。

10円も同じですぞ。この10円は、あと10円あればお釣がピッタリにできるのに~の時の10円です。生活の縁の下の力持ちです。

何!?10円だけエピソードが軽くないかですと!?お客様!!まさかエピソードに順位をつけるのですか!?大切だと思う気持ちにまさか順位を!?

……いえ。こちらこそ失礼致しました。わかって頂けて何よりです。私こそ熱くなってしまい申し訳ございません。

5円も1円も同様です。神社の賽銭箱やなんらかの募金箱に入れられたそれらには、確かな願いが込められている。それはまぎれもなく特別です。

……そうですか。

わかって頂けたこと、とても嬉しく思います。

……時にお客様。

お客様の握られているその10000円。

一体何に使われるご予定のものですかな?

…何ですと?初任給で、家族へのプレゼントの為の10000円?なんだか緊張して喉が乾くから自販機でジュースでも買おうと思ったから両替を頼んだ、と。

素晴らしい!!!

それは、その10000円は、まぎれもなく特別の名を冠されるものです。本当に素晴らしい。

……いえお客様。ですがやはり両替はできません。

なぜならば。

その価値と尊さには、値段はつけられないのです。



ふみーさんの素敵な企画に参加させて頂いております。文字数1837です。おかげで多くの方に物語を読んで頂けてとても嬉しかったです。本日が最終日ですが、素敵な企画を本当にありがとうございました。とても楽しく、幸せな体験でした。また機会がありましたら是非参加させてくださいませ。本当に本当に、ありがとうございました。
そして、「ダレデモダレカ」を、サポートしてオススメしてくださった猫野サラさんに改めてこの場を借りて絶大な感謝を申し上げます。私の自己満足なのですが、とても言葉では足りない感謝の気持ちを、この物語に込めさせて頂きました。本当に嬉しかったです。「本当に」って言い過ぎですが、本当に、本当にありがとうございました。


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