不届きもの連合。【自信作・ショートショート】
やあ。ここに辿り着いたという事は、何か届かぬ思いに手を伸ばす気概溢れる人物だと判断するよ。
君にも何かあるんだね。届けと願う事が。
ようこそ。ここは「不届きもの連合」。
君を歓迎する。
まず連合の説明からしようか。
と、言ってもな。さっき説明した以上の事は無い。
ただ、手を伸ばすもの達の集いさ。手段を選ばずね。
対象は様々だけどね。
しきたりや理をあまりにもみんな無視しているからね、この名前がついた。
所属している人達の話が聞きたい?
君も物好きだなぁ。いいとも。簡潔に言おうか。
そうだな…ある人は星を掴もうとしている。
またある人は虹を渡ろうとしている。
時を越えたい。なんて言ってる人もいるし、世の中の色をすべて混ぜた果てが見たいと願ってずっと色を混ぜている者もいる。
これらはまだ達成できてない人達だが……連合に所属しているもの達の中にもね、少しだけ届いた人達もいるんだ。
確か、人それぞれが感じる価値の違いに魅了された者は今お店を出しているよ。なんだっけか…そうだ、特別屋だ。価値を定めない店だそうだ。
噛めば噛むほど変わる味がする料理を作りたいと願ったものは、今ラーメン屋を出しているな。ソラシドラーメンだったかな。現時点では8段階味が変化するそうだ。凄く美味しかったよ。
何者でもない誰かに祝福をと願った者は概念となって今ラジオをやっている。届いたり届かなかったりするよ。そのラジオの周波数は運の要素が強いんだ。
選ばれなかったものを選ぶと宣言した者は、今ゴミ泥棒と名乗って世界を駆けている。捨てられたものを絶対に逃さないのがその人の信念だからね。何かを捨てようとした時にもしかしたら出会えるかもしれないよ。
まだまだいるけど、とりあえずこんなところかな。
少し届いた後もなお手を伸ばし続ける人達だからね、今も連合には所属しているよ。
え?私かい?
私の話か。…ううむ。いいか。興味を持ってくれた事が嬉しいし、君には話すよ。
そうだな。私は3つの至宝を探している。
名前を、
「振るうこと無き力」
「知られぬ叡智」
「悟られぬ変化」という。
君は見たことがあるかい?
必ずあるんだよ。必ずあるはずなんだ。
だけど私がこれを見つけてしまうと名前が変わってしまうものでね、そこがこの至宝の厄介なところなんだ。でもだからこそさがしているんだ。ずっとね。
さあ、次は君の番だ。
君の話を聞こうか。私にだけ話をさせて自分はだんまりなんて事は無しだよ。
ふんふん。君は物語が好きなのか。
いいね。私も好きだよ。
何?
あははは!そうか!
「世界に見つからなかった名作」を探しているんだね。
どうやら君と私の探し物は性質が似ているみたいだ。
見つけてしまうと名前が変わってしまう。
でも必ずあるよ。必ずある。
何?
見つけてしまったら違うものになるのなら、永遠に見つけられないかも知れない?
あぁ、そうか。
ごめんね。不届きもの連合の、唯一の合言葉をまだ伝えていなかったよ。
「たとえ、届かなくても。」だ。
手を伸ばし続ける事はできるからね。
ここには君の挑戦を嗤うような人はいない。
なぜなら、みんな届かぬ願いにそれでも手を伸ばして届かせようとジタバタもがきまくってる人間しかいないからね。端から見ると滑稽だろうけど。みんな同志さ。一緒に笑おう。
安心して手を伸ばすんだ。
君だけの、願いの為に。
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