好きな人にはいくら時間をかけてでも会いたい
緊張していた。
去年の7月の暑い夏の日、わたしは激しく緊張していた。
なぜなら、生まれて初めて一人で新幹線に乗ったからである。
友達が新幹線を予約してくれて、QRコードを私に送ってくれるシステムだったのだが、わたしは東京駅から、友達は新横浜からの乗車だったのだ。
さらに友達が、「かほちゃん、ちゃんと発券できるかな!?」と、現代を生きる20代なら絶対できるはずなのに、謎の圧をかけてきたので、新幹線の1時間半も前に東京駅に着いた。そしてもちろんあっという間に発券できたので、1時間20分くらい東京駅で暇を潰した。東京駅とはダンジョンである。行きたいカフェに行くのに30分くらい練り歩いたし、いつもここが改札の中なのか外なのかも忘れてしまう。
いつもダンジョンに閉じ込められるけど、今は東京、日比谷、有楽町、銀座のあの雰囲気が大好きだ。
いざ乗車すると、「ド~レミファ~ソ~ラシド~」の曲が私の頭の中を駆け巡っていた。通路を挟んで隣のおじさんが、わたしが迷子にならないように見張っていてくれるスタッフさんだったら良いのに、隠しカメラを探したけど、もちろん見当たらなかった。
そうこうしている内に、あっという間に新横浜に着いた。20分もないのだから当たり前なのだけど。
しばらくすると自動ドアが開いて、友達が大げさに「かほちゃんを探しているよ」というリアクションをとったのが見えた。
大きく手を振ると、またしても大げさに、非常口のマークみたいな格好で友達がこちらに駆け寄ってきた。
アイタカッタヨ~…とまたまたしても大げさに抱擁を交わしたその5分後、新横浜で友達が買ってきてくれたハイボールで乾杯した。新幹線の醍醐味である。
今日の旅の目的は、静岡に引っ越してしまった歯医者の元同僚に会いに行くこと。
そしてその前に、友達と二人で日本平の花火大会を見に行くのだ!
新幹線でやいやいやっている間に、あっという間に静岡についた。1時間ちょっとの旅だ。
「静岡と東京なら遠距離恋愛できるかも」「毎週行くのはキツいだろ」
といった蛙鳴蝉噪な会話を繰り返し、わたしたちは暑い静岡に降り立った。
なんだか分からないけど、東京以外の空の方が青く高く感じる。
まずは飲み物とおやつを買おう!おっと、あんなところに丁度よくスーパーが!!!と思いズンズン近づいたら、「スーパーコンコルド」という名前のパチンコ屋さんだった。
パチンコを打ってあまり玉で飲み物とお菓子を…という考えが浮かばないこともなかったが、今回は時間の関係で泣く泣く諦めて、近くのコンビニへ向かった。
お酒と、1ヵ月くらいは誰とも口づけできなくなりそうな匂いを放つであろうお菓子を購入して、日本平へ向かうシャトルバスへ乗車した。
シャトルバスは細い山道を登ったり下ったりして、夏の西日が厳しかった。
いざ山頂に到着すると、すでにすごい人の賑わい…と言いたいところだが、東京の喧騒に慣れ過ぎているわたしは、花火大会の会場の地面がたくさん見えることに感動した。ちなみに、東京の花火大会は3回くらいしか行ったことがない。東京の花火大会やお祭りは、人がいすぎて風情がないことを知っている。
彼女が提案するお祭りや花火大会はいつも最高だ。何年か前に誘ってもらった琵琶湖の花火大会も、人が少なくて、すれ違う人とペタペタ腕が合わさることもなく、花火大会を純粋に楽しめた。
花火が始まるまで、お酒を飲みまくったり、屋台のご飯を食べたまくったりして夏をエンジョイした。エンジョイという言葉はこの場所にあまり似つかわしくない。
夏の陽が落ちだしてから完全に暗くなるまでの時間は楽しい。まさに花火を心待ちにするのに最適な気温と薄暗さだ。湿った草の匂いも、足元は悪いけど夏の匂いがする。屋台から香る美味しそうな匂いと、ウィーン少年合唱団くらい良いハーモニーを奏でている。
そして時間になり、1つ目の花火が打ちあがった。
普通に眺めている花火だけど、わたしはこういう時に花火師さんの気持ちを考えて涙が出るキモい女なのだ。
きっと花火師さんにとって我が子のような花火を、大切に見ていますよ!と心の中で伝えた。伝えながら泣いた。
わたしは「職人が心を込めて」というのにめっぽう弱い。何かが出来上がった瞬間の職人の気持ちなんかを想像してしまって、涙が出てくるキモい女なのだ(二度目)。
たまや~ととりあえず言って、夏の山頂独特の、暑いんだけど涼しいような空気を全身で味わった。
花火も終わりの時間に近づいて、シャトルバスが混まないうちに、私たちは会場をあとにした。
続く