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『魔道祖師』考察🏹魏嬰の独り言②

日本語版原作第1巻~第4巻を何度も読み返して、いくつかの疑問が浮かび、もやもやをすっきりさせたいと考察+二次創作を書いてみた。
疑問その①藍忘機はどの段階で恋に落ちたのか→『藍湛の呟き』
疑問その②魏無羨にとって藍忘機はどんな存在だったのか→『魏嬰の独り言』
疑問その③夷陵老祖となった魏無羨はなぜあんなに性格が変わってしまったのか→『夷陵老祖零す』と綴ってみた。
創作のヒントになる原作の参照ページを記載。原作と合わせて読むのも面白いかも。

あくまでもいちファンの願望として捉えて頂くと有難い。

✨✨✨✨

帰省



《日本語版原作  第一巻  P183  上段》
白い玉砂利の隙間に空いた小さな穴から、右往左往に往き来する蟻の行列を小枝で遮ると、つつっと一匹の蟻が列から離れて小枝の方にあがって来た。一匹が登るとそれにつられて一筋の黒い列が小枝を螺旋状に登り始めた。一糸乱れずに同じ方向に登る蟻の姿を見ていると、蘭室で講義を強制されていた自分たちを思い出した。決められた道を忠実に辿ることが理想だとは解っている。が、枠の中にはめられれば、はめられるほどに抗う何者かが頭をもたげてきて、気づいた時には違う場所にいた。それが、どのような結果をもたらすかを考えるまでもなく反射的に行動してしまうのだ。
《日本語版原作  第一巻  P179 上段》
金子軒ジン・ズーシェンを殴ってしまったのも感情が高まり、突発的に手が出てしまったことに魏無羨は抗えなかったからだ。
何しろ  金子軒ジン・ズーシェン江厭離ジャン・イェンリーに対する態度は酷すぎる。師姉のなにが気に入らないのか、なにが不満なのか。
江厭離ジャン・イェンリーは魏無羨にとって特別な存在だ。それはこの世の誰よりも安心できる微睡みの中の布団のような感じに近い。彼女の側なら何も警戒することも何も思い悩むこともない。赤児のままでいられる母のような存在だ。だからこそ、守るべき人であり、頼れる人でもあるのだ。 江厭離ジャン・イェンリーの縁談に口を出すつもりはない。彼女が釣り合いの取れた名家に嫁ぐのは道理だし、彼女が幸せになるならそれは魏無羨にとっても嬉しいことだ。けれど彼女を見下すような態度をとる孔雀男はこちらから願い下げだ。師姉を泣かす奴は俺は絶対に許さない!

 結果として江厭離ジャン・イェンリーを悲しませることになるとはその時の魏無羨はまだ気づいていなかった。

ふと、もう少しで握り拳にまで到達する蟻を魏無羨はふるふると振ってみた。蟻たちは脅威的な力で枝にしがみついている。こんな小さな蟻さえ堕ちることが怖いのだ。堕ちたが最後、再び元の列に戻ることは容易ではないことを本能的に察しているのかも知れない。魏無羨がなんだか可笑しくなって「フッフッフ」と苦笑いをしたとき、背後に気配を感じた。振り向くと、藍忘機が渡り廊下からじっとこちらを見ているのが見えた。
思えば、藍忘機は模範のお手本の用な真面目ちゃんで、列からはみ出すことなどないと思っていたが、蟻と違って間違いに気づいたときは自ら穴に身を投じる勇気をもっていることを知った。今まで出会った誰よりも男気のある奴だと魏無羨は気に入っていた。だからこそ、第一の知己として距離を縮めたいと思っていたのだ。なのに、藍啓仁の横やりで顔を見ることもできなくなっていたのだ。久しぶりに藍忘機を見て魏無羨は嬉しくなってはしゃいで声をかけた。
「藍湛!久しぶりだな!見てみろよ!このありんこ!」
すると、藍忘機は一瞬はっと目を瞠るといつもの冷たい双眸できっと睨み、なにやら物言いたげな表情を浮かべると、踵を返して去って行った。
「あ、おい!待てよ、藍湛!」
(まったく、もうちょっと相手してくれても良いじゃないか、ほんとっに素直じゃない奴)魏無羨はその夜、迎えにきた江楓眠と共に蓮花塢にかえることになった。


忘れ形見



《日本語版原作 第二巻  P151 上段》

初夏が過ぎ、湖に広がる蓮は青々とした大きな葉を広げ水面が見えない程だ。産毛のような細かい毛茸の上を玉の様な水滴がふるふると震えながらおちた。六師弟と魏無羨は我先にと小舟の櫓をこいで誰が一番たくさんの花托を摘むか競争していた。
「いいか、蓮ジジイに見つかるな!」
大きな青い葉っぱの間をくぐり抜け、水面に伸びる花托を次々と折ると船床はみるみる緑色に埋め尽くされた。
「師兄、ズルいですよ、そんなに取り込んで何処かの可愛娘ちゃんに差し入れでもするつもりですか?それなら、私達も便乗させてくださいよ❗️」
一番小柄な門弟は口を尖らせてぼやいた。女の子に声をかけるのは恥ずかしいが、魏師兄の後にくっついていれば、きっとチャンスが訪れると信じているのだ。
「何処かの可愛娘ちゃんって誰だよ!」
そう答えたとき、ふとよぎったひとりの美人の顔があった。魏無羨はニヤニヤと思いだし笑いをしながら「ああ、そういえばひとりいたよ。すっごく綺麗なのに氷みたいに冷たくてそいつに睨まれたら、死ぬほど退屈な牢屋に閉じ込められるんだ」
「ええ?そんなに嫌われているのに差し入れたりするんですか?」
「あいつはうわべでは、嫌がってるみたいに振る舞ってるけど、ほんとは仲間入りしたくて仕方ないんだよ!ハハハ」
実を抱え込んでパンパンに膨らんだ花托の実を取り出して口に放りこんだ。すると、甘酸っぱい香りが口いっぱいに広がる。

蔵書閣で毎日軟禁されていたとき、藍忘機に『蓮の実は茎のついている花托のほうが甘い』と教えてやったことがあった。いつもは興味のない冷たい表情の藍忘機が、その時ばかりはついと長い睫毛をあげてこちらを見た。その玻璃色の瞳の奥がさざなみのように揺らいだのを魏無羨は見逃さなかった。「ほうら、食べてみたいだろう?」
そう言って覗き込むと、我に還ったように俯くと
「いらない」とつっけんどんに吐き捨てた。
(やれやれ、こいつは小さい頃から姑蘇藍氏の掟にがんじがらめにされて、きっと食べたいものも欲しい物もずっと我慢してきたんだろうなあ。このままじゃ楽しみも旨い物も知らないうちに死んじゃうぞ。仕方ない、俺が絶対に雲霧に連れて来てやる。)
そう、心に誓ったことを思い出した。とたんにずんとした重いものが胸をしめつけた。いくら、心に誓ったとは言え、もう二度とあの窮屈な雲深不知処に戻ることもないのに、どうやって藍湛を連れて来ると言うのか。それもこれも一時の感情の勢いで取った行動のせいだ。雲深不知処を追い出されただけでは収まらず、そのせいで破談になったことが、実は師姉を落胆させていたことを後で知った。
「ハハハ……」
ばかな自分が情けなくて力なく嗤うと、蓮を持ち上げて水面を覗いた。
パシャリ!
大きな葉の影に青白い小さな水鬼の子供が見えた。黒い穴蔵の様な目をクリクリさせながらも、一向に逃げる様子もなく、魏無羨の持っている蓮の花托を指差した。
「なんだよ、蓮の実が食べたいのか?」
チビ鬼はブンブンと頭を上下に振ってせがんだ。
「ははーん、お前あのくそジジイに可愛がられてた奴だな?」
《日本語版原作  番外編 P92 上段》
蓮の湖の持ち主の親父は魏無羨が、蓮花塢に来た時から蓮畑を牛耳っていて、はすが何本あって何本盗まれたかを正確に把握していた。
魏無羨は幼い頃から波止場の屋台や西瓜畑から無断で食べたり摘んだりしていたが、その分は毎月末に江楓眠が各主人に支払いをしてくれてたお陰で、それが悪いことと気づかずに過ごしていた。
否、『蓮花塢』と言う土地が、江楓眠の統治する地域だからだと言う認識はあったので、この地域での無断拝借は無礼講なのだとうぬぼれていたのだ。それが、このジジイの蓮畑だけは、そんな常識は通用せず、見つかったら最後、採った数だけ鋭い竹竿で叩きの刑に処されるのだった。最近、ジジイの船がやけに早いとおもったら、このチビの水鬼が蓮の実を餌に手懐けられて船を引っ張ってやっているのだ。
「お前に蓮の実をやったら俺には何をしてくれるんだ?」
魏無羨は花托を持ち上げて片方の手をさしのべた。
チビ鬼は目を白黒させて、腰に巻き付けていた白い手拭いを差し出した。これと蓮の実を交換してくれと言うのか。
その白い布にはキラキラと光る糸で何やら模様が織り込まれている。
「なんだ、おまえそんな高価なもの何処から盗んできた?」
問い詰める魏無羨におどおどしながら首を横に振る。そして手拭いを恭しく頭の上に掲げて一礼をして見せる。
「へえ、ぬすんだんじゃないって?貰ったって?どれ見せてみろ」
すると、チビ鬼は手拭いを投げつけると代わりに花托を掴み取り、パシャンと水の中へ潜ってしまった。
「あ、こら待て❗️」声をかけたものの追いかけても仕方ないと思い、ふと手の中の手拭いを見た。白い上等な生地に薄青い糸で記された模様には見覚えがあった。
(これは……!)
姑蘇藍氏の家紋『巻雲紋』。
(へぇー、驚いたな、こんなところであの白装束の手拭いにお目にかかるなんてさ!そういえば、藍湛がいつも懐に入れてたな。まさか、あいつがここに?いや、ないない。あの堅物の藍湛が雲深不知処からでてくるはずがない。きっと藍家の修士が夜狩にでもきて水鬼と遭遇したときにおとしたのかな?いや、まてよ、チビ助は貰ったって言ってたような…)
「魏師兄!どこに隠れちゃったんです?」しばらく考えていたら、六師弟が探しにやって来た。
「おう、ここだ」魏無羨は手拭いを懐に突っ込むとまた、櫓をこいで港へ帰っていった。


___つづく



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